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第16章 「相手を思いやる」こと
理不尽冷めの要素
しおりを挟む俊也はさよりからの手紙を繰り返し読んだ。
短くて簡単に読めてしまうから、何度ループしたか分からない。
「俊也さんが怖いわけじゃなくて、「そういうこと」が怖いんです。」
正直、聞くまでもない話だった。
「初めて」という壁を乗り越えられないがゆえの厄介さ。
さよりが率直に気持ちを書いてくれたことはうれしかったが、だからこそ、余計にどうしていいか分からない。
彼女を大切にし、長く付き合っていきたいという気持ちはある。
向こうもそう思っているなら、それ相応の努力をすべきだが、さよりが俊也の誘いに乗り、部屋に来ていることが既に「努力」といえば努力だった。
どうしたものかと考えた結果、俊也も1通の手紙を書いた。
◇◇◇
「水野さより様
お手紙ありがとう。君の気持ちは良く判りました。
俺も君の事が好きで、大事な女の子だと思っています。
だから君の気持ちは大切にして行きたい。
その上で、やはり俺の気持ちも理解して欲しいし、受け入れて貰えたらと思っている。
勝手なお願いだけど、今度の週末、外泊許可を取って俺の家に来てくれませんか。
君とゆっくり、時間を気にせずに、話したいことが有ります。
覚悟が要ることは判っている。でも、君の目を見て話さないと、ちゃんと俺の気持ちが伝わらないと思うし、君の気持ちも見失ってしまう気がするのです。
お返事待っています。
安部俊也」
◇◇◇
さよりは手紙を受け取り、少し考えてから、たまたま空いていた寮の電話から俊也に連絡した。
夜9時。留守だったが女と一緒だったわけではなく、同性の友人との付き合いだったらしい。
時間的にそう遅くなかったのと、既に俊也からの手紙を受け取っていたことで、さよりは比較的安定した気持ちで留守録に吹き込んだ。
「さよりです。あの…週末お邪魔します」
あとは外泊届けを出すだけだ。
詳細は俊也の連絡を待ち、週末まで待って何もこなければ、再度こちらから電話すればいい。
実は手紙を一読したとき、君の「事」が好き、「良く」判った、大切にして「行きたい」といった漢字表記に若干の違和感があったが、「自分の書き方とは違うが、こういう人もいるだろう。こだわるところではない」と考え直した。
このときのさよりには、「靴下を裏表に履いているのを見た」とか「居酒屋で「イモ焼酎、ロックで」と注文した」とかいう理由で、さーっと相手への気持ちが冷めてしまうみたいな、いわゆる理不尽冷めというものが理解できなかった。
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