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はしるの だいきらい! 1970年代、地方の住宅街のこんな風景
話を聞かないオトナ【終】
しおりを挟むタキ薬局はそこそこ広い県道に面していたが、駐車場がなかった。
客のほとんどは徒歩の地元客ということもあったが、当時この手の店は珍しくなかった。
店舗の裏手にはタキ夫妻の自宅の庭があり、一方通行の生活道路に面していた。
ガレージはないが、乗用車が2台ぐらいとめておけるスペースがあった。
タキ夫妻は車を持っていなかったので、ここにはタキ夫妻のお子さんたちが帰ってきたときや、来客があったときに車をとめるようだ。
トモミはある朝、いつものようにタキ薬局でのど飴を買い、生活道路を横切って家に帰ろうとした。
車は左側からしか来ないため、左の方をちらりと確認して渡ろうとしたが、なぜか右側から車が走ってきた。結構スピードも出ている。
「えっえっ~?」
トモミは軽くパニックを起こし、たっと走って道路を渡ろうとしたが、派手にクラクションを鳴らされたので、反射的にもといた場所に戻っていた。
間一髪という状況で、車はタキさん宅の駐車スペースにすっと入ったが、すぐに車から出てきた若い男に「走ったりしたら危ないでしょ」と注意された。
「え、だって…ここって車はそっち側から来ちゃダメなんじゃないの?」
「え?あれ?あ…」
男はきょろきょろし、進入禁止の赤、青地に白の「→」と、随所に設置された交通標識に気づいた。
そこで初めて状況に気づいたようだった。
「ここ結構広いし、一方通行とは思わなかったよ」
▽▽
クラクションに驚いて、「タキのおじいちゃん」が家から出てきた。
男はタキ夫妻の長男のところの孫らしい。事情を聞いてトモミに頭を下げた。
「お前、ちゃんと標識確認しなかったのか?」
「というか、右折って苦手だから…あっちから入ったら、駐車場に入るときに右折しなきゃなんないじゃん?遠回りだし」
男は県道との分岐になっているあたりを指差して言った。
あまりにも悪びれない様子に呆れて「まったくお前は…」と言った後、タキのおじいちゃんは、トモミを家まで送って事情を説明し、また頭を下げた。
トモミの両親は恐縮して、「どうぞお気になさらず。この子も飛び出しちゃったみたいだし」と、タキの孫を擁護するようなことを言った。
それだけならまだしも、母親に、「マラソン大会じゃないんだから、車が走るような道を走ったりしたら危ないんだよ」と、言われてしまった。
「な…」
「何もなかったからよかったけど」
「だから…飛び出したんじゃなくて…」
「いちいち口答えしないの!」
「…はい」
トモミは、「大人って人の話聞かないなあ。うちのオヤが特別ダメなだけかなあ」と、すっかりあきらめの気持ちが湧いていた。
▽▽
その後母は、「タキさんのところのバカ孫」の話題を、近所の奥様方との茶飲み話に提供していたが、あの後うっかりお孫さんも、「びっくりさせてごめんね、これから気を付けるから」とちゃんとトモミに謝ってくれたので、別にもう怒ってはいない。
「たまたま遊びにきていただけみたい。まったく、近所にあんなキケン運転する子が住んでいなくてよかったわ。ね、トモミ」
と声をかけられたが、すっかりへそを曲げていたトモミは完全に聞こえないふりをした。
【『はしるの だいきらい! 1970年代、地方の住宅街のこんな風景』了】
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