その愛は毒だから~或る令嬢の日記~

天海月

文字の大きさ
5 / 16

5.真実の愛を語るあなた

しおりを挟む
あなたはいつもご自分から近づいてこようとはなさらない。

政略で結ばれた縁ではあるけれども、わたくしがあなたを愛しているのを知っていらっしゃるくせに。


わたくしはあなたと居ると、いつも見えない女性に嫉妬してばかりで、自分のことが嫌になってくるのです。

あなたはいつだって、わたくしの前で他の女性の事ばかり褒めたたえる。

それは顔や身体つきの美しさであったり、気立てについてであったり、様々なことを・・・。

わたくしが至らないということをただ指摘なさりたいのでしょうか。

それとも・・・。


特に、真実の愛だと仰っていた以前の婚約者候補の方について語るときは、見ているこちらが不愉快に感じるほどの熱を持って語られるのです。

わたくしに見せつけでもするように、彼女がどんなに素晴らしい方で、お二人でどんなことをなさったか、その時どんなお気持ちだったのかと、まるでその場が目に浮かんでくるほどに詳細に仰られるのです。

何の嫌がらせなのでしょうか?

なぜその相手はわたくしではないのでしょうか?

そんな思いを持っていたとしても、隠しておけばいいのに、なぜ態々わたくしにそれを語るのでしょう。・・・

あなたはきっとわたくしのことがお好きではないのでしょう。


けれど、その癖、時々私を誘うような目でご覧になる。

わたくしから、あなたに近寄っていくようにと仕向けるように。

心の中には不満しかないのに、結局、わたくしはあなたの魅力に抗えない。


あなたはわたくしの心を弄ぶのがお上手な、狡い方です。

わたくしはあなたから離れたいのに、離れられない。

けれど、どうあがこうと、どうせこの金銭と利害で繋がった縁は、わたくしやあなたの一存で切ることなどかなわないのです。

ですから、何があろうと、あなたがどなたを愛しておられようとも、あなたの一番近くに居るのはわたくしだということだけは変わらないし、変えることのできない確かなことなのです。


わたくしは慎み深いのです。

すべてを手に入れようと思うほどに欲深くはありません。

心などなくとも、あなたはわたくしから離れることは出来ない。

わたくしは、あなたの愛を手に入れることができなくとも、あなたのもっとも近くに居ることができるのだから。

それで、手を打って差し上げることにいたしましょう。


fin.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

処理中です...