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第一章 僕は普通の農民です

この世界に於ける『竜』

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 僕は竜と契約を交わしたあと、周りの様子が気になり見渡した。
 すると、皆呆気にとられた顔をしていた。
 針を刺して出来た傷は契約完了と同時に治癒された。
「あ、あの、契約出来たんですけど……どうしましょう?」
 今更だが、こんな巨大な竜を従魔とした例は聞いたことがない。
 稀に英雄が竜を従魔にした例はあれど、最後に竜を従魔とした英雄はもう100年も前にその旅を終えている。



 そもそも『竜』と呼ばれる存在はこの世で最も強靭な体を持ち、様々な魔法を自由自在に使いこなす上大変高い知能を有しているため『最強の生物』とされている。
 そして、すべての竜はたった1匹の竜から生まれたとされている。



 その竜の名は『混沌竜』



 混沌竜はこの世の始まりの時から存在し、世界を見守り続けていたとされる存在である。
 その名は混沌竜が竜を生み出し、そしてその竜が人と交わり出来た種族『竜人』が伝えたとされている。
 混沌竜の強さはかつてたった一人の英雄が腕試しに挑み、鼻息一つで数千キロも飛ばされたという本当か疑わしいレベルの記録があるのみだ。
 そのため今現在混沌竜が本当にこの世に存在するのかしないのかすら疑問視されている。

 そしてその容姿は特徴的で、白と黒の水が決して混ざることなく常に動き続けているようだ、と伝えられている。



「……ん?白と黒の常に動く模様を持つ竜……え?」
「どうしたのだ、あるじよ」
 俺の呟いた声を聞いた竜は、内容は聞き取れなかったのか聞き返して来る。
「ちょっと変な事を聞くかもしれないけど、いいかな?」
「主の質問になら、なんなりと」
「もしかして何だけど……その……君って混沌竜……だったりは、しない……よね?」
 俺は今更ながら目の前の竜の存在に冷や汗をかきながら質問する。

「いかにも、我は混沌竜である。もしかして、気づいておらんかったのか?」

 ……え、ええー……

「面白い奴だのぅ。しかも契約時に流した血の量、あれだけ流してしまえば我が自由になりすぎることを知っていてやった行為ではないだろう?」
「自由に……なりすぎる?」
「そうだ。流す血が一滴と定められているのは固く縛るためなのだ。一滴の血は固い主従契約を結び、その後の血はすべて束縛を緩めるのだ」
 そこで竜……混沌竜はやれやれという感じで契約に関して教えてくれた。
「まず一滴目は固く従魔を縛り、2滴目は自分の好きに魔法を使用することを許可し、3 滴目で自由に主から離れた所にいる事が許可され、4滴目で主に反抗することすら許可され、5滴目でその他に掛けられた縛りを全て解除して対等な関係とすることが出来るのだ」
 ああ、そういえば学校で『契約時の血は必ず1滴になるよう気をつけること』と言われていたが、そういうことだったのか……

「ふむ、だがあの魔法陣は意図しない限り必ず1滴になるよう調整するようにもされているようだったが、主が無意識に契約の内容を感じ、それに反発して5滴以上の血を流したと我に伝わったぞ?」

「え、僕はそんなこと思って……」
 無意識にやってしまっただけでと言おうとすると、混沌竜はそんなことは無視して言う。
「そんなことよりも主、我に名を与えてはくれぬか」
 そ、そんなことって……まあ、いいか。



「名前……そうだ『コン』はどうかな?」
「コン?」
「そう、コン!混沌竜だからコン!」

 混沌竜はその理由を聞いて驚いたように目を瞬いていたが、突然笑いはじめた。
「は、はは、コン、混沌竜だからコンか!ははははは、面白い、面白いなお主は、ははははは」
「そんな笑わなくてもいいじゃないか」
 それから村の真ん中で1人?笑い続けた竜はしばらくして笑いを収め、僕に言う。

「コンと言う名、我は気に入ったぞ主よ」
「そう、それなら良かった。コン、僕の事はロイって呼んで欲しいな」
「それは従魔に対する命令か?」
「僕は命令なんてする気はないよ。ただのお願いだよ」
「ははは、やはりお主は面白いな!ああ、これからよろしく頼むぞ、ロイよ」
「こちらこそこれからよろしくね、コン」



 普通の農民の僕と、最強の生物である竜の頂点であり全ての竜の祖先でもある混沌竜のコン。
 このありえない組み合わせは直ぐに世界中に広がり様々な波乱を呼ぶのだが、それはまだもう少し先の事である。
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