農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト

文字の大きさ
107 / 125
第四章 分岐点

世界が変われば価値感も変わる

しおりを挟む
 翌朝、僕はいつもと同じ4時に目を覚ます。
 ただ今日はイツキさんが居るので静かに起きて支度を済まして部屋を出た。

 それから僕はタームの小屋へ向かい餌の準備を始める。
 この時間だとまだタームは寝てるか起きていでもウトウトしているから寝息以外は殆ど聞こえない。
 でも餌を置くと少しばかり目を開ける事もあるけど、でもすぐに目を閉じる。
 この子達が動き始めるのは大体5時頃で、餌を食べ始めた頃に搾乳を開始して終わった順に戸を開けて放牧する。
 頭数の多い所だと魔法陣に魔力を供給するだけで絞れる魔道具もあるらしいけれど、それはとても高いので家では手絞りで搾乳をする。

「へぇ、やっぱ慣れてんだなー」
「あ、イツキさんおはようございます」
「おはようさん。俺はちょっとここで見させてもらってもいいか?黙って邪魔もしないからさ」
「勿論いいですよ。良ければ触ってみます?」
「あー、それは後でいいや」
「わかりました。それじゃあ僕はお世話を続けますね」
「はいよ」

 それから少しの間、いつの間にか来ていたイツキさんが黙って見つめる中作業を続ける。

「なぁ、少し変な事を聞いてもいいか?」
 イツキさんが壁にもたれたままそんな事を言った。
「何でしょうか?」
「いやさ、別にただの興味本位だから深く考えんでええからな?」
「はい」
 作業手順に何か違和感でもあったのかなと考える。

「あの、さ。お前って人殺しってのはどういう人を指すと思う?」

 でも、そのあんまりにも予想外な質問に僕は驚いてつい大きな声を上げる。
「え!?」
「あ、別に俺はそんなことしたことねぇからな?単にふと気になっただけで」
 僕の声にタームも驚いて少しばかり身じろぎしたので落ち着くまで少し間を置く。


「えっと、さっきの質問ですけど、やっぱり『罪の無い人を殺した人』、かな?」


 僕がそう、誰もが習う当たり前の事を答えると、イツキさんはどこか寂しそうな顔をした。
「そう、か。すまんな変な事を聞いて、気にせんでくれ」
「は、はい」

 それから少しばかり気まずい雰囲気が流れたけどお父さんが来るとその空気も解れ、僕は作業をしている内に先程された変な質問の事はいつの間にか忘れてしまっていた。



 それから何時もの食卓にイツキさんとスーさんを加えて賑やかな食卓を囲った後、イツキさんは仲間達と合流して僕と村長とソフィと、あと何人かの村人で村の南の柵まで向かう。
 この村より南には人里が無く、また最南の大森林の近くである為これ以上南に人里が作れないので門は無い。

「本当に行くの?大丈夫?」
「我を誰だと思っているのだ」

 そうして門に着いた時、僕はコンに今朝「知り合いに会うためこの者と共に森へ行く」と言われていたので心配でそんな事を聞く。
 イツキさんにコンが付いて行ってもいいのかと聞いたら「それが条件だからな」と、よくはわからなかったけど同行することはいいと言っていた。

「え、コンだけど?」
「間違えてはおらぬが、我は混沌竜だ。例え無抵抗に噛まれようと牙1つ通らぬわ」
「そうなの?」
「竜の鱗の硬さは聞いたことあるだろう?その中でも我の鱗は最も硬いのだ、傷つけることさえ出来もせぬ」
「そっかぁ、それじゃあ行ってらっしゃい」
「うむ、行って来るぞ」

「ユンも久しぶりに仲間に会えるね」
「ワン!」
「イツキさん達に迷惑をかけないようにね?」
「ワフゥ」

 そう言って頭を撫でてあげると嬉しそうに体を擦り付けてから離れる。
 ユンはユンでコンが通訳出来るので、元々森に住んでいたユンも毎年森の調査に付いていくテウさんと一緒に行くことになっていた。



 そうしてコンとユンを最南の大森林へと送り出してから家に帰る。
「ただいま」
「おかえり」
 ミリィは学校に行っており、この時間だとお父さんは仕事中だからお母さんが返事をした。
「ロイ、お父さんが少し話があるから仕事場に来なさいって」
「わかった」
 僕はそれを聞いて、脱ぎかけていた靴をはき直して外からお父さんの仕事場に入る。

「お父さんただいま」
「おうおかえり」
 お父さんはそう言うとノミを置いて僕を見る。
「ロイ、こっちに来なさい」
「うん」
 僕は頷いて作業場の隅にある木の椅子を持って行って正面に座る。

「最近どうだ、従魔は」
「コンとユンのこと?」
「そうだ。仲はどうだ?」
「仲はいいよ!コンはもう家族だし、ユンはその、昔から懐いていたから」
「ああ……」

 ユンなのだが、従魔の仮契約をして帰ったあとその経緯を出会いから(噛まれた事を除いて)全て家族と村長一家に話しているのでお父さんは微妙な表情になった。
 その話をした後に村長から痛い拳骨を1つ頭に貰ったけど、それは仕方のない事だと思う。

「ロイ、確かFランク冒険者になっているそうだな」
「うん」
「ならユンも居る事だしその内Eランクくらいにはなれそうか?」
「え?うーん、コンが言うには他の狼より強いみたいだよ」
 他の狼より強い、どころではない王種であることは今も家族には話していない。
「そう、か。それと貯蓄は十分あった筈だな」
「あ、あはは。まあ、金貨2枚ぐらい」
 なぜ改めて聞くのかわからないけど、自分でも信じられない大金を持っている事が少し申し訳なく感じてつい目を逸らす。
「ロイ、この村は好きか?仕事はどうだ、やりたい事はないか」
「え、村も仕事も僕は大好きだけど、どうしたの?お父さんちょっと変だよ」
 何を言いたいのかイマイチよくわからなくて首を傾げると、お父さんは1つ溜息をつく。



「ロイ、一度旅をしてみないか?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーー

《コンside》

「イツキよ、あまりおかしな事はしないでもらいたい」
「わかったっての」

 我は今朝、主であるロイにあまりにおかしな質問をしていた事に若干怒っていた。

「お主の価値観ではおかしな事であるのはわかるが、それを貫ける力が無ければ死ぬのみなのだから」
「わかってんだよ、そんなことは」

 ロイは話す時に濁していたが「仕留めの儀」を行う理由には「食への感謝」「命を奪う経験」の他にもう一つ『人に襲われた時に命を守る為』というものがある。
 イツキの住む世界では「人殺し」とは『人を殺すこと』であるが、この世界では『罪の無い人を殺すこと』であるのにはそれ相応の理由がある。
 イツキの住む世界ではまず人に襲われる事は少ないが、この世界では盗賊などが多く人に襲われる事が比較にならない程に多い。
 その時に『村人』の命と『悪人』の命を同じ秤に乗せて考えてしまえば守るべき者を守れなくなってしまうため『罪を犯した者は同じ人では無い』という価値観が必要になる。
 だからといって勿論悪人は人では無いと断ずる訳では無く『可能な力があるのなら』殺さず捕らえることを狙うべきだとされている。

 だがそんな理屈はわかっていても納得は出来ないのだろう、イツキは顔を顰めた。

「まあよい。お主には力があるのだからそれを貫けば良い」
「言われんでもそうするっての」
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...