70 / 78
ヒロインの条件
ミーちゃん
しおりを挟む
「何というか…まあ、頑張れ」
悪い子(人)ではないんだけど…なんて評したくなる人が結構いますが、それは「良い人」とイコールで結べるものではない、そんな話です。
***
ミーちゃんは親しみやすくて気配りができると評判の女の子だ。
私のような偏屈な人間にも分け隔てなく接してくれるし、私の母もそう言ってミーちゃんを高く買っている。
「ああいう子はきっと、良い人に見初められて玉の輿に乗ったりするんだろうね。あんたも見習いなさい」とか何とか。
価値観に昭和テイストがにじむのは、まあ昭和生まれ昭和育ちだから仕方ないし、見習えっていうのも一応理解はする。
自慢の友人、と言っていいと思う。
◇◇
「ナミちゃん、コーラあげるよ。飲みなよ」
「ん?」
「今日もあっついもんね。こういうの飲まなきゃやってらんないよ」
ミーちゃんが、トウモロコシみたいにスラリと並んだ真っ白な歯をのぞかせ、鼻根にしわを寄せたような複雑な笑顔でそう言った。
「ミーちゃん、酔っ払いのおっさんみたいな言い方してる」
「ガハハ。うっし、今日はサイフの中のゴミまで全部使って飲み明かすぞ!」
ミーちゃんは読書家で頭の回転が速くて、いつも誰かを笑わせるようにおどけて見せる。
サイフの中のゴミ、って言い方は、何かの小説だか漫画の中で読んでツボにはまったらしく、「ねー、面白いでしょ」って教えてくれたったけ。
確かに面白い言い回しなんだけど、何度聞いても笑えるほどの「すべらない話」かっていうと、まあ……(以下略)。
でも今の私には、その話が笑えるか笑えないか以前に、ちょっと対処に困る大問題があった。
「あのさ…せっかくだけど…私、炭酸飲めないんだよね」
「え?だっけ――あー、忘れてた。そう言ってたよね。ごめんごめん」
「あ、こっちこそ。てか、気にしないで。自分のお茶持ってる……」
「誕生会のパーティーで頭からひっかけられたのがトラウマになったって、前言ってたよね。私としたことが!」
ミーちゃんはそう言いながら、右手の指の付け根のあたりで自分の頭を軽くトンッとと叩いた。
「あ……はは。ねぇ……」
それ以上は何も言えないのだが、誕生日エピソードは実は私のものではない。
お付き合いの範囲が広いミーちゃんのことだから、ほかの誰かと間違っているのだろう。大した問題ではない。
◇◇
学校のプール脇、でも水泳部の部活風景が微妙に見えない箇所。
私やミーちゃん、その他帰宅部、あまり忙しくない部活の部員などが、用事もバイトも塾もなく、家にすぐ帰るのもピンとこない、みたいな状況のとき、よくこのスポットにたむろする。
プールの水しぶきとはつらつとした声が響いて、女の子の多くは、「どうしてうちの学校のプールは微妙に小高く造ってあるのかな」と恨めしく思っていた。
水泳部には、かわいい顔と美しい背筋と太い実家(下品な表現失礼)を持ったみんなの憧れ・エイゴくんがいるからだ。
エイゴくんの華麗なスイムを直接見ることはできなくても、近くにいて雰囲気を味わえるし、みんなでたむろってしゃべるにはぴったりなので、何となくたまり場になりやすい。
今日はたまたま私とミーちゃんだけだったが、何日か前、私は趣味の近いミヤちゃんと、はまっている海外ドラマの話をしていた。
ミーちゃんは別の子たちと一緒で、こんな話で盛り上がっていたっけ。
「…でさ、炭酸飲めないって人いるじゃん?いったい何アピールだよって思わない?」
「そうそう。あれめっちゃシラけるよね。のどがデリケートとか言いたいのかね」
「女子力の演出じゃない?コーラ嫌いって言うだけでモテるなら安いもんだよね~」
「親が飲ませない主義の人もいるけど…」
「そういうのもさ、結局、厳しい親にきちんと育てられるとか、健全とかのアピールじゃない?なんか絡みづらくね?」
「そうそう。もう高校生なんだし、飲みたいなら自分で買ってこっそり飲めばいいじゃんね」
その場には3、4人いたし、クロストーク状態だったから、誰がどの言葉を言ったかは、さして重要ではない――ということにしておこう。
一つだけ言いたいのは、「親が飲ませない」云々を言ったのはミーちゃんではなかったということだけだ。
話を盛り上げるため、多少悪口っぽい言い方になるのも、ある意味ミーちゃんの個性である。単に空気を読んで、合わせているだけなんだ。
あの盛り上がりから何日も経っていない状態で、コーラを勧められ、しかも「理由はないけど苦手で飲みたくない」私は断らざるを得ない。
そしてミーちゃんは、「聞いていたはずなのに、忘れてごめん!」と、多少記憶違いはあるものの詫びてくれている。
それだけ、たったそれだけの話である。
悪い子(人)ではないんだけど…なんて評したくなる人が結構いますが、それは「良い人」とイコールで結べるものではない、そんな話です。
***
ミーちゃんは親しみやすくて気配りができると評判の女の子だ。
私のような偏屈な人間にも分け隔てなく接してくれるし、私の母もそう言ってミーちゃんを高く買っている。
「ああいう子はきっと、良い人に見初められて玉の輿に乗ったりするんだろうね。あんたも見習いなさい」とか何とか。
価値観に昭和テイストがにじむのは、まあ昭和生まれ昭和育ちだから仕方ないし、見習えっていうのも一応理解はする。
自慢の友人、と言っていいと思う。
◇◇
「ナミちゃん、コーラあげるよ。飲みなよ」
「ん?」
「今日もあっついもんね。こういうの飲まなきゃやってらんないよ」
ミーちゃんが、トウモロコシみたいにスラリと並んだ真っ白な歯をのぞかせ、鼻根にしわを寄せたような複雑な笑顔でそう言った。
「ミーちゃん、酔っ払いのおっさんみたいな言い方してる」
「ガハハ。うっし、今日はサイフの中のゴミまで全部使って飲み明かすぞ!」
ミーちゃんは読書家で頭の回転が速くて、いつも誰かを笑わせるようにおどけて見せる。
サイフの中のゴミ、って言い方は、何かの小説だか漫画の中で読んでツボにはまったらしく、「ねー、面白いでしょ」って教えてくれたったけ。
確かに面白い言い回しなんだけど、何度聞いても笑えるほどの「すべらない話」かっていうと、まあ……(以下略)。
でも今の私には、その話が笑えるか笑えないか以前に、ちょっと対処に困る大問題があった。
「あのさ…せっかくだけど…私、炭酸飲めないんだよね」
「え?だっけ――あー、忘れてた。そう言ってたよね。ごめんごめん」
「あ、こっちこそ。てか、気にしないで。自分のお茶持ってる……」
「誕生会のパーティーで頭からひっかけられたのがトラウマになったって、前言ってたよね。私としたことが!」
ミーちゃんはそう言いながら、右手の指の付け根のあたりで自分の頭を軽くトンッとと叩いた。
「あ……はは。ねぇ……」
それ以上は何も言えないのだが、誕生日エピソードは実は私のものではない。
お付き合いの範囲が広いミーちゃんのことだから、ほかの誰かと間違っているのだろう。大した問題ではない。
◇◇
学校のプール脇、でも水泳部の部活風景が微妙に見えない箇所。
私やミーちゃん、その他帰宅部、あまり忙しくない部活の部員などが、用事もバイトも塾もなく、家にすぐ帰るのもピンとこない、みたいな状況のとき、よくこのスポットにたむろする。
プールの水しぶきとはつらつとした声が響いて、女の子の多くは、「どうしてうちの学校のプールは微妙に小高く造ってあるのかな」と恨めしく思っていた。
水泳部には、かわいい顔と美しい背筋と太い実家(下品な表現失礼)を持ったみんなの憧れ・エイゴくんがいるからだ。
エイゴくんの華麗なスイムを直接見ることはできなくても、近くにいて雰囲気を味わえるし、みんなでたむろってしゃべるにはぴったりなので、何となくたまり場になりやすい。
今日はたまたま私とミーちゃんだけだったが、何日か前、私は趣味の近いミヤちゃんと、はまっている海外ドラマの話をしていた。
ミーちゃんは別の子たちと一緒で、こんな話で盛り上がっていたっけ。
「…でさ、炭酸飲めないって人いるじゃん?いったい何アピールだよって思わない?」
「そうそう。あれめっちゃシラけるよね。のどがデリケートとか言いたいのかね」
「女子力の演出じゃない?コーラ嫌いって言うだけでモテるなら安いもんだよね~」
「親が飲ませない主義の人もいるけど…」
「そういうのもさ、結局、厳しい親にきちんと育てられるとか、健全とかのアピールじゃない?なんか絡みづらくね?」
「そうそう。もう高校生なんだし、飲みたいなら自分で買ってこっそり飲めばいいじゃんね」
その場には3、4人いたし、クロストーク状態だったから、誰がどの言葉を言ったかは、さして重要ではない――ということにしておこう。
一つだけ言いたいのは、「親が飲ませない」云々を言ったのはミーちゃんではなかったということだけだ。
話を盛り上げるため、多少悪口っぽい言い方になるのも、ある意味ミーちゃんの個性である。単に空気を読んで、合わせているだけなんだ。
あの盛り上がりから何日も経っていない状態で、コーラを勧められ、しかも「理由はないけど苦手で飲みたくない」私は断らざるを得ない。
そしてミーちゃんは、「聞いていたはずなのに、忘れてごめん!」と、多少記憶違いはあるものの詫びてくれている。
それだけ、たったそれだけの話である。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる