その愛は毒だから~或る令嬢の日記~

天海月

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6.ヴァカンスの悪夢

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ヴァカンスが始まると、世間は楽しそうな空気で満ちているようにみえますが、わたくしはどんよりと気分が落ち込むのです。

この屋敷の主で、わたくしの夫でもあるあの方は、領主の仕事をわたくしにすべて任せきりなので、この屋敷の懐事情などまったくご存じありません。

そして、知ろうともなさらない。

多彩な趣味の嗜みがあって、付き合いも広い風流人な方です。

元々高位貴族の三男でしたし、遊び相手には最高でしょう。

はたから見れば、見目麗しい色男なのでしょうが、とにかくあの方への維持経費は金がかかるの一言なのです。

おそらく、どこぞの華美な装飾品を好む浪費令嬢と良い勝負をなさるに違いありません。

きっと、何かを注文なさるときも、それがいくらかどうかなど一度も確認したことなどないのでしょう。

時折、何ともなしにとてつもなく高価なものが屋敷に置かれているのを見つけて、頭が痛くなることもあります。

まぁそういう方がいくらか居たほうが、お金も廻って世の中のためには良いのでしょうが、わたくしにとっては負担でしかありません。


この家には極端な贅沢をしなければ、十分に暮らしていける程度の資産はあるのですが、時々、浪費を諫めようと口を出してみれば、
「この家にはお金がないのかい?」
としおらしく返したかと思うと、急に隠者のようにわざとらしいまでに極端に慎ましすぎる暮らしを始めようとなさるのです。

そんな無理が続くわけがありません。

痩身のための絶食がいつまでも続かないのと同じです。

そして、そのはじめから分かりきっているような『慎ましすぎる生活』はすぐにあの方の中で限界を迎え、極端な我慢の反動から、いつもよりも酷い浪費をなさるようになる、という悪循環です。

そんなことがあって、わたくしはあの方の浪費を諫めることすら出来ないのです。

わたくしがただ一つできることは、無言であの方の浪費の後始末をして歩くことだけです。

ただ、少しだけ控えてくださればそれで良いのですが、一言でも口を挟めば、火に油を注ぐことにしかならず、どうしようもないのです。


そして、今あの方は張り切っているのです。

このヴァカンスをどう楽しもうか、と。

「君もヴァカンスが楽しみだろう?」と、何の毒気もなく笑ってわたくしに問いかけるのです。

わたくしは何とか引き攣りそうな顔を抑えて、苦笑いをする他ありません。

また、少しでも口をだせば、どんな恐ろしい結末になるか知れないのですから。

あの方がこれからどれだけの浪費を行おうと計画しているのかと思うと、わたくしにはただ恐ろしさしかないのです。


正直に言って、無邪気にヴァカンスなど楽しめそうにありません。

けれど、逃れられることはできないのです。

そんなヴァカンスはもうすぐやってくるのですから・・・。



fin.
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