その愛は毒だから~或る令嬢の日記~

天海月

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7.その愛は狂気で

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「君と別れるくらいなら、自害する」

あなたがそんなことを仰る方だなんて、あの時は思いもしませんでした。

騎士だったあなたから婚約の申し込みをいただいた時、わたくしは舞い上がっておりました。

実直そうな方だと、両親も喜んでいたのをよく覚えています。

令嬢方からの人気も絶えないあなたが、わたくしを選んでくださったのだと、ただ嬉しさしかありませんでした。

政略結婚でもないのに、ろくにお話ししたことが無いにも関わらず、選んでくださったなど何かおかしいのだと気づきもせずに。

あなたが本当はどんな方なのかなど、何も知らずに・・・。

本当に表面しか見ていなかったわたくしが愚かだったのです。


彼はわたくしを別の方の名で呼ぶのです。

わたくしとその方は随分と似ているのだそうです。

彼とその方とは一時はその生涯を共にすると誓ったものの、結局あちらは別の方を愛してしまい、彼は一方的に捨てられてしまったのだそうです。

彼が何度も縋ったにもかかわらず、その方が後ろを振り返ることは、遂になかったのだそうです。


そして、彼はわたくしを見つけたのです。

その方によく似た面影の・・・。


彼はその方と遂げることのかなわなかった思いを、わたくしをその身代わりとして実行しようと計画したのです。

流石に、そんな時まで身代わりにされてはかなわないと思いました。

そして、そこまで別の方を求めていらっしゃるのであれば、この婚約は白紙に戻すべきではないでしょうか、とわたくしは提案をしたのです。


すると、彼は「君まで失うくらいなら自害する」と言い出して、その首に剣を当てたのです。

その目はどこか狂気さえ感じさせるようでした。


正直、彼に婚約を申し込まれた時に感じた胸の高まりは、もうどこかに消え去ってしまっていました。

ただ今のわたくしには彼から逃れたい、という嫌悪感と恐怖しかありませんでした。

けれど、目の前で自害などされては、寝覚めが悪いので、従うしかありません。

そこにはもうわたくしの意思など、介在することすら許されないのです。


誰かここから助け出してくださらないかしら・・・

わたくしは、もう途方もないような夢物語にでも浸っている時くらいしか、彼の手から逃れることはできないのです。


そして、遂にわたくしは彼が困難な任務を任されて、階級が上るようなことを密かに願いはじめたのです。

わたくしは非道な女かもしれません。

けれど、良いのです。

彼が消えることにわたくしが直接関わっていなければ、何も罪悪感などないのですから・・・。


fin.
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