彼女を待たせていた、彼は

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03 色々?

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野心を抱くヴィクターが、侯爵令嬢シンシアと深い仲になるのはすぐだった。
五つ年上のシンシアには離婚歴があると言う。とはいえシンシアの方に瑕疵があったのではなく、元夫とやらがとんでもない浮気男だったらしい。

「証拠を突き付けて縁を切ってやったわ」
「そんな奴、シンシア様に捨てられて当然ですね」
「こら僕、二人きりの時に敬語なんて野暮な言葉遣いしちゃダメよ」
「分かったよ、シンシア」

「僕」扱いも悪くないな、とヴィクターは思った。
姉貴ぶる女から世話を焼いてもらえるのは楽で良い。

関係を深める前、ヴィクターは「女がいるはいる」とシンシアに告げた。こういう矜持の高い女には正直に申告する方が効果的だと判断したのだ。
案の定、シンシアは「平民娘なんて捨て置きなさい」と敵愾心を剥き出しにした。

「わたくしが良い生活をさせてあげる。ガラクタは要らないでしょ」

上手くいった、とヴィクターは内心にほくそ笑んだ。
女は競わせるに限る。

週末の夕べ。
ヴィクターはシンシアの買い物に同伴した後、食事に向かった。

「今日は俺が奢るよ」
「まあ。楽しみだわ」

そしてレストランの前で、知った顔と鉢合わせた。

「ヴィクター? え? そちらは……」

普段よりドレスアップして聊かなりとも華やかになったレモンは、訳が分からず目を白黒させている。
ヴィクターはと言うと、今に至るまで完全にレモンとの約束を忘れていた。
そう言えば予約時に、レストランの店員がヴィクターの名前を聞いて困惑していたような気がする。
あれは「既に同じ名前があるけど。この人もう予約してるんじゃないの?」という顔だったのだ。
しかし普通に考えて高級レストランの予約を忘れるバカはいないから「いやいやまさかね。同姓同名の人なのさ」と店員は勝手に納得した。

まずヴィクターは「キャンセル料が要る……」と認識した。
それからシンシアの肩に腕を回して抱き寄せ、待ち惚けのレモンに言ってやった。

「あー、こちらの侯爵令嬢と付き合う事になったから」
「え? 何言ってるの、ヴィクター?」
「お前とは別れる。お前も、俺ほどでなくても釣り合う男を見付けろよ」
「――、――」

絶句して立ち尽くすレモンの白い顔を、シンシアが下から覗き込むようにした。

「そういう事。ヴィクターの事はお忘れなさい、眼鏡の似合う平民娘さん。まさか侯爵家のわたくしと戦うおつもりではないでしょう?」
「――、――」

ヴィクターはやれやれと息を吐き、シンシアを促した。
レモンの絶句に付き合う気は無い。腹が減った。

「まあ、そういう訳だ」

悪びれずに告げ「じゃあな」とレモンの脇をすり抜けて入店する。
その際、予約を一件キャンセルした。幸い、キャンセル料はシンシアが払ってくれたのでダメージゼロで済んだ。



翌週。
隊内でヴィクターとシンシアの事が噂になっていた。
どうもレストラン内に陸軍のお偉方が居合わせていたようで、知った顔の若いカップルを目撃したらしい。けれど声を掛ける無粋はしなかった。
その話をした同僚は、正面玄関の左側に向かいながらヴィクターに訊いた。

「なあヴィクター、お前って侯爵令嬢と結婚するのか?」
「ああ多分な」
「ならこの仕事も辞めるワケだな」
「必然そうなるな」
「そうか。まああのお嬢様、色々あるけど頑張れよ」
「おう。――色々?」
「時間だ。私語は慎め」

困惑を残しつつ、ヴィクターはいつものように右側に立った。
色々とは、例えば何色だ。



その日の内に、シンシアに色々あったと判明する。

夕べになった。
シンシアの馬車が、仕事上がりのヴィクターを迎えに来なかった。
「約束してたよな?」と首を傾げながら徒歩で城下に向かう最中、ヴィクターはこちらに向かって来る侯爵家の使いとやらの馬とかち合った。

「ヴィクター様、シンシアお嬢様からの伝言です」
「ひょっとして彼女、具合が悪いとか? 見舞い行きます?」
「いえ、侯爵邸には二度と顔を出さないでください」
「は――?」
「お嬢様は病気ではありませんが、えらい事になっておりまして。と言いますか邸内がもうどえらい事に――私も転職活動に大忙しです」
「は、――は? いやいや、あんたの事情より彼女の事情を教えてくれよ」
「すみません、やる事が多いのでもう失礼します。貴方にも追って沙汰があると思いますが、どうか気を落とされませんよう。まだお若いんですからどこにでも行けます。何でも出来ます」

謎の励まし文句を言うや使いは「は」という掛け声と共に馬で駆け去って行った。
ヴィクターは一人「は?」を繰り返した。





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