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愚痴吐き

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ジュウゾウは良い具合に腐敗し、蠅が飛び回っていたホワイトマタンゴをようやく食べ終えた。
腐ったホワイトマタンゴの肉は、古くなりすぎた納豆の味に似ていて、あまり美味くはなったが、
それでも食べられないというほどのものでもない。
ジュウゾウは少しだけ、また自分が強くなったのを感じた。


そして、これがジュウゾウの現在のステータスになっている。

STR=5

VIT=5

DEX=3

AGI=3

INT=5

最初と比べれば、そこそこ強くなっていた。
駆け出し冒険者として考えれば、能力的には及第点をくれてやってもいいだろう。

反面、良く言えばバランス型、悪く言えば器用貧乏な能力の上がり方なので、
戦士タイプには力で劣るし、メイジタイプには魔法で劣るのだが。

「よし、これで店の親父に仕返ししてやるぞッ」
拳を握り締め、決意を固めるジュウゾウ。そんなジュウゾウの決意にシルフィーが水を差す。
「やめておいたほうがいいわよ。まだ勝てる相手じゃないわ」
「あの親父、そんなに強いのかよっ」

「というよりもあんたが弱いだけかもしれないけど。
とにかく、あの親父とやり合うならもう少し能力上げてスキル覚えたほうがいいわよ」
「ホワイトマタンゴを完食したのにかよ……」

「あのね、ホワイトマタンゴなんて雑魚中の雑魚モンスターよ。
モンスターランクじゃ一番低い部類なんだから。
それこそちょっと強い一般人なら勝てるっていう程度のモンスターよ」
「ハア……これがチート能力なんて呆れるわ……」

そう言い捨てながらジュウゾウが、テントの中に敷いたゴザに寝転がる。
「無双やハーレムとは縁遠いじゃんかよ……すげえモンスターをあっさり倒して、キャッキャされて、
女にモテまくってさ、ところが想像とは大違いなんだもんな……」

いつものジュウゾウの愚痴が始まった。
シルフィーがまたかと言いたげな表情を浮かべる。
「本当にふざけんなよ……」
誰に向かって言う訳でもなく不満を漏らすジュウゾウ。

転生した異世界では、チート能力を使って好き勝手に生きて、欲しかった物を全て手に入れると誓った。
最高に楽しい世界が待っていると夢見ていた。
現実はどうだろう。

今の暮らしぶりはホームレスと何も変わらない。
酒場の残飯を漁り、道端に落ちている金目の物を拾い、捨てられていたボロのテントで寝起きする生活。
町で見つかる仕事は、どれもきつい肉体労働ばかりでロクなものがない。

冒険者組合から紹介される仕事も似たり寄ったりだ。

(面白くねえな、これじゃあ、前の世界のほうがまだマシだぜ……)
あっちの世界にジュウゾウの居場所はなかった。

友達も恋人も居なければ、世間のどこにも身を置くところがなかった。

身内であるはずの家族からは冷ややかな視線を向けられ、
バイトでもいいから仕事を探せとせっつかれた。

家の中にいるのも針のむしろ状態で、だから自室に引きこもってはネットの世界で時間を潰した。

ネットの世界にいれば、一時的にでも嫌なことを忘れられたからだ。

それで気づいたときには三十路を迎えていた。
テントに空いた穴から空を見上げる。今日も晴れやかな青空だった。

それがなんだか面白くない。

身を起こしたジュウゾウは、シルフィーに「何か面白いことねえか」と尋ねた。
「ないわね。何か面白いことを見つけたいなら自分で探してみるべきよ」
素っ気なく答えるシルフィー。
しょうがねえなとジュウゾウはテントから這い出すと、とりあえず冒険者組合に向かった。
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