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――それは、逃げられない瞬間だった。
城の中での「自由」は、外界から隔離された鳥籠にすぎなかった。十日間、王女と過ごす時間は穏やかで、彼女の笑顔が唯一の救いだったが、城内の視線は日に日に冷たくなり、葵は異物として扱われていった。食堂に出れば、兵士や侍女たちがひそひそと囁き、廊下を歩けば避けられる。葵は、もはや自分が「異端の存在」としてしか見られていないことを痛感した。
だからこそ、決断した。
――もう、隠すことはできない。すべてを伝えよう。
王女にそう告げたとき、彼女は黙って頷いた。迷いも恐れもない瞳で「一緒に行く」と言った。
謁見の間。国王、宰相、側近たちが揃う重苦しい空気の中で、葵は王女の隣に立った。やがて、深呼吸をして――ウィッグを外し、瞳を覆っていたカラコンを外す。黒髪、黒い瞳。その瞬間、場にざわめきが走った。
「やはり異端者か……」
「忌むべき色……」
囁きは刃のように突き刺さる。葵は震える唇を押さえながらも、真っ直ぐに言葉を紡いだ。
「私は……この国の生まれではありません。遠い異世界――『日本』という国から来ました。この知識も技術も、その世界から持ち込んだものです。けれど、ここを傷つけるためではない。ただ――この国を守りたい、それだけなんです」
言葉は静かに響き渡った。しかし、国王の眼差しは鋭く、疑念は消えない。重臣たちも顔をしかめ、空気は張りつめていた。
だが、そのとき。宰相が国王のもとに歩み寄り、何事かを耳打ちする。国王の瞳が揺れ、やがて大きく息を吐いた。そして一冊の古びた本を取り出す。
「葵。これを読んでみよ」
差し出された本を開いた瞬間、息を呑んだ。――それは、日本語で書かれていたのだ。震える手でページをめくる。そこには、この国の成り立ち、初代王が異世界から来た人物であること、そして彼が「日本」という同じ場所から来たと記されていた。
読み終えたとき、葵は涙がこぼれそうになった。自分は一人ではなかった――だが、その代償はあまりに大きい。
国王は深く頭を垂れた。
「葵……異世界の来訪者よ。そなたの言葉を疑ったこと、許してほしい。我らはそなたを、この国の恩人と認める」
その場にいた宰相も、側近も、次々に頭を下げる。異端の視線は、一転して敬意と畏怖に染まった。王女は小さく微笑み、葵の手を握った。
だが葵は理解していた。
――もう、普通に暮らすことはできない。
一度「異世界の来訪者」として知られてしまった以上、誰も葵を「ただの少女」として扱うことはないだろう。尊敬も、畏怖も、疑念も、そのすべてが「普通の生活」を遠ざける。
謁見の間にひれ伏す人々を見渡しながら、葵は小さく息を吐いた。
自分の未来は、この瞬間から大きく変わってしまったのだと――痛感しながら。
城の中での「自由」は、外界から隔離された鳥籠にすぎなかった。十日間、王女と過ごす時間は穏やかで、彼女の笑顔が唯一の救いだったが、城内の視線は日に日に冷たくなり、葵は異物として扱われていった。食堂に出れば、兵士や侍女たちがひそひそと囁き、廊下を歩けば避けられる。葵は、もはや自分が「異端の存在」としてしか見られていないことを痛感した。
だからこそ、決断した。
――もう、隠すことはできない。すべてを伝えよう。
王女にそう告げたとき、彼女は黙って頷いた。迷いも恐れもない瞳で「一緒に行く」と言った。
謁見の間。国王、宰相、側近たちが揃う重苦しい空気の中で、葵は王女の隣に立った。やがて、深呼吸をして――ウィッグを外し、瞳を覆っていたカラコンを外す。黒髪、黒い瞳。その瞬間、場にざわめきが走った。
「やはり異端者か……」
「忌むべき色……」
囁きは刃のように突き刺さる。葵は震える唇を押さえながらも、真っ直ぐに言葉を紡いだ。
「私は……この国の生まれではありません。遠い異世界――『日本』という国から来ました。この知識も技術も、その世界から持ち込んだものです。けれど、ここを傷つけるためではない。ただ――この国を守りたい、それだけなんです」
言葉は静かに響き渡った。しかし、国王の眼差しは鋭く、疑念は消えない。重臣たちも顔をしかめ、空気は張りつめていた。
だが、そのとき。宰相が国王のもとに歩み寄り、何事かを耳打ちする。国王の瞳が揺れ、やがて大きく息を吐いた。そして一冊の古びた本を取り出す。
「葵。これを読んでみよ」
差し出された本を開いた瞬間、息を呑んだ。――それは、日本語で書かれていたのだ。震える手でページをめくる。そこには、この国の成り立ち、初代王が異世界から来た人物であること、そして彼が「日本」という同じ場所から来たと記されていた。
読み終えたとき、葵は涙がこぼれそうになった。自分は一人ではなかった――だが、その代償はあまりに大きい。
国王は深く頭を垂れた。
「葵……異世界の来訪者よ。そなたの言葉を疑ったこと、許してほしい。我らはそなたを、この国の恩人と認める」
その場にいた宰相も、側近も、次々に頭を下げる。異端の視線は、一転して敬意と畏怖に染まった。王女は小さく微笑み、葵の手を握った。
だが葵は理解していた。
――もう、普通に暮らすことはできない。
一度「異世界の来訪者」として知られてしまった以上、誰も葵を「ただの少女」として扱うことはないだろう。尊敬も、畏怖も、疑念も、そのすべてが「普通の生活」を遠ざける。
謁見の間にひれ伏す人々を見渡しながら、葵は小さく息を吐いた。
自分の未来は、この瞬間から大きく変わってしまったのだと――痛感しながら。
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