生きずらさを感じる少女、異世界に転生する

AOI

文字の大きさ
6 / 15

6

しおりを挟む
会議の間、重苦しい空気が城の大広間を覆っていた。
地図の上に並べられた駒は、隣国と聖国の境を示している。聖国は「自分たちこそが選ばれた人種」だと掲げ、周囲を侵略し始めているという。

「時間はまだある。しかし、このままでは我が国も遅かれ早かれ戦に巻き込まれる」
国王の言葉に、場の空気が凍り付く。

私は深呼吸をして、手を挙げた。
「……城壁の造りを変えてはどうでしょうか」

重臣たちの視線が、一斉に私に向けられる。
「従来の円形の城壁では、死角が多く、守りきれません。稜堡――つまり角を張り出すように城壁を設計すれば、互いに死角を補い合える。鉄砲があれば、なおさら強固に防衛できます」

「鉄砲?」
国王が目を細める。

私は頷いた。
「火縄銃という武器です。火薬と弾を用いて、遠距離から敵を撃つことができます。時間はかかりますが、私が知る限りの仕組みなら、この国でも作れるはずです」

広間にざわめきが広がる。信じられないという顔もあれば、期待に満ちた瞳もあった。
国王はしばらく沈黙し、それから力強く言った。
「葵の提案を検討しろ。時が我らを待たぬ。すぐに準備を始めるのだ」

会議はそのまま終わり、私は深い疲労感を抱えて自室に戻った。
ドアを閉め、背中を預けて大きく息を吐く。

――コン、コン。

ノックの音。返事をする前に扉が開き、王女が入ってきた。
「葵……」

彼女は真剣な顔をしていた。
「どうして、黒髪と黒い瞳を隠しているの?」

胸が跳ね上がる。もうごまかすことはできない。
私はベッドの端に腰を下ろし、視線を落とした。
「……本当は、生まれつきなの。黒髪も黒目も」

「でも、それって――」

「ええ。この国では王族の証だって知ってる。だから、隠してた。私は王族なんかじゃない。ただ……普通に、人と関わって生きたいだけ」

王女は私をじっと見つめた。
怒るでもなく、責めるでもなく、ただ静かに受け止めるように。

「正直に話してくれてありがとう。……私だけが知っていればいいわよね?」

その言葉に、喉の奥が熱くなる。
「……うん」

王女は微笑んで、そっと私の手を握った。
「なら、私が秘密を守る。だって、葵は大切な友達だから」

その一言で、心の奥に積もっていた氷が溶けていくような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜

☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。 しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。 「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。 書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。 だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。 高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。 本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。 その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

異世界ファンタジー的短編まとめ

よもぎ
ファンタジー
異世界のファンタジー的短編のまとめです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処理中です...