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本編
十二話 解析
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ライナルトはヴォルティア帝国の皇帝である。
皇帝なので、つまり帝国で一番偉い人間だ。
そんなとても偉いライナルトは、執務室の椅子に座って、グラスにウィスキーを注いぐ。
夜会じゃ飲めなかったので、ここでたらふく飲んでおこうって感じで、もう五杯目でそろそろ瓶が空になる。
「俺も欲しい」
ソファに寝転んで、自分にも酒を要求するカイルを眺めて、ライナルトは何でこいつ我が物顔で人の執務室に居座って、しかもここまで寛げるんだと疑問になった。
テーブルの上には、カイルが夜会の会場から持ってきたコップが置いてあり、その周りをいくつも魔法陣が囲っている。
現在、何が入っているかの解析中だ。
解析してんのに酒飲んでいいのか疑問になるが、ライナルトはあのレベルの専門的な魔法は知らないので、大人しく求められたまま酒を瓶ごと投げ渡す。
蓋もしてないが、残りが少なかったので零れることなく宙を舞った瓶は、カーブを描きながらカイルの頭に向かって落ち。
その途中、直当たる寸前で静止した、カイルの魔法だろう。
「眉間直撃コースだったんだけど」
「狙ったからな」
「いいコントロールじゃん」
「だろ」
キャッチした酒瓶の残りが少ないのを確認して、直で口付けてラッパ飲みしようとして、実はずっと見てたジークに止められてグラスを渡される。
行儀が悪いからな、あいつは意外とそこら辺が細かい、そして見た目に似合わずカイルは色々荒い。
「凄い会話しますね」
「注いで」
「そうか?」
「でも気が合うのは聞いてれば分かります」
「注いで」
「……そうか?」
「はい」
「注いで」
「そいつ会話してねぇぞ」
「まずはソファに座るところから始めましょうね」
「……うん」
グラスを持って、寝転がったまま注ぐように要求するカイルに、ジークは座れと促す。
そんなジークに、流石に飲み過ぎだとグラスを奪われたライナルトは、捨てられた子犬のような視線を向けながら椅子に深く腰掛けた。そいつに注ぐんなら俺に返せ。
「それで、それどんな毒入ってたんだ?」
「分かんない」
「はっ?」
「さっきから調べてるけど何にもわかんない」
「使えないなお前」
「……」
あんまりにあっさり分からんと答えるカイルに、ライナルトはびっくりしてつい本音を漏らしてしまった。
だって事実だし、まさか時間かけて調べて、結果が何も分からないとは思わなかったので。
使えないなぁ、と思ってするっと口から出てしまった、素直なのだ。
「だから、俺には分からないのが分かったんだよ」
「つまり?」
「この魔法は俺の知識をもとに解析している、俺は現代の毒草やら調合に関しては知識がある方なんだよ、なのに材料すらほとんど分からない、効果は分かるけど」
「効果は?」
「感覚を狂わせるんだよ、方向感覚や時間感覚とか、量が多ければ体を動かす感覚が狂い、致死量盛れば呼吸もできなくなる」
「なんで、効果は分かるんだ?」
「これダンジョン産だから、ダンジョンにはちょっと詳しいんだよ俺、現代のとは製法も材料も違う古代の遺物だね」
ジークにグラスに酒を注いでもらうため、ソファにしっかり座ったカイルの言葉に、ライナルトの表情が少し曇る。
具体的には、ダンジョン産って言葉と効果の説明で、だけど。
なんせ、そのちょっとだけダンジョン産というのに、思い当たる節があったので。
「……オリジナルの調合の可能性は?」
「調合法が分からなくとも材料は分かる」
「材料だけダンジョン産とか」
「現代でダンジョンの古代の素材で毒作れるような人間は、まずこんなちゃちな事しないし、する奴に手を貸すこともないだろうね」
「なるほど、それでダンジョンか」
「そういう事」
意外としっかり分析していたらしいカイルは、顎に手を当て自分の考えを述べたカイルは、ソファの背もたれに身をゆだね、グラスの中の液体を豪快にも一気に飲み干す。
中々、大胆な飲み方をするものだ。
味わって飲む気がなくとも、強い酒をそんな水みたいに飲むのはどうなんだろうか。
机の引き出しから別の酒を取り出そうとして、すぐにジークに止められたライナルトは、ちょっとうらやましい気に思った。
それから、ちょっと姿勢を正し、悩まし気な表情でうなずく。
「なるほどな」
「心当たりある?」
何やら思うところがありそうな様子に、ふぅんってなったカイルはこいつ心当たりあるな、と思った。
そして、多分その心当たりっていうのは自分が使う側としての心当たりだとも察したので、素直に聞いた。
「そうだな」
あると言えばある。
何とも煮え切らない、微妙な表情でちょっと悩んで、部屋に防音の結界を厳重に張る。
「ヴァエラ・スィリアかもしれない」
「どうしてそう思うの?」
「俺が父と兄を殺すのに使った毒だからな」
「どうして他人が持ってんの?」
「叔父に罪を擦り付けたとき、押収された」
「……それってさ」
「だろうな」
父と兄を殺すのに使った、と聞いてカイルはちょっと考え、それ脅しじゃねって言おうとしたら、言い切る前に同意された。
カイルが何を言おうとしたのか、早々に察したが故だ。
そして自分が言おうとしたことにしっかり同意されたと理解したカイルは、そっかと頷いた。
互いに、相手の思考というものをある程度理解したらしい二人は、ジークの言う通り気が合うのだろう。
本人らは全く意識してないが。
そんな事より、今回使われた毒が本当にヴァエラ・スィリアの場合を考えた二人は、お互いに微妙な顔で見つめ合った。
そうだった場合、結構大きいことが起こる可能性、というのが一瞬で頭に浮かんできたので。
嫌だなぁ、とお互いに思ったのだ。
皇帝なので、つまり帝国で一番偉い人間だ。
そんなとても偉いライナルトは、執務室の椅子に座って、グラスにウィスキーを注いぐ。
夜会じゃ飲めなかったので、ここでたらふく飲んでおこうって感じで、もう五杯目でそろそろ瓶が空になる。
「俺も欲しい」
ソファに寝転んで、自分にも酒を要求するカイルを眺めて、ライナルトは何でこいつ我が物顔で人の執務室に居座って、しかもここまで寛げるんだと疑問になった。
テーブルの上には、カイルが夜会の会場から持ってきたコップが置いてあり、その周りをいくつも魔法陣が囲っている。
現在、何が入っているかの解析中だ。
解析してんのに酒飲んでいいのか疑問になるが、ライナルトはあのレベルの専門的な魔法は知らないので、大人しく求められたまま酒を瓶ごと投げ渡す。
蓋もしてないが、残りが少なかったので零れることなく宙を舞った瓶は、カーブを描きながらカイルの頭に向かって落ち。
その途中、直当たる寸前で静止した、カイルの魔法だろう。
「眉間直撃コースだったんだけど」
「狙ったからな」
「いいコントロールじゃん」
「だろ」
キャッチした酒瓶の残りが少ないのを確認して、直で口付けてラッパ飲みしようとして、実はずっと見てたジークに止められてグラスを渡される。
行儀が悪いからな、あいつは意外とそこら辺が細かい、そして見た目に似合わずカイルは色々荒い。
「凄い会話しますね」
「注いで」
「そうか?」
「でも気が合うのは聞いてれば分かります」
「注いで」
「……そうか?」
「はい」
「注いで」
「そいつ会話してねぇぞ」
「まずはソファに座るところから始めましょうね」
「……うん」
グラスを持って、寝転がったまま注ぐように要求するカイルに、ジークは座れと促す。
そんなジークに、流石に飲み過ぎだとグラスを奪われたライナルトは、捨てられた子犬のような視線を向けながら椅子に深く腰掛けた。そいつに注ぐんなら俺に返せ。
「それで、それどんな毒入ってたんだ?」
「分かんない」
「はっ?」
「さっきから調べてるけど何にもわかんない」
「使えないなお前」
「……」
あんまりにあっさり分からんと答えるカイルに、ライナルトはびっくりしてつい本音を漏らしてしまった。
だって事実だし、まさか時間かけて調べて、結果が何も分からないとは思わなかったので。
使えないなぁ、と思ってするっと口から出てしまった、素直なのだ。
「だから、俺には分からないのが分かったんだよ」
「つまり?」
「この魔法は俺の知識をもとに解析している、俺は現代の毒草やら調合に関しては知識がある方なんだよ、なのに材料すらほとんど分からない、効果は分かるけど」
「効果は?」
「感覚を狂わせるんだよ、方向感覚や時間感覚とか、量が多ければ体を動かす感覚が狂い、致死量盛れば呼吸もできなくなる」
「なんで、効果は分かるんだ?」
「これダンジョン産だから、ダンジョンにはちょっと詳しいんだよ俺、現代のとは製法も材料も違う古代の遺物だね」
ジークにグラスに酒を注いでもらうため、ソファにしっかり座ったカイルの言葉に、ライナルトの表情が少し曇る。
具体的には、ダンジョン産って言葉と効果の説明で、だけど。
なんせ、そのちょっとだけダンジョン産というのに、思い当たる節があったので。
「……オリジナルの調合の可能性は?」
「調合法が分からなくとも材料は分かる」
「材料だけダンジョン産とか」
「現代でダンジョンの古代の素材で毒作れるような人間は、まずこんなちゃちな事しないし、する奴に手を貸すこともないだろうね」
「なるほど、それでダンジョンか」
「そういう事」
意外としっかり分析していたらしいカイルは、顎に手を当て自分の考えを述べたカイルは、ソファの背もたれに身をゆだね、グラスの中の液体を豪快にも一気に飲み干す。
中々、大胆な飲み方をするものだ。
味わって飲む気がなくとも、強い酒をそんな水みたいに飲むのはどうなんだろうか。
机の引き出しから別の酒を取り出そうとして、すぐにジークに止められたライナルトは、ちょっとうらやましい気に思った。
それから、ちょっと姿勢を正し、悩まし気な表情でうなずく。
「なるほどな」
「心当たりある?」
何やら思うところがありそうな様子に、ふぅんってなったカイルはこいつ心当たりあるな、と思った。
そして、多分その心当たりっていうのは自分が使う側としての心当たりだとも察したので、素直に聞いた。
「そうだな」
あると言えばある。
何とも煮え切らない、微妙な表情でちょっと悩んで、部屋に防音の結界を厳重に張る。
「ヴァエラ・スィリアかもしれない」
「どうしてそう思うの?」
「俺が父と兄を殺すのに使った毒だからな」
「どうして他人が持ってんの?」
「叔父に罪を擦り付けたとき、押収された」
「……それってさ」
「だろうな」
父と兄を殺すのに使った、と聞いてカイルはちょっと考え、それ脅しじゃねって言おうとしたら、言い切る前に同意された。
カイルが何を言おうとしたのか、早々に察したが故だ。
そして自分が言おうとしたことにしっかり同意されたと理解したカイルは、そっかと頷いた。
互いに、相手の思考というものをある程度理解したらしい二人は、ジークの言う通り気が合うのだろう。
本人らは全く意識してないが。
そんな事より、今回使われた毒が本当にヴァエラ・スィリアの場合を考えた二人は、お互いに微妙な顔で見つめ合った。
そうだった場合、結構大きいことが起こる可能性、というのが一瞬で頭に浮かんできたので。
嫌だなぁ、とお互いに思ったのだ。
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