小手先の作業

あおみなみ

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最新式〇〇

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 大昔にちらりと見ただけのコラムか何かなので、「これ」というソースが示せないのですが、次のようなエピソードを読んだことがあります。

 時代は昭和――多分せいぜい戦後間もなくのことだと記憶しています。

 痴情のもつれで交際相手だったか配偶者だかを殺した容疑で、ある女性が裁判にかけられました。
 女性はその中で、こんな質問をされます。

「洗濯は好きですか?」

 男女同権だウーマンリブだといった言葉も概念もない頃でしょう。
 当然のように洗濯は女性の役割で、なおかつ洗濯機も普及していない、「たらいと洗濯板」という時代ですから、ちょっとした重労働だったでしょう。
 要するに、愛する人のために大変な作業ができるかどうか、愛情テストのような質問だったのだと思います。

 女性は「嫌い」と答えたそうです。

 その裁判の結果がどうだったかは知りませんが、「好き」と答えたら情状酌量されるというんでもない限り、聞くまでもない答えでしょうね。

 というか、愛の深さゆえに起きた事件だったのだから、洗濯が好きだろうが嫌いだろうが、「好きな人のために頑張る」という言葉は成り立つし、何の意味があるんだろうと、釈然としない気持ちで読んだ覚えがあります。

***

 マクラとしてはやや重な話ですが、日本で第1号の洗濯機が発売されたのは1930年だそうです。冒頭の話の頃は、多分この世に洗濯機は「存在した」と思われますが、ある資料によると、銀行員の平均月収が70円の時代に370円というお値段ですから、庶民がおいそれと変えるものではなかったようです。現代なら、ちょっといい車を無理して買う感じでしょうか。

 事細かに洗濯機の歴史を語ろうとしても、自分が生まれる前のことで、ただの資料の引き写しになるだけなので、この辺で留めておきます。
 いずれにしても、今のように、どこの家にも当たり前に洗濯機が普及したのは、もっともっと後の話ですね。
 何となく個人的に記憶にあるのは、昭和50年代に読んでいた漫画雑誌で、とある作家さんが描いた、ちょっとしたコミックエッセイです。

「うちは全自動ですのよ、オホホ」と、ウィンウィン動く洗濯機の前でご満悦の作家さん。しかし次のコマで、「これ忘れていかれましたよ」と、謎の女性に下着を渡されていました。要するに、よその家で洗濯機を借りていたというオチだったようです。

 当時、うちの洗濯機は二槽式でした。
 洗濯は主に祖母の仕事でしたが、彼女は「便利な時代になったもんだねえ」としみじみ言うほのぼの系ではなく、口答えばかりする孫に、「誰が洗濯してやっていると思ってる!」などとかみつくタイプだったので、「別にばあちゃん手洗いしるわけじゃねーだろ!」と、バカ兄貴に反論されていました。

 祖母VS兄貴はさまざまな場面で繰り広げられていました。
 私も祖母とは性格的に合わないと思っていたものの、こと兄貴が祖母を攻撃するときだけは祖母の味方でした(具体的な加勢はせず、心の中だけですが)。
 たとえ洗濯機、それも電気式を使っているとはいえ、干して、取り込んで、アイロンかけて、たたんで…までが祖母の仕事なのですから、十分いい仕事してるじゃないですか。少なくとも、靴下を裏返しに出すような兄貴に言われる筋合いはありません。

 しかも二槽式の場合、脱水槽にすすいだ洗濯ものを入れるという手間もあります。
 これ、特に冬場なんかは結構しんどいものがあるのですよ。
 全自動ったって干して、取り込んで――まではやってくれないでしょうが、脱水槽への移動がないだけでも、夢の洗濯機マシンだなあと思えました。

***

 初めてのひとり暮らしに際し、2.2キロの二槽式洗濯機を買いました。
 そこそこ幅を取る割に、驚くほどキャパが小さかったものの、壊れるまではそのまま使っていました。
 その後、もう少し大きな二槽式→全自動と、故障のたびに買い替えました。

 ちなみに全自動式を初めて買ったのは1996年のことです。これも5年ほどで買い換えましたが、そのときに思ったのは、「古い全自動洗濯機って、ちょっとシュールだな」でした。
 「古い」全自動だって、買ったばかりのときは最新式の域に入っていたはずです。洗濯機そのものが普及し始めてきたばかりの頃なら、全自動自体が近未来SF(いや言い過ぎか)のシロモノだったでしょう。

 そういえばフィーチャーフォンからスマホに切り替えたとき、それまで7年使っていた W64S (今見たら、メルカリで955円で出ていた!てかこういうのって何に使うの?)をショップで出したら、「うわー、懐かしい!久々に見ましたよ~」と感慨深げに言われてしまいました。これも発売1カ月目で買ったものだったのになあ。

 どんな新型でもいつかは旧型になるし、使えば劣化も故障もします。
 当たり前のことだけれど、実際に「使う」ことで年月を経ないと、それは実感できません。

***

 下着やタオル、日常着のほかに、旦那が山歩きの際に身に付けていた厚手のシャツやら靴下やらで、いつもより「かさまし」された洗濯かご。
 ただ洗剤と柔軟剤を入れて、水道栓ひねってスイッチを押すだけなのに、何で私はこんなに「面倒くさっ」という気持ちになっているのでしょう。

 洗濯が苦痛か否かで愛情を値踏みされるのもムカつきますが、面倒なものは面倒なんです。

 そんなときは、必死で手洗いしていた先人の苦労とか、たった5・6年で使えなくなってしまった「かつて新型だった」洗濯機たちに思いをはせてみます。

 現行品はまだ2年生です。いつも私たちのために働いてくれてありがとう!
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