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友人[メンバー]を1人失ったお話
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多くの人には、他人から知的に見られたい、知性を根拠に一目置かれたいという欲求があります。
もちろん私にもあります。
だからこそ「半可通」という言葉があるのでしょう。
念のために補足すると、「よく知らないことを知っているようなふりをすること」というほどの意味です。
この「よく」知らないというのがキモです。
全く知らないわけではなく、輪郭をなぞっていたり、一部分を半端に知っていたりするからこそ、「知ったかぶり」が成り立つという側面もあります。
***
20年くらい前、映画関係のメーリングリスト(以下「ML」と省略)で活発に発言なさっていた方がいました。
同年生まれ者のコミュニティーで知り合って、映画や読書の趣味が割と合ったので、私から「いかがですか」と誘った格好ですが、「ネット筆まめ」だった彼は、すぐに映画MLにもなじみ、いろいろな人と絡んでいました。
そのMLは実は私が開設したものだったので、自分から話題を振ることが多かったのですが、メンバーの9割以上がROM状態だった中、毎回反応していた1人が彼でした。
「シュワちゃん」の愛称でおなじみの俳優アーノルド・シュワルツェネッガーが主演したコメディーの話題を出し、「あの人は演技がどうのというよりも、その存在感や人間味がコミカルな味を醸し出しているところが魅力だと思う」と書いたところ、「彼」からこのような反応がありました。
「英語が聞き取れると分かると思いますが、あの人ってオーストラリア訛りがあるんですよね」
「………(心の声ならぬ心の三点リード×2)」
シュワちゃんはAustraliaではなくAustria[オーストリア]出身なので、もしも英語に訛りが反映されているとしたら、オーストリアドイツ語訛りではないかと思います。
いやしかし、私が知らないだけで、例えばボディービルダー時代とかのあまり有名でなかった頃、オーストラリアと縁があり、その訛りがついてしまったのか?という可能性もゼロではありません。それこそ、英語は英語にしか聞こえない私にはニュアンスの違いが分からないだけで。
高確率で「オーストラリアとオーストリアを錯誤している」「英語がちょっと訛っている」から導き出された誤情報というか誤認識だとは思いつつ、私は反応に窮しました。
その後、ガチで英語の分かる方がやんわりと「多分思い込みではないかと思います」と指摘していたので、その話はそこで終わりました。
あまり言いたくはないのですが、「彼」は少し思い込みで先走る面がもともとあったように思います。
決して悪い人ではないし、特に「思い切って初投稿しました」という方には積極的に絡んでくれていました。
思い込みも「自分はこう思う」という感想程度の話なら特に問題はないのですが、そもそも誤った情報だった場合はさすがに困ります。
さて、どう指摘したもんか…と思っていたところへの助け舟に、私は大いに感謝し、「ありがとうございます。勉強になりました」とリプをつけました。
「彼」はその後も変わらず、私の投稿に反応したり、自分の意見を投稿したりしてくれました。
***
しかし、その後しばらくして、「彼」はMLを退会しました。
メンバーの入退会は珍しいことではないので、普通は気にも留めないのですが、さすがにあれだけ活発に投稿してくださった人の退会理由は気になります。
かといって、それを問いただすのも違うかなあと思っていたら、「彼」の方から直メールが来ました。
要するに、「私さんからの反応が鈍くなってしまったので、迷惑しているのではと思った」ということのようです。
そんなつもりはなかったのですが、シュワちゃんの英語に関する思い込みを指摘したのを見て安心し、他の人とコミュニケートしているところには割って入らないようにしようと思っていたことは確かです。
「彼」の投稿への反応が全くないときは、私がリプをつけるようにはしていたのですが、そういう距離の取り方から、私の本音が透けて見えてしまったのかもしれません。すなわち「この人ちょっと絡みづらいな…」という態度です。
「彼」は日記、掲示板、写真ギャラリー的な個人のWebサイトを持っていたので、そこでも交流はあったのですが、何となくそこからも足が遠のいてしまい、MLの他のコミュニティーでの接触もなくなりました。
所詮はネットだけのお付き合いで、多分一生会うこともなかった人だとは思いますが、まだネットに不慣れだった時代でもあり、それなりに引きずりました。
今、似たような状況になったら、きっともっとうまく立ち回れるだろうと思う反面、「あのとき」どういうふうにするのが正解だったのか、実は未だに分からずにいます。
もちろん私にもあります。
だからこそ「半可通」という言葉があるのでしょう。
念のために補足すると、「よく知らないことを知っているようなふりをすること」というほどの意味です。
この「よく」知らないというのがキモです。
全く知らないわけではなく、輪郭をなぞっていたり、一部分を半端に知っていたりするからこそ、「知ったかぶり」が成り立つという側面もあります。
***
20年くらい前、映画関係のメーリングリスト(以下「ML」と省略)で活発に発言なさっていた方がいました。
同年生まれ者のコミュニティーで知り合って、映画や読書の趣味が割と合ったので、私から「いかがですか」と誘った格好ですが、「ネット筆まめ」だった彼は、すぐに映画MLにもなじみ、いろいろな人と絡んでいました。
そのMLは実は私が開設したものだったので、自分から話題を振ることが多かったのですが、メンバーの9割以上がROM状態だった中、毎回反応していた1人が彼でした。
「シュワちゃん」の愛称でおなじみの俳優アーノルド・シュワルツェネッガーが主演したコメディーの話題を出し、「あの人は演技がどうのというよりも、その存在感や人間味がコミカルな味を醸し出しているところが魅力だと思う」と書いたところ、「彼」からこのような反応がありました。
「英語が聞き取れると分かると思いますが、あの人ってオーストラリア訛りがあるんですよね」
「………(心の声ならぬ心の三点リード×2)」
シュワちゃんはAustraliaではなくAustria[オーストリア]出身なので、もしも英語に訛りが反映されているとしたら、オーストリアドイツ語訛りではないかと思います。
いやしかし、私が知らないだけで、例えばボディービルダー時代とかのあまり有名でなかった頃、オーストラリアと縁があり、その訛りがついてしまったのか?という可能性もゼロではありません。それこそ、英語は英語にしか聞こえない私にはニュアンスの違いが分からないだけで。
高確率で「オーストラリアとオーストリアを錯誤している」「英語がちょっと訛っている」から導き出された誤情報というか誤認識だとは思いつつ、私は反応に窮しました。
その後、ガチで英語の分かる方がやんわりと「多分思い込みではないかと思います」と指摘していたので、その話はそこで終わりました。
あまり言いたくはないのですが、「彼」は少し思い込みで先走る面がもともとあったように思います。
決して悪い人ではないし、特に「思い切って初投稿しました」という方には積極的に絡んでくれていました。
思い込みも「自分はこう思う」という感想程度の話なら特に問題はないのですが、そもそも誤った情報だった場合はさすがに困ります。
さて、どう指摘したもんか…と思っていたところへの助け舟に、私は大いに感謝し、「ありがとうございます。勉強になりました」とリプをつけました。
「彼」はその後も変わらず、私の投稿に反応したり、自分の意見を投稿したりしてくれました。
***
しかし、その後しばらくして、「彼」はMLを退会しました。
メンバーの入退会は珍しいことではないので、普通は気にも留めないのですが、さすがにあれだけ活発に投稿してくださった人の退会理由は気になります。
かといって、それを問いただすのも違うかなあと思っていたら、「彼」の方から直メールが来ました。
要するに、「私さんからの反応が鈍くなってしまったので、迷惑しているのではと思った」ということのようです。
そんなつもりはなかったのですが、シュワちゃんの英語に関する思い込みを指摘したのを見て安心し、他の人とコミュニケートしているところには割って入らないようにしようと思っていたことは確かです。
「彼」の投稿への反応が全くないときは、私がリプをつけるようにはしていたのですが、そういう距離の取り方から、私の本音が透けて見えてしまったのかもしれません。すなわち「この人ちょっと絡みづらいな…」という態度です。
「彼」は日記、掲示板、写真ギャラリー的な個人のWebサイトを持っていたので、そこでも交流はあったのですが、何となくそこからも足が遠のいてしまい、MLの他のコミュニティーでの接触もなくなりました。
所詮はネットだけのお付き合いで、多分一生会うこともなかった人だとは思いますが、まだネットに不慣れだった時代でもあり、それなりに引きずりました。
今、似たような状況になったら、きっともっとうまく立ち回れるだろうと思う反面、「あのとき」どういうふうにするのが正解だったのか、実は未だに分からずにいます。
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