短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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ヒロインの条件

ミーちゃん

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「何というか…まあ、頑張れ」
悪い子(人)ではないんだけど…なんて評したくなる人が結構いますが、それは「良い人」とイコールで結べるものではない、そんな話です。

***

 ミーちゃんは親しみやすくて気配りができると評判の女の子だ。

 私のような偏屈な人間にも分け隔てなく接してくれるし、私の母もそう言ってミーちゃんを高く買っている。

「ああいう子はきっと、良い人に見初められて玉の輿に乗ったりするんだろうね。あんたも見習いなさい」とか何とか。

 価値観に昭和テイストがにじむのは、まあ昭和生まれ昭和育ちだから仕方ないし、見習えっていうのも一応理解はする。

 自慢の友人、と言っていいと思う。

◇◇

「ナミちゃん、コーラあげるよ。飲みなよ」
「ん?」
「今日もあっついもんね。こういうの飲まなきゃやってらんないよ」

 ミーちゃんが、トウモロコシみたいにスラリと並んだ真っ白な歯をのぞかせ、鼻根にしわを寄せたような複雑な笑顔でそう言った。

「ミーちゃん、酔っ払いのおっさんみたいな言い方してる」
「ガハハ。うっし、今日はサイフの中のゴミまで全部使って飲み明かすぞ!」

 ミーちゃんは読書家で頭の回転が速くて、いつも誰かを笑わせるようにおどけて見せる。
 サイフの中のゴミ、って言い方は、何かの小説だか漫画の中で読んでツボにはまったらしく、「ねー、面白いでしょ」って教えてくれたったけ。
 確かに面白い言い回しなんだけど、何度聞いても笑えるほどの「すべらない話」かっていうと、まあ……(以下略)。

 でも今の私には、その話が笑えるか笑えないか以前に、ちょっと対処に困る大問題があった。

「あのさ…せっかくだけど…私、炭酸飲めないんだよね」
「え?だっけ――あー、忘れてた。そう言ってたよね。ごめんごめん」
「あ、こっちこそ。てか、気にしないで。自分のお茶持ってる……」
「誕生会のパーティーで頭からひっかけられたのがトラウマになったって、前言ってたよね。私としたことが!」

 ミーちゃんはそう言いながら、右手の指の付け根のあたりで自分の頭を軽くトンッとと叩いた。

「あ……はは。ねぇ……」

 それ以上は何も言えないのだが、誕生日エピソードは実は私のものではない。
 お付き合いの範囲が広いミーちゃんのことだから、ほかの誰かと間違っているのだろう。大した問題ではない。

◇◇

 学校のプール脇、でも水泳部の部活風景が微妙に見えない箇所。
 私やミーちゃん、その他帰宅部、あまり忙しくない部活の部員などが、用事もバイトも塾もなく、家にすぐ帰るのもピンとこない、みたいな状況のとき、よくこのスポットにたむろする。

 プールの水しぶきとはつらつとした声が響いて、女の子の多くは、「どうしてうちの学校のプールは微妙に小高く造ってあるのかな」と恨めしく思っていた。
 水泳部には、かわいい顔と美しい背筋と太い実家(下品な表現失礼)を持ったみんなの憧れ・エイゴくんがいるからだ。

 エイゴくんの華麗なスイムを直接見ることはできなくても、近くにいて雰囲気を味わえるし、みんなでたむろってしゃべるにはぴったりなので、何となくたまり場になりやすい。

 今日はたまたま私とミーちゃんだけだったが、何日か前、私は趣味の近いミヤちゃんと、はまっている海外ドラマの話をしていた。
 ミーちゃんは別の子たちと一緒で、こんな話で盛り上がっていたっけ。

「…でさ、炭酸飲めないって人いるじゃん?いったい何アピールだよって思わない?」
「そうそう。あれめっちゃシラけるよね。のどがデリケートとか言いたいのかね」
「女子力の演出じゃない?コーラ嫌いって言うだけでモテるなら安いもんだよね~」
「親が飲ませない主義の人もいるけど…」
「そういうのもさ、結局、厳しい親にきちんと育てられるとか、健全とかのアピールじゃない?なんか絡みづらくね?」
「そうそう。もう高校生なんだし、なら自分で買ってこっそり飲めばいいじゃんね」

 その場には3、4人いたし、クロストーク状態だったから、誰がどの言葉を言ったかは、さして重要ではない――ということにしておこう。
 一つだけ言いたいのは、「親が飲ませない」云々を言ったのはミーちゃんではなかったということだけだ。
 話を盛り上げるため、多少悪口っぽい言い方になるのも、ある意味ミーちゃんの個性である。単に空気を読んで、合わせているだけなんだ。

 あの盛り上がりから何日も経っていない状態で、コーラを勧められ、しかも「理由はないけど苦手で飲みたくない」私は断らざるを得ない。
 そしてミーちゃんは、「聞いていたはずなのに、忘れてごめん!」と、多少記憶違いはあるものの詫びてくれている。

 それだけ、たったそれだけの話である。

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