結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

文字の大きさ
6 / 32
本編

六話 呼び出し

しおりを挟む
 侍従長はさすが立場があるのか仕事が早く、指示してすぐ複数人の使用人が派遣された。
 皇宮に勤めだけあり、相応の能力はあったので後は手っ取り早く上下関係を叩き込むだけで済んだので、予想よりも大して苦労しなかった。
 途中で侍女長が何か喚きながら入ってきたが、うるさかったので吊り上げて庭に干した。
 天日干しにしても最初はうるさく叫んでいたが、時間経過するにつれ音量が下がっていき、一日経った頃には静かになった。
 それなりに高齢なので、もしや死んだかと思い確認したが、息はあったので問題ないだろう。

 そんな感じで、使用人を揃えさせ、適度に調教しながらも快適に過ごしていたカイル。
 ある日ライナルトから呼び出しがあった。
 要件は聞いてないし聞く気もないカイルは、用があるならお前が来いと伝えるように、要件を伝えに来た侍従長に指示し。
 そして侍従長によりオブラートで大量に包まれたその言葉を聞いたライナルトは、自分が呼び出されるというのは許せなかったのでお前が来いと伝えるよう指示され、蜻蛉返りでカイルの元へ。

 その後、折れる気が一切ない二人はお前が来いという伝言ゲームをひたすら繰り返した。
 そんな延々続くやり取りに、ライナルトの側近の一人がもう無理やり連れてくればいいだろ、と侍従長に言った。
 命知らずもいいところである。

 侍従長はもちろん命は惜しかったので出来ないと断ったら、側近がならば自分が行こうと言い出した。
 そんなに生き急いでどうしたのだろうか。
 侍従長は優しさで、カイルはやべぇ悪魔みたいな奴なので気をつけるように忠告した。
 けれど側近はその忠告を大して取り合わず、適当に流して離宮まで向かった、Ωというだけで相手を嘗めていたので。

 玄関で騒ぐ側近は、出来る限り静かに、もう呼吸音も心臓の鼓動も静かに心がける使用人が止めるが、そんなん知らんとばかりに静止を一切聞かずに騒いだ。
 結果。
 連日深夜まで読書に勤しみ、明け方に寝ていたため体内時計とち狂ったカイルの眠りを妨げたため、強制的に帝都お空の旅(負傷死亡自己責任)五時間コースに旅立つこととなった。
 自業自得と言えば自業自得、この側近は今後、人の忠告を聞くことになるだろう。

 障害物を自力で防ぎ、何度か擦りながらも生きて返ってきた頃にはとても静かになっていた。
 とても静かに震え、その場を立ち去ろうとして腰が抜けていたので立てず、這って帰ろうとした。

 その姿を、五時間の間で二度寝して目が覚め、服着替えて紅茶を入れさせゆっくりティータイムまでキメてるカイルは、心底愉快げに笑って眺めた。

 ごめん。
 ごめんなルイス(侍従長の名前、覚えなくていい)、あんな温室でぬくぬく育ってそうな生っ白いΩが怖いとか情けねぇとか馬鹿にして。
 ありゃ確かに悪魔だ。
 カイルの笑い声をBGMに、側近は必死の匍匐前進で進みながら、心の中で真摯に侍従長に謝った。

 けれど、両者共に相手を呼び出し続ける状態は変わらず、仕方なくライナルトの執務室とカイルの離宮の中間地点を計測して割り出し、そこに急遽席を設けることとなった。

「要件は?」
「伝えさせたはずだが?」
「聞く気が起きなかった、今言えば聞いてやる」
「……そうか」

 どこまでも偉そうなカイルに、怒りが湧いたライナルトはけれど落ち着いて話し合えと言われていたので、仕方なく冷静になろうと努めて、まずは世間話から始めた。

「お前、なんでこの国に来たんだ?」

 話題のチョイスは最悪だったが。
 カイルは一瞬国から出て行けって言ってんのかと思ったので、瞬間的に拳を握りしめたが、すぐに単純な疑問を聞いてるだけだと察して力を緩めた。

「親が勝手に国に俺を推したんだよね、だから仕方なく」
「お前がその程度で素直に従うような人間かよ」

 当たり前のように、カイルを理解しているように言い切るので、へぇとちょっと感心したカイルはちょっと笑った。

「良く分かってんじゃん」
「ここまで見てれば馬鹿でも分かる」
「馬鹿は十年以上見てても分からないんだよ、だから俺に嫁げと言えるんだ」
「……確かに」

 ふむ、と頷いたライナルト。
 残念ながらカイルに今回の結婚を指示した実家の誰かは、国を通して命じればカイルが従うと思っていた馬鹿だった。

「それで、どうしてだ?」
「別に、特別な理由がある訳じゃないよ」

 そう、本当に特別な理由はない。
 例えば、皇帝を暗殺してやろうとか、帝国を内部崩壊してやろうとか、逆に掌握してやろうとか、そんな大それた理由じゃない。
 ただ、強いていうなら。

「お前が治める帝国を、見てみたかったんだよ」
「は?」
「それだけ」

 そこまで行って、そろそろ話し合いにも飽きたカイルはもう用がないなら帰る、と席を立つが、ライナルトに呼び止められる。
 要件は別にあるので、あくまでついでに聞いただけだ。
 この程度の質問のために、ここまではしない、暇じゃないのだ。

「夜会がある、俺のパートナーとして出席しろ」
「ヤだ」
「……」
「……」

 即答で拒否されたライナルトは、黙ってカイルを見つめ、カイルも黙って見つめ返した。

「衣装は仕立てさせる」
「ヤだ」
「まずは採寸だな」
「ヤだ」
「装飾品は勝手に買え」
「ヤだ」
「……」
「……」

 勝手に話を進めるライナルト、ひたすら拒否するカイル。
 ともに譲歩する、譲る、考慮する、遠慮する、といった単語がそもそも辞書に存在しない二人は、ただ無言で見つめ合った。

「俺だってわざわざ参加してるんだ、お前も参加するべきだろ」
「俺に関係ないし、お前が一人で行けばいい」
「は?」
「あ?」

 気の短い二人はキレそうになり、どうにか気持ちを落ち着かせるため深呼吸し、もう一度向かい合って交渉を続けた。
 二人とも気に入らないことをいうやつの口は物理的に黙らせたいタイプだったのに、やりたいことを耐えたのだ、褒められて然るべきだがその場には誰もいなかったので褒められなかった。残念。

「率直に聞こう、なぜ嫌なんだ?」
「まず、頼みがあるなら頭を下げろ」
「チッ」

 カイルの言葉に心底不愉快げなライナルトは、脚を組んだまま腕まで組み、椅子の上で背中を倒し、側頭部を背もたれに乗せた。

「これで満足か?」
「お前は本気でやってんの? それとも煽ってんの?」
「頭はお前より下にあるだろ」
「そうだな、俺が立ってるからな」

 頭の下げ方を知らないのか、下げる頭なんて持ち合わせていないのか、下からカイルを見下ろしてるライナルト。
 頭を下げると言いながら偉そうにしているライナルト、その態度に苛立つカイル。

 そこまで耐えて、やっぱり気の短い二人の話し合いは殴り合いに移行し、魔法まで使うガチファイトに発展した。
 どちらが先に手を出したのかはもう誰も憶えてないが、最終的に両者共に軽傷で終わり、皇城の一部が壊れた。
 城より頑丈な二人の喧嘩の余波で城が壊れたので、その修復の間は夜会は延期になった。

 延期になっても無くなるわけではないので、目的は二人の存在を貴族らに見せることなので、残念ながら不参加というわけにはいかないのだ。
 なのでどうにか参加させなければならない、誰かがカイルの首を縦に振らせる必要がある。

 そこで、今まで何度も気乗りしないライナルトを宥めて、どうにかこうにか会議とか式典とかに出席させてきた実績のある、乳兄弟でもある側近に全部任せることとなった。
 実は今回の夜会にライナルトが参加すると決めたのにもこの側近の努力があるので、こいつならカイルもできるだろうとみんな押しつけたのだ。
 そして真面目な側近、引き受けたからにはどんな無茶もこなして見せると向い、見事カイルを頷かせた。
 魔法のような手腕だった。

 なお、人の手による採寸を受け入れなかったカイルの為に、宮廷魔術師は大急ぎで全自動で採寸する魔法具を開発することになった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
 社交界での立ち回りが苦手で、夜会でも失敗ばかりの僕は、一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないんだと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の宰相様と婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、正式に婚約が発表される日を楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都からは遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていたのに、その後も貴族たちの争いに巻き込まれるし、何度も宰相様にも会うことになってしまう。何なんだ……僕はここが気に入っているし、のんびり暮らしたいだけなんです! 僕に構ってないで諦めてください! *残酷な描写があり、攻め(宰相)が受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

勇者パーティーを追放された「生きた宝箱」、無愛想な騎士団長に拾われて宝石のように愛でられる

たら昆布
BL
勇者パーティーを追放された魔法生物が騎士団長に拾われる話

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~

蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。 転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。 戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。 マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。 皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた! しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった! ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。 皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。

処理中です...