2 / 7
第1話 『私』の、二人のお母さん
しおりを挟む
「だからさぁ、そろそろ私の恋人になってよぉ」
こう言ったのが、いかにも軽薄そうな、髪を染めた少女である。場所は学校の教室で、周囲にはクラスメートが何人もいる。昼休みの見世物としては面白いようで、観客となった生徒たちの視線に囲まれている、この二人が私の『未来の両親』なのであった。
「……ならないったら、ならない。もう何回も言ってるはずよ」
そう言った黒髪の少女が教科書に視線を落として、自分の席で腰掛けながら懸命に、愛の告白を無視しようとしている。告白というか、これはナンパにしか見えない。大体、愛の告白やプロポーズって、こんなに観客がいる状態で軽薄に行うものではないと思う。
「だから私も、何回も言ってるんじゃないの。貴女が私の愛を何度も拒絶してるんだから」
軽薄な方の、私の『未来のお母さん』が、反省ゼロといった様子で話し掛け続けている。黒髪の方の『お母さん』は頬が紅潮していて、これは怒りと羞恥が半々だと思われた。
「貴女の恋人になんか、な・ら・な・い! 図書室に行ってくるから一人にして!」
拒絶の言葉を一音ずつ、はっきり区切るように言いながら勢い良く立って、黒髪のお母さんは教室から出て行った。私としては黒髪のお母さんに同情してしまう。軽薄な方のお母さんにはデリカシーというものが圧倒的に足りない。もっと黒髪のお母さんを気遣って欲しかった。
「相変わらず、あの子を怒らせてるねー。もう何回目の告白よ? 諦める気はないの?」
クラスメートに取っては、いつもの光景である。周囲から、教室に残された方のお母さんは質問を受けていて、お母さんはヘラヘラとした様子で応えていた。
「ないわよぉ。だって彼女は私の、最愛の女性なんだもの。ベストなものを追い求めるのって、当然じゃない?」
「最愛って言うけどアンタ、複数の彼女と付き合ってるじゃないの。そっちは、どうなのよ」
「それは仕方ないじゃない。だってモテるんだもの、私。何人も私に告白してきて、それを無下に断るのも気の毒じゃない? だから最近は『私、最愛の女性がいるけど、それでもいい?』って、ちゃんと事前に言ってるわよ。いわば期間限定の関係だから問題ないわ」
周囲からは「問題あるだろ」、「死ねばいいのに、こいつ」などとツッコミが入った。私も概ね、同じ意見だけど、こんな人でも『お母さん』である。死なれては私が生まれてこないので、どうか命だけは勘弁してあげてもらいたい。
軽薄な方のお母さんは、「どうすれば、私の愛が彼女に伝わるかなー」と呑気に言って、周囲は呆れ気味に「本人に聞いてみれば?」などと答える。「なるほど!」と、教室のお母さんは頷いていた。
こう言ったのが、いかにも軽薄そうな、髪を染めた少女である。場所は学校の教室で、周囲にはクラスメートが何人もいる。昼休みの見世物としては面白いようで、観客となった生徒たちの視線に囲まれている、この二人が私の『未来の両親』なのであった。
「……ならないったら、ならない。もう何回も言ってるはずよ」
そう言った黒髪の少女が教科書に視線を落として、自分の席で腰掛けながら懸命に、愛の告白を無視しようとしている。告白というか、これはナンパにしか見えない。大体、愛の告白やプロポーズって、こんなに観客がいる状態で軽薄に行うものではないと思う。
「だから私も、何回も言ってるんじゃないの。貴女が私の愛を何度も拒絶してるんだから」
軽薄な方の、私の『未来のお母さん』が、反省ゼロといった様子で話し掛け続けている。黒髪の方の『お母さん』は頬が紅潮していて、これは怒りと羞恥が半々だと思われた。
「貴女の恋人になんか、な・ら・な・い! 図書室に行ってくるから一人にして!」
拒絶の言葉を一音ずつ、はっきり区切るように言いながら勢い良く立って、黒髪のお母さんは教室から出て行った。私としては黒髪のお母さんに同情してしまう。軽薄な方のお母さんにはデリカシーというものが圧倒的に足りない。もっと黒髪のお母さんを気遣って欲しかった。
「相変わらず、あの子を怒らせてるねー。もう何回目の告白よ? 諦める気はないの?」
クラスメートに取っては、いつもの光景である。周囲から、教室に残された方のお母さんは質問を受けていて、お母さんはヘラヘラとした様子で応えていた。
「ないわよぉ。だって彼女は私の、最愛の女性なんだもの。ベストなものを追い求めるのって、当然じゃない?」
「最愛って言うけどアンタ、複数の彼女と付き合ってるじゃないの。そっちは、どうなのよ」
「それは仕方ないじゃない。だってモテるんだもの、私。何人も私に告白してきて、それを無下に断るのも気の毒じゃない? だから最近は『私、最愛の女性がいるけど、それでもいい?』って、ちゃんと事前に言ってるわよ。いわば期間限定の関係だから問題ないわ」
周囲からは「問題あるだろ」、「死ねばいいのに、こいつ」などとツッコミが入った。私も概ね、同じ意見だけど、こんな人でも『お母さん』である。死なれては私が生まれてこないので、どうか命だけは勘弁してあげてもらいたい。
軽薄な方のお母さんは、「どうすれば、私の愛が彼女に伝わるかなー」と呑気に言って、周囲は呆れ気味に「本人に聞いてみれば?」などと答える。「なるほど!」と、教室のお母さんは頷いていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる