124 / 125
第四章 分岐点
白い服の貴族
しおりを挟む
そんな会話から少ししてようやく辿りついた旅館の前には、何故だか人が集まっていた。
「あれ、何だろう?」
「わかんない」
僕が首を傾げるとソフィもうーんと考える。
「ふむ、どうやらあれが原因のようだ」
と、お喋り鳥になっているコンが嘴で指した先には豪華な馬車が停まっていた。
「貴族様の馬車?」
ソフィが不思議そうに言う。
「うん、この国の紋章もあるから……上級貴族様かな」
豪華な馬車の側面に見えた紋章は、盾の上に左上を向いた弓があり、弓には鋤をつがえるという独特なもので、これも王都の造りと同じでこの国の成り立ちに関わっている。
この紋章を付けた馬車を持てるのは、貴族の中でも政治に深く関わる上級貴族と呼ばれる人達だけに限られている。
「とりあえず中に入ろうか」
だからといってここに居てもしょうがないから、ソフィの手を取って人混みの間を抜けて中に入る。
「はい、ツインで食事別一泊で銅貨12枚となります」
安宿の倍以上の値段だけれどこれでも一応王都で旅行者向けの宿にしては安い方で、このクラスの宿ならシングル一部屋15枚で適正らしい。
お父さんがおじいさんに連れられて居た時の話だから多少は変わってるかもしれないけれど、それでも商人として育てられたお父さんの話だから間違っては居ないと思う。
ちなみに貴族用の宿だと一泊で銀貨が必要になるらしいから僕達には身分的にも金銭的にもとても泊まれるような宿ではない。
「それにしてもお客さん、いいタイミングに来たねぇ」
受付をしていた人が部屋に案内してくれながら言った。
「表に停まっていた馬車の事ですか?」
「それです。あの方は何時もご贔屓して下さって居るので今は親父さんや女将さんが付きっきりなんですよ。お部屋はこちらになりますので、昼食を取られるなら荷物を置いて食堂へお越しください」
そう言って受付へ戻っていくのを見て、僕達は部屋に入って一息ついた。
「一体どんな人が来てるんだろうね?」
「うーん、行って見た方が早いんじゃ無いかなぁ」
ソフィの質問に僕は何となくメルクさんとノトさんを思い浮かべたけど、メルクさんは国王であの竜好きだしノトさんはその臣下であるからまた少し違うかな。
それぞれのベッドに腰掛けて一息だけつくと、今来ている貴族の人が気になるのですぐに立ち上がって僕とソフィとコンと一緒に食堂へ向かう。
ユンは普通の狼より体が大きくて毛がふわふわした狼なので怖がられる事もあるだろうし、毛が飛んだら迷惑なので仕方ないのだけどルーはそんなユンの側に居ると身をすり寄せて主張したので二人でお留守番だ。
階段を降りて食堂へ入ると、奥の方の席の側に立っているこの宿の親父さんが目に入った。
「お2人ですか?」
ソフィと入ってすぐにそんな声が左から聞こえて振り向くと、そこにはメルちゃんが立っていた。
「あ、メルちゃん久しぶり」
「え?えっと……あ、竜のお兄ちゃん?」
「覚えててくれたんだ。コンもここにいるよ、姿は変えてるけどね」
たった一回だから覚えてないかもと思ってたけど、考えて見れば竜に触れるなんて事をしたのだから印象に残っていたのかもしれない。
そんな事を考えていると周囲の声が急に静かになったのに気が付いて奥に目を向ける。
「相変わらず素晴らしい腕であった」
「お褒め頂き光栄にございます」
「では戻らねばならぬのでな、失礼する」
食堂の奥の席からそんな声が聞こえると、その周囲に集まっていた人達が素早く邪魔にならないように離れていく。
そうして視線が通った先に居たのは、幾らか光沢のある白を基調にした豪奢な服を着た若い男の人だった。
その貴族が宿の親父さんと軽く握手をして何か話して、すぐに出口に向かって歩こうとするのが目に入ったので僕とソフィはすぐに脇に避けて道をあける。
貴族の人が開いた道を通って外に出ようと歩き、僕達の前を通り過ぎて……その足が止まる。
「ふむ……」
貴族の人は唸ってソフィの顔を、いやたぶんその髪を眺めて、その次に僕の顔、そして肩に乗ったコンを見て、何か納得したのか頷いた。
「すまない、とても珍しく、また綺麗な髪色であったのでつい気になってな。ここの料理はとても美味しいので是非堪能して行くといい」
それだけ言って出て行く貴族の人を見送って、僕は大きく息を吐いた。
「緊張したね」
「う、うん」
特にじっくりと見られていたソフィは胸に手を当てて大きな呼吸を繰り返していた。
そんな僕とソフィを見つめていたメルちゃんがハッとしたように言う。
「あ、あっちの空いてる席にどうぞ。すぐお水を持って来ます」
パタパタと奥へと行くメルちゃんを見ながら僕とソフィは席へついた。
「さっきの貴族様、何ていう人なんだろうね」
「うーん……僕もよくわからないや」
「あれ、何だろう?」
「わかんない」
僕が首を傾げるとソフィもうーんと考える。
「ふむ、どうやらあれが原因のようだ」
と、お喋り鳥になっているコンが嘴で指した先には豪華な馬車が停まっていた。
「貴族様の馬車?」
ソフィが不思議そうに言う。
「うん、この国の紋章もあるから……上級貴族様かな」
豪華な馬車の側面に見えた紋章は、盾の上に左上を向いた弓があり、弓には鋤をつがえるという独特なもので、これも王都の造りと同じでこの国の成り立ちに関わっている。
この紋章を付けた馬車を持てるのは、貴族の中でも政治に深く関わる上級貴族と呼ばれる人達だけに限られている。
「とりあえず中に入ろうか」
だからといってここに居てもしょうがないから、ソフィの手を取って人混みの間を抜けて中に入る。
「はい、ツインで食事別一泊で銅貨12枚となります」
安宿の倍以上の値段だけれどこれでも一応王都で旅行者向けの宿にしては安い方で、このクラスの宿ならシングル一部屋15枚で適正らしい。
お父さんがおじいさんに連れられて居た時の話だから多少は変わってるかもしれないけれど、それでも商人として育てられたお父さんの話だから間違っては居ないと思う。
ちなみに貴族用の宿だと一泊で銀貨が必要になるらしいから僕達には身分的にも金銭的にもとても泊まれるような宿ではない。
「それにしてもお客さん、いいタイミングに来たねぇ」
受付をしていた人が部屋に案内してくれながら言った。
「表に停まっていた馬車の事ですか?」
「それです。あの方は何時もご贔屓して下さって居るので今は親父さんや女将さんが付きっきりなんですよ。お部屋はこちらになりますので、昼食を取られるなら荷物を置いて食堂へお越しください」
そう言って受付へ戻っていくのを見て、僕達は部屋に入って一息ついた。
「一体どんな人が来てるんだろうね?」
「うーん、行って見た方が早いんじゃ無いかなぁ」
ソフィの質問に僕は何となくメルクさんとノトさんを思い浮かべたけど、メルクさんは国王であの竜好きだしノトさんはその臣下であるからまた少し違うかな。
それぞれのベッドに腰掛けて一息だけつくと、今来ている貴族の人が気になるのですぐに立ち上がって僕とソフィとコンと一緒に食堂へ向かう。
ユンは普通の狼より体が大きくて毛がふわふわした狼なので怖がられる事もあるだろうし、毛が飛んだら迷惑なので仕方ないのだけどルーはそんなユンの側に居ると身をすり寄せて主張したので二人でお留守番だ。
階段を降りて食堂へ入ると、奥の方の席の側に立っているこの宿の親父さんが目に入った。
「お2人ですか?」
ソフィと入ってすぐにそんな声が左から聞こえて振り向くと、そこにはメルちゃんが立っていた。
「あ、メルちゃん久しぶり」
「え?えっと……あ、竜のお兄ちゃん?」
「覚えててくれたんだ。コンもここにいるよ、姿は変えてるけどね」
たった一回だから覚えてないかもと思ってたけど、考えて見れば竜に触れるなんて事をしたのだから印象に残っていたのかもしれない。
そんな事を考えていると周囲の声が急に静かになったのに気が付いて奥に目を向ける。
「相変わらず素晴らしい腕であった」
「お褒め頂き光栄にございます」
「では戻らねばならぬのでな、失礼する」
食堂の奥の席からそんな声が聞こえると、その周囲に集まっていた人達が素早く邪魔にならないように離れていく。
そうして視線が通った先に居たのは、幾らか光沢のある白を基調にした豪奢な服を着た若い男の人だった。
その貴族が宿の親父さんと軽く握手をして何か話して、すぐに出口に向かって歩こうとするのが目に入ったので僕とソフィはすぐに脇に避けて道をあける。
貴族の人が開いた道を通って外に出ようと歩き、僕達の前を通り過ぎて……その足が止まる。
「ふむ……」
貴族の人は唸ってソフィの顔を、いやたぶんその髪を眺めて、その次に僕の顔、そして肩に乗ったコンを見て、何か納得したのか頷いた。
「すまない、とても珍しく、また綺麗な髪色であったのでつい気になってな。ここの料理はとても美味しいので是非堪能して行くといい」
それだけ言って出て行く貴族の人を見送って、僕は大きく息を吐いた。
「緊張したね」
「う、うん」
特にじっくりと見られていたソフィは胸に手を当てて大きな呼吸を繰り返していた。
そんな僕とソフィを見つめていたメルちゃんがハッとしたように言う。
「あ、あっちの空いてる席にどうぞ。すぐお水を持って来ます」
パタパタと奥へと行くメルちゃんを見ながら僕とソフィは席へついた。
「さっきの貴族様、何ていう人なんだろうね」
「うーん……僕もよくわからないや」
1
あなたにおすすめの小説
元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜
☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。
しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。
「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。
書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。
だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。
高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。
本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。
その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる