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【終】ラベンダー色で
しおりを挟む【マッチング成功! 学視点】
俺は何を調子に乗っているんだ。
「見つけたぞ」って何だ。ストーカーか?
家出した家族を探し当てた高圧的な親父か何かか?
インパクトを出そうとした結果、とんだ大滑りをしてしまった気がする。
しかし幸い友香は反応してくれた。
「学なの?本当に?」
ああ、そうか。番号だけではやはり怪しまれても仕方がない。
「そうだ。図書室の松喜さんに番号を教えてもらった。
証明したいので、電話してもいいか?」
◇◇◇
【マッチング成功! 友香視点】
最初の1通目には驚いたけれど、簡潔にして生真面目な内容。
絶対学に間違いない。
でも、もちろん電話で声が聞けた方がうれしいに決まっている。
「うん!」
「では、すぐかけ直す」
◇◇◇
【調子に乗る学】
「元気だったか?」
『うん、元気元気。おばあちゃんのご飯おいしいから、ちょっと太ったかも』
「お前はやせ気味だったから、少し肉が付いたぐらいでちょうどいいだろう?」
友香は俺の弁当を食うようになってから、少し顔色はまともになった気はするが、やはり量はそう食べられていなかったように見えた。
その友香が「ご飯がおいしくて太った」とは、妙に心弾むフレーズである。
「おばあさんと同居するようになったのか?」
『あ、とね…。結局両親離婚しちゃって、ママは実家に帰って、親権はパパが取って、私はおばあちゃんと2人で暮らしてる、みたいな?』
「そういうことか…」
急な転校も何となく納得できた。
「それで今、どこに住んでいるんだ?」
『おばあちゃんちだけど…?』
「悪いが地名で言ってくれ」
『あ、ごめん。O電鉄の白山駅からバスで15分くらいのトコ』
隣県ではあるが、乗り換えさえうまくいけば、うちからでも1時間かからなそうな駅の名前だ。
「意外と近そうだな」
『そうなの。朱夏で同じクラスだった子でも、この辺から通ってる人いるっぽい』
なのに転校の必要はあったのか?と聞きかけたが、私立ということもあり、授業料が払えなくなったのではという憶測も飛んでいた。当たらずとも遠からずかもしれない。深く追求しないでおこう。
***
「実は伝えたいことがあってな」
『なあに?』
「貸しっ放しのワンピースのことだ」
『あ!そうだよ。私は学の家に行ったことあるんだから、私から行けばよかったんだよね』
「いやいや、そうじゃない。姉はそれをお前にプレゼントすると言っていた」
『え、こんなすてきなもの、もらえないよ。高そうだし』
「お前ならそう言うと思った。だから一つ提案したい」
『何を?』
「それは返しても返さなくてもいい。ただ、返すことで口実が作れるぞ」
『何の?』
「俺に会う口実に決まっているだろう?」
俺は今日、ひどく調子に乗っている。
なぜ一言、「お前に会いたい」と言えないんだ?
◇◇◇
【それぞれの 火曜の夜 友香視点】
なぜだかいつになく俺様っぽいことばかり言う学に、ちょっとドキドキしてしまうけど、ここは私も少し思い切らないと。
「会いたい!うん、学に会いたいよ!」
『え…いや…』
「何よ!私に会いたくないの?」
『そんなわけはないだろう!』
きゃっ(はあと)。
「塾とか行ってる?勉強忙しい?」
『塾は行っていない。このまま高等部に進むつもりだし、現状維持だな』
「じゃあ勉強教えてよ。私の受験は学よりずっとイバラの道だよ、きっと」
『なかなか言うな…』
◇◇◇
【それぞれの 火曜の夜 学視点】
電話を切った後見てみたら、「通話時間15分11秒」と出た。
俺にしては異例の長電話である。
連絡先は一通りやりとりし、登録もできた。
これでいつでも友香にアクセスできる。
しかし、あいつは転校先で性格まで変わったのか?
それとも俺が知らない原口友香がもう一度顔を出しただけなのか?
会う約束は改めてということになったが、妙に浮き浮きする。
次に会ったときは、率直に思いを伝えられるだろうか。
◇◇◇
【丸をつける 友香】
ちゃんと「会いたい」って言えた。
これからは、いつでもLINEでも通話でも何でもできる。
それだけでもかなりうれしい。
マジでちょっと太っちゃったから、学に会う前にダイエットしようかな。
でも、ご飯食べないとおばあちゃんが心配するしな。
「太ったくらいでちょうどいい」とか、おじさんみたいなこと言うな。ふふっ。
また学の住んでいる街を一緒に散歩したいし、私の今いるところも案内したい。
学はラーメンなんか食べるかな。おいしい店、教えてもらったんだけど。
あれもこれもって、一緒にやってみたいことがいっぱいある。
いつだったか学にもらったラベンダーの表紙のノートに大きく書きつけた。
「学、大好き!もうすぐ会える」
そしてお気に入りのラベンダー色の蛍光ペンで、くるっと丸く囲った。
抱き枕を抱え、ベッドに横たわって、くすくす笑いが止まらない。
【完】
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