短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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入院

入院初日

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クズ女房とバカ旦那 割れ鍋にとじ蓋夫婦の物語

モラハラ気味の夫と、自分の不品行は棚に上げ、不満たらたらの妻。夫の手術入院をきっかけに何かが変わる…?

恋愛小説が優勢な某サイトでボロクソに酷評されました(笑)。

***


 まあ、なんだかんだで行かないと後からうるさいこと言われそうだから、退院まで毎日通った。
 さいしょの日は手続して、足りないもの買ってこいとか言われて、2日目に手術。

 それにしても、急に「新しいバスタオル買ってこい」って、ひどくない?
 ちゃんと入院前にもらったパンフ?みたいなのに書いてあったもの、そろえたのに。

 病院ではお昼ご飯から出ることになってたから、あたしはダンナがご飯食べている間、病院の近くのマックに食べにいったんだけど、戻ってきたら、「なんか手術のとき使う、新品で大きいのが欲しいんだ」とか言われて、わけわかんない。戻ってきたばっかりなのに、また出なくちゃ。
 だいたい、ビョーインなんだから、そんなのビョーインで用意するもんじゃないの?
 
 あ、この人もバカだから、お医者さんの言ったこと何か勘違いしてんのかも。

 …って、言いたいことはいっぱいあったけど、「うんわかった。ちょっと待ってて」って、もう一回外に出た。

 この病院はすごい街の中にあるから、近くにあるのはデパートばっかりで、スーパーとかホムセンとかは、ちょっと外れに行かないとない。
 で、仕方ないからデパートのそーいうコーナーで探したら、一番安いのが1,200円(税抜き)もした!ひえっ。

 100円ショップにも最近はあるらしいと聞いたけど、自分が買うときお店にないのは、売ってないのと同じ。

 結局30分くらいかけて、1,320円(税込み)払って帰ってきたあたしに、ねぎらいの一言もなく、「遅い」って。さらに、「何でこんな高いの買ってきた?」だとよ。

 まあ、こういう人だってことは分かってたからいいけど、やっぱ腹立つなあ。

 ほかに用事もなさそうだし、私がぼーっとベッドの脇に立っているだけで、ダンナはイヤホンをつけて、タブレットをじーっと見ているだけ。向こうから話しかけてはこないし、私から下手に話しかけても、生返事か「あ?You Tube見てんだからジャマすんな」くらいかな。
 「邪魔だから帰れ」とさえ言わない。

「…あーくんが学校から帰ってくるから、そろそろ帰るね」
「わかった」

+++

 あ、最初から話した方がいいか。
 
 なんかダンナが歯医者さんに行ってレントゲン撮ったら、左あごのところに腫瘍シュヨーみたいなのできてるって言われて、紹介状書いてもらって、大きい病院で手術することになったんだよ。

 悪いけど「お金かかっちゃうな」って、まずそれが気になった。

 限度額適用認定とかいって、あるていど以上の額にはなんないし、あとから保険会社に出してもらえるから大丈夫だって言われたし、「手術とかやめて!」と言うわけにもいかず、「わかった」とだけ返事した。

 でも、その大きい病院の手術や入院の予約は患者が自分でしなくちゃなんなくて、なぜか私が「女房の務め」とか言われて、休みの日はもちろん、パート先の休み時間も使って、電話何回もかけた。
 しかもつながっても、急によく分かんないこと言われて、ダンナに確認しなきゃいけなくなったりしたら、一からやり直し。
 早く確認したくて、仕事中の旦那に電話したりメッセージ送ったりしたら、「仕事中にかけてくんなって言ったろ?」ってさ。

 なんか手術して取り出してみないと、ただのできものなのか、悪性ガンなのかもわかんないらしいけど、悪性ならそのまま放っといて死んじまえとマジで思ったよ。

+++

 ダンナがあたしにやたら偉そうなのは、あたしが結婚2年目で浮気したからだ。
 だって、生活費ろくに入れてくれなくて、安月給のくせに、しょっちゅうローン組んでカメラ買ったり、ちっちゃいバイク買ったり。
 しかも何か買うたびに、「鬼嫁の許可ゲット(泣き顔アイコン)!既婚者は辛いよ」とか買ったものの写真つきでSNSに上げててさ。

 うそばっか。あたしに何も言わないでローン組んだくせに!

 唯一の取り柄は浮気しないことくらい。あんな金の使い方してりゃ、女に回る分はないだろうけど。あたしにも全然優しくないし、ご飯もいっつもまずいまずいって言う。
 そんなとき優しくしてくれた人と、フラフラッとホテルに2回行って、バレて、殴られたり蹴られたりした。

 ああ、これは離婚かなあ。慰謝料って女払わなきゃいけないのかなあと思ってたら、離婚はしてくれなかった。
 その代わり、ずっと「うるせえ、要らねえ」と言っていた子供を急に欲しいと言い出した。

 あたしの一番の失敗は、もちろん浮気したことなんだけど、生活費入れない、浪費がひどいってあたりで別れようって思うべきだったんだよね。経済DVなんて言葉、後から知った。

 あたし高校卒業する前に一応免許取ったんだけど、それ更新できなかったから失効しちゃったの。
 身分証明みたいに持ち歩いてただけだから、たしかにあんま何も考えてなかったけど、更新の通知みたいなのも隠されて、気付いたら――だった。
 何でそんな嫌がらせしたのかといえば、「お前に“足”あると、ろくなことに使わないから」だって。

 免許なくて、子供いたら、そりゃ不自由だよね。どこにも行けない。殴る蹴るの浪費バカダンナでも頼るしかない。

 それでも子供ができたら変わってくれるかなと思ったら、子供は確かにかわいがるんだけど、結局子供をダシにして、地味に高いおもちゃとか欲しがるようになったりして、前よりひどくなった感じ。しかも妊娠してパート辞めたせいもあって、すごい苦しくなった。

 高卒で若いうち結婚したし、特技や資格もないから、いいところに就職するのも無理。
 あーくん(子供)が三つぐらいになったとき、「パート探す」って言ったら、「パート程度の仕事で育児は保育園に丸投げか?女は気楽だな」と、何も聞く耳もたないって調子で言われて、仕方なく諦めた。

 いよいよ支払いヤバくなったとき、ダンナのカードケースからクレカ抜いて、キャッシングしてしのいで――当然のようにバレて殴る蹴る。
 あれも確かに考えなしだったなあとは思ったけど、「泥棒!」だの「無駄遣いツケを俺に回すな」だの言われ、むかーっと来た。

 自分はバカスカ欲しいもの買えていいね。
 あたしは何年も美容院行ってないし、服も持ち物も4ケタで買えるものしかもってないよ。

 こんなあたしとダンナは、お互いの「顔がめちゃタイプ」って理由で結婚した。
 だからダンナは、「外の女はブスとババァばっかりだ。さわりたくもない」と言って、あたしをアイしてくれる。優しいのはそのときだけ。

 あたしはもちろんバカだったけど、あんたも大概じゃん。
 私がクレカ盗んだことケロッと忘れて、管理もテキトーだし、暗証番号も変えてないらしい。
 その暗証番号だって、「覚えられない」って理由で、銀行もスマホも全部同じなんだよね。

 あーくんはすごくいい子に育ってくれてる。目の前であたしをののしったり、殴ったりしているのを見せたくない。
 あたしがもうちょっといいママになれればいいんだけど、あいつは何があってもあのままだろうなって、何となく分かる。
 そんなクソダンナでも、あーくんには「遊んでくれるいいパパ」だ。

 いっそその記憶を残したまま、死んでくれないかなーと思うことが多くなった。
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