結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

文字の大きさ
10 / 32
本編

十話 毒

しおりを挟む
 手の中のグラスを揺らし、ちょっとカイルは笑みを浮かべながら中身の液体を眺めた。
 一見して見た目に可笑しな点はない、匂いも普通、味は確認してないがこの分だと毒とは気付けない可能性が高そうな液体。
 けれど今嵌めている指輪はしっかり毒と判断している。
 毒を判断する遺物が反応したんなら、つまり毒だ、これに関しては信用していい。
 さてこれをどうしたものかとちょっと考えたカイル、試しに隣に座ってるライナルトに勧めてみようと閃いた。
 どんな毒かは気になるが、自分で試す気にはなれないし、現状詳しく調べるのは難しいので、誰かに飲んでもらうのが一番早い。

 とはいえ、ただ状況的に普通に声を掛けるのは難しいので、魔法で鼓膜を直接振動させた。
 こちらの魔法はカイルが学院時代に作った魔法だ、結構繊細な制御が必要なので、実用に足るまでに友人や同級生の鼓膜が数十回破れた、耳が吹き飛んだりもした。
 そんな数多な犠牲のもとに、安全に使用できるようになった魔法で、ライナルトに声を掛ける。

『ねぇ、ラ、ライ』

 声を掛けようとして、そういえばコイツの名前何だっけとなったて止まった。

 完全に忘れたわけじゃないぞ。
 なんせカイル、雷帝っていう呼び名は覚えいるので、後ライまでは出て来る、つまり全く覚えて無かったわけじゃない。
 ライまでは出てるのだ、ただその後に何が続くのかが思い出せない、聞いたはずなんだが。むぅ。

 一回は確かに覚えたし、呼んだ記憶もある。
 ただ、こう、その一回から今まで呼ぶ機会あまりにもなかったものだから、忘れている事実にすらすっかり気付けなかっただけで。

 対して、いきなり耳元にカイルの声が聞こえ、少し驚いた様子のライナルトはチラリとカイルを見る。
 思い出そうと若干顔を顰めて思考に耽るカイルに、怒ってんのかこいつと一瞬思って。
 けれど直ぐに思い直す、こいつ悩んでるだけだな、そう判断して何事もなかったように視線を戻した。
 なお、カイルの姿を斜め後ろから見えた近衛がこわばった、普通に怒ってると思ったので。
 理解度の差が如実に出ている。

『ラインハルト?』
『ライナルトだ馬鹿たれ』

 頭の中にそんな声が響いた。
 ライナルト、そう、確かそんな名前だった。
 カイルは思い出せてちょっとすっきりして、若干だが微妙な気分になった。
 頭の中に響いたライナルトの声を、念話の魔法だなと判断したので。

 念話。言葉や文字を使わず、思考や感情を直接相手に伝える魔法。
 結構高度なこの魔法で、練習とかよりもセンスとかがものを言う。
 つまりこんなリアルタイムで相手の頭の中に言葉を伝える、というのはとんでもなく難しいことと、ライナルトは難なくやってるわけで。

 そして、カイルは上手く使えない部類の魔法だ。
 だからこそ鼓膜を揺らして言葉を伝えるっている、ちょっと似たような効果の魔法を作ったし。
 カイルに出来るのは精々、あらかじめ任意のタイミングで特定の言葉を伝える程度、それも事前に相手に仕込んでおく必要がある。
 なのでソレを当たり前みたいに熟すライナルトに、少しばかりに複雑な感情を抱いた。

『そんなことより』
『どんなことですますなよ』
『しつこいなぁ、そういうお前は俺の名前覚えてんの?』
『そりゃ、あれだろ、ほら、…………何だっけ?』
『カイルだよ』
『そう、それだ』

 文句言ってる、ライナルトもカイルの名前を憶えていなかったらしい。
 間違いなくライナルトより短いから覚えやすいはずなんだが、覚える気が全くなかったもので完全に忘れていた。
 だってお互いの呼称はお前でいいし、第三者に対して形容するときはアイツで済む。
 驚くことに呼ぶ機会ないんだよな、そんなに接点ないし。
 驚くことに、この二人は婚姻関係にある。

『それよりさ、飲む?』
『なんだそれ』
『毒』
『捨てろそんな物』

 そんな言葉と共に、顔も視線も向けることなく、何の動作もなくカイルに向けて衝撃の魔法を放つライナルト。
 対するカイルの方も、前を向いたまま平然とその魔法を防ぐ。
 一瞬の間の攻防は誰にも気づかれることなく、そして何の被害も出さずに終わった。

 ライナルトが狙ったのはカイルではなく、右手に乗せているグラス。
 正確には手ではなく人差し指一本立てて、その上に乗せているが。
 一見不安定に見えるがそんな事はない、なんせ実際には魔法で固定しているので、人差し指は添えてるだけ、手を離してもグラスは重力に逆らい空中に浮きあがる。

『誰だよ毒提供してるのは』
『あそこの、今テーブルの近くを通った奴』
『あぁ、アイツか』
『そうそう』
『なぁ、あの給仕、王国の人間じゃないか?』
『そうなの?』
『お前に付いてきた奴の一人だろ』
『そうなんだ』
『なんで知らないんだよ』
『あまりに興味が無くて』
『おい』
『どうせその内追い返すつもりだったし、顔なんて覚えなくていいかなって』

 追い返すつもりだったが、軽く忘れて放置していたが為に今日まで帝国に残っていたんだろう。
 そして今毒の配膳をしている、と。
 さてこの場合、少し面倒な事になる。
 なにせアレは一応はカイルが連れてきた人間だ、そいつが毒を配ったとなると、自動的にカイルが疑われる床になる、なんなら無関係でも責任に問われてしまう。
 全く面倒なこと、だったらさっさと国に帰すべきだったが、それをしなかったカイルの落ち度なので仕方ない。

『一応聞くが、やってないよな』
『俺が? 毒殺を企て? しかも態々人を使って? やると思うの?』
『そうだな、お前なら直接殺しに行くよな』
『人を使うより俺が直接動く方が確実だし信用できる』
『それもそうだな』

 そんな軽口を叩き合いながら、カイルは給仕を人目につかないように魔法で意識を失わせる。
 そのまま天井付近まで持ち上げた、人ってのは意外と上は見ないものなので。
 それから、手ごろな物陰に放置し近くの人間にちょっと回収するように指示する。

 それにしても、なるほど、王国の人間だったらしい、どうりで違和感があったんだな。
 全く覚えて無かったが、一応存在を認識したことは有ったので、記憶の隅にギリギリ残っていたのだろう。
 全く信用できない人間、であることは前提にあったから、怪しくなっちゃったのかね。
 納得したカイルは、近日中に全員王国に追い返そうと決めた、邪魔にしかならんし。

『王国の人間、となると、黒幕がいるな』
『だろうね、心当たりは?』
『ありすぎてわからん』
『あっそう』

 カイルが給仕を回収したのを確認したライナルトは、さて誰が黒幕かなと思いを馳せた。
 心当たりが多過ぎる。
 なんせ、ライナルトの帝位に就いた経緯が、まず簒奪と呼べるような方法だったので。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
 社交界での立ち回りが苦手で、夜会でも失敗ばかりの僕は、一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないんだと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の宰相様と婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、正式に婚約が発表される日を楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都からは遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていたのに、その後も貴族たちの争いに巻き込まれるし、何度も宰相様にも会うことになってしまう。何なんだ……僕はここが気に入っているし、のんびり暮らしたいだけなんです! 僕に構ってないで諦めてください! *残酷な描写があり、攻め(宰相)が受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

勇者パーティーを追放された「生きた宝箱」、無愛想な騎士団長に拾われて宝石のように愛でられる

たら昆布
BL
勇者パーティーを追放された魔法生物が騎士団長に拾われる話

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

処理中です...