義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月

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幾日か経った夜。
メリダは、カノンから教えられた通り、ベッドで眠っているエレーヌの手を取ると、自分の中心から湧き出している温かな泉の一部が彼女に注ぎ込まれるように、強くイメージした。





朝の支度のために、部屋に入ってきたメリダに、すでに目が覚めていたエレーヌは駆け寄った。

「メリダ・・・私、頭がおかしくなってしまったのではないかと思われるかも知れないけれど・・・どうか落ち着いて聞いてちょうだい!」

「はい、お嬢様」

混乱した様子のエレーヌとは対照的に、落ち着いた様子のメリダ。

「私、夢を見たの!でも、夢じゃなくて・・・メリダが聞かせてくれた物語が本当の事だったと解って・・・西の王子様は本当に居て、不思議な事にカノンと同じ名前でね、それで私が・・・聖女だって・・・」

エレーヌは嬉しいような、悲しいような何とも言えない表情をしており、その瞳には涙が湛えられていた。

メリダはすぐに昨晩の出来事が成功したのだと分かった。

「記憶を取り戻されたのですね」

「え?記憶?メリダは私が今言っている事を変だとは思わないの・・・?」

「はい。実は私は少し前に・・・西の王子に会ったのです」

エレーヌはハッとしたように目を見開いた。

「・・・!殿下は今どこにいらっしゃるの?すぐにお会いしたいわ!!」

メリダは優しく微笑んだ。

「お約束があるので細かい事は申し上げられませんが・・・かの方は、いつもお嬢様のおそばにおられましたよ。そして、近いうちにお迎えに来られるはずです」


エレーヌが聖女の力を完全に取り戻せば、カノンが変装している意味など忽ち無くなってしまうはずだったが、彼女の様子を見る限り、無邪気に名前が同じだとはしゃいでいるだけで、義妹の正体が西の王子なのだと気づいているようには見えなかった。

彼女は無意識に、自分が再び聖女の力を持つことを拒絶しているのだろう。

昨晩、自らが借り受けているらしい『祝福』の力を、元の持ち主の聖女であるエレーヌに全て返そうと思ったメリダだったが、ある一定の上限を超えると、それ以上彼女に力を移すことができなかった。
結局、注ぎ込めたのは、記憶を取り戻すためだけに必要な僅かな力だけだった。


メリダは、カノンから話を聞いた際、彼がエレーヌに過去を思い出させることを渋っていた為に、状況が複雑化してしまったのだと感じただけに、いつまでもエレーヌに真実を告げなかった彼をただの臆病な腰抜けではないか、とどこかで思っていた。

だが、力を返そうとしても、眠っているにも関わらず、それを拒絶するようなエレーヌの様子を実際に見ると、それだけでエレーヌが過去に聖女として過酷な体験をしたのだろうという事が伝わってきた。

メリダは、カノンがエレーヌに無理に記憶を取り戻させたくなかったと言ったのは、彼女に対する最大限の配慮で、優しさだったのだと、今更ながら感じたのだった。

こんな状況ゆえに、自分を使ってエレーヌの記憶を戻すという選択をしたが、もしも輿入れの件が無かったとしたら、恐らく彼はエレーヌの記憶が自然に戻るまで、いつまででも自分の気持ちを押し殺して待ち続けるつもりだったのだろうと、メリダは思った。

お嬢様も仰っていたけれど、優しいくせに言葉が足りない・・・。

本当にあの方は誤解されやすい方ですね・・・。
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