農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト

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第四章 分岐点

白い服の貴族

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 そんな会話から少ししてようやく辿りついた旅館の前には、何故だか人が集まっていた。
「あれ、何だろう?」
「わかんない」
 僕が首を傾げるとソフィもうーんと考える。
「ふむ、どうやらあれが原因のようだ」
 と、お喋り鳥になっているコンが嘴で指した先には豪華な馬車が停まっていた。
「貴族様の馬車?」
 ソフィが不思議そうに言う。
「うん、この国の紋章もあるから……上級貴族様かな」
 豪華な馬車の側面に見えた紋章は、盾の上に左上を向いた弓があり、弓には鋤をつがえるという独特なもので、これも王都の造りと同じでこの国の成り立ちに関わっている。
 この紋章を付けた馬車を持てるのは、貴族の中でも政治に深く関わる上級貴族と呼ばれる人達だけに限られている。
「とりあえず中に入ろうか」
 だからといってここに居てもしょうがないから、ソフィの手を取って人混みの間を抜けて中に入る。

「はい、ツインで食事別一泊で銅貨12枚となります」
 安宿の倍以上の値段だけれどこれでも一応王都で旅行者向けの宿にしては安い方で、このクラスの宿ならシングル一部屋15枚で適正らしい。
 お父さんがおじいさんに連れられて居た時の話だから多少は変わってるかもしれないけれど、それでも商人として育てられたお父さんの話だから間違っては居ないと思う。
 ちなみに貴族用の宿だと一泊で銀貨が必要になるらしいから僕達には身分的にも金銭的にもとても泊まれるような宿ではない。
「それにしてもお客さん、いいタイミングに来たねぇ」
 受付をしていた人が部屋に案内してくれながら言った。
「表に停まっていた馬車の事ですか?」
「それです。あの方は何時もご贔屓して下さって居るので今は親父さんや女将さんが付きっきりなんですよ。お部屋はこちらになりますので、昼食を取られるなら荷物を置いて食堂へお越しください」
 そう言って受付へ戻っていくのを見て、僕達は部屋に入って一息ついた。
「一体どんな人が来てるんだろうね?」
「うーん、行って見た方が早いんじゃ無いかなぁ」
 ソフィの質問に僕は何となくメルクさんとノトさんを思い浮かべたけど、メルクさんは国王であの竜好きだしノトさんはその臣下であるからまた少し違うかな。
 それぞれのベッドに腰掛けて一息だけつくと、今来ている貴族の人が気になるのですぐに立ち上がって僕とソフィとコンと一緒に食堂へ向かう。
 ユンは普通の狼より体が大きくて毛がふわふわした狼なので怖がられる事もあるだろうし、毛が飛んだら迷惑なので仕方ないのだけどルーはそんなユンの側に居ると身をすり寄せて主張したので二人でお留守番だ。

 階段を降りて食堂へ入ると、奥の方の席の側に立っているこの宿の親父さんが目に入った。
「お2人ですか?」
 ソフィと入ってすぐにそんな声が左から聞こえて振り向くと、そこにはメルちゃんが立っていた。
「あ、メルちゃん久しぶり」
「え?えっと……あ、竜のお兄ちゃん?」
「覚えててくれたんだ。コンもここにいるよ、姿は変えてるけどね」
 たった一回だから覚えてないかもと思ってたけど、考えて見れば竜に触れるなんて事をしたのだから印象に残っていたのかもしれない。
 そんな事を考えていると周囲の声が急に静かになったのに気が付いて奥に目を向ける。

「相変わらず素晴らしい腕であった」
「お褒め頂き光栄にございます」
「では戻らねばならぬのでな、失礼する」

 食堂の奥の席からそんな声が聞こえると、その周囲に集まっていた人達が素早く邪魔にならないように離れていく。
 そうして視線が通った先に居たのは、幾らか光沢のある白を基調にした豪奢な服を着た若い男の人だった。
 その貴族が宿の親父さんと軽く握手をして何か話して、すぐに出口に向かって歩こうとするのが目に入ったので僕とソフィはすぐに脇に避けて道をあける。
 貴族の人が開いた道を通って外に出ようと歩き、僕達の前を通り過ぎて……その足が止まる。
「ふむ……」
 貴族の人は唸ってソフィの顔を、いやたぶんその髪を眺めて、その次に僕の顔、そして肩に乗ったコンを見て、何か納得したのか頷いた。
「すまない、とても珍しく、また綺麗な髪色であったのでつい気になってな。ここの料理はとても美味しいので是非堪能して行くといい」
 それだけ言って出て行く貴族の人を見送って、僕は大きく息を吐いた。
「緊張したね」
「う、うん」
 特にじっくりと見られていたソフィは胸に手を当てて大きな呼吸を繰り返していた。
 そんな僕とソフィを見つめていたメルちゃんがハッとしたように言う。
「あ、あっちの空いてる席にどうぞ。すぐお水を持って来ます」
 パタパタと奥へと行くメルちゃんを見ながら僕とソフィは席へついた。

「さっきの貴族様、何ていう人なんだろうね」
「うーん……僕もよくわからないや」
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