農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト

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第三章 農民が動かす物語

クルク村の人達(2)

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「そ、それだけって……」
「それだけっつったらそれだけよ」

 頭を下げたまま顔を上げるとテウがムスッとした顔で続ける。
「別にゼンさんが悪いことするんじゃなくて、縁切った奴が来て悪口吐くけど耐えてくれって話なら頭下げる必要ねーじゃん?」
 テウはそれにと話を続ける。



「俺が昔野菜盗んだの皆許してくれるどころか出すとこに出さず、この村でずっと過ごさせて貰ってるだろ?こんな俺を迎え入れてくれた皆なんだ、その程度の事で深く頭下げる必要なんて何処にもねーだろ?」



 そう、彼は昔この村で野菜泥棒をした事のある人物である。
 この村が出来てまだ10年もしない丁度今頃、村の野菜が少しばかり消えるという事があった。
 しかしそれは子供のイタズラなどではなく、夜中に何者かが盗んでいる跡だった。
 動物や魔物ならまず盗むなどぜず野菜を齧り、畑を荒らした跡がつくはずが盗まれた跡は綺麗で明らか人の犯行であった。
 なので自警団が夜中ひっそりと明かりを消して畑で待っていると盗みにやって来たテウを見つけて捕らえ、翌朝まで物置に縛って放置してから尋問したのだ。



「あん時商売に失敗して財産無くして子供とあちこち彷徨って、流れ着いたこの村で盗みを働いた俺を『これから奴隷のようにこき使ってやるからそこのボロ小屋勝手に直してろ。今年だけ食糧わけてやっから来年からは自立しやがれ』って村長の言葉、未だに感謝してもしきれねぇよ」



 そういや話し合いの結果そうなったことを思い出す。
 確か罰として隙間風の凄いボロ小屋にあいつを住まわせて、他の住人より広い土地を畑にさせて丸芋をアホみたいに育てさせたっけ。
 彼の子供は隙間風の凄い家で風邪を引いてはいけないので、村長宅で育てられていた。
 そのボロ小屋は村長の家の近くであった事もあり、今では広い畑を毎日世話しながら村全体への伝令を一人で行う働き者になっている。

「まあ確かにこの村をバカにされるのは嫌だけどよ、頭下げなくても皆その程度の事受け入れるだろ?」

 テウがそう言って「なあ皆」と言うとすぐに「当たり前だ」とか「てめえがいい話風にしてんじゃねぇ」とか「元泥棒さんの言う通りだ」とか……若干テウへの煽りも入っているけど賛同する声ばかりだった。

「確かに俺が悪かったけどもう何年も前の事だろ……まあそんな事はいいとして、本気で頭下げるためだけに俺達を呼んだのか?それ以外に何か話あるんじゃねーの?」
 テウは基本あまり頭が良い奴では無いけどこういう時は何故か鋭く、そしていつの間にか村長と変わって場の進行役になっている事が多い。

「そうだ、これも理由の一つだけどこれだけなら直接家を回るさ」
「じゃ、他にも理由あるんだな?」
 テウがそう言うと、先程の話で緩んでいた空気が引き締まる。



「そうだ。もうひとつの理由は今回あいつらが来る理由でもあるんだが、俺の息子のロイをバートン家の跡継ぎにするために引き取りにくる。俺はロイ自身が望むなら、この村からあいつらの所に送り出そうと思っている」



「な、ロイを跡継ぎにしないのかよ!?」
 と、あちこちから声が上がる。
「それはロイ自身が決める事であって俺が決める事じゃなない」
 俺自身商人が嫌でこの村に来る事を選んだのだ、ロイが家を出ていく選択をしても恨む筋合いもない。
「でも、ロイが商人なんてなれんのかよ!」
 それは俺も考えたが、だが商才のあるなしに関わらない事が1つある。

「確かにあの性格だし難しいだろうな。でもロイの従魔は混沌竜で転移魔法を自由に使いこなしている。これは遠く離れた国との物流に大きな影響を与えるだろうな」

 その言葉に村長も含めた誰もが驚く。
 よく王城に向かう事は話ているものの、それを転移と教えたことはない。
 恐らく皆コンの上に乗って移動しているんだろうと予想していたはずだ。

「話はわかった。じゃがロイにはちゃんとその話をしておるのかの?」

 そこで村長から聞かれ、俺は一瞬言葉に詰まる。
「まだ話してはないが、この後じっくりと話すつもりだ」
 そう俺が言うと村長は一度深くため息をついた。



「ゼン、ならば儂らとこんな話をしとらんで先にロイと話して来なさい。突然そのような選択を迫られては困るじゃろうから考える時間をあげなさい」



 村長はそう言うと俺にニッコリと、しかし真剣な目で俺を見つめる。
「直接言えぬのであれば儂が代わりに話しても構わぬが、ゼンはそれでも良いのかの?」
「そ、それは……」
「今すぐ帰って話して来なさい。話は儂がまとめておくのでな」
 その言葉に、俺はようやくロイに話す決心がついた。

「……わかった。ありがとう、村長」
 俺は礼を言って軽く頭を下げると玄関へ走り、そして靴を履くと家へと駆ける。



「でも、いったいなんて切り出せばいいんだ……」
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