次に会うときは他人ですから

あおみなみ

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甘党の谷先生

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 担任の谷明彦あきひこ先生は、30歳まで行っていないくらいの若い男の人だ。
 小柄で童顔で、黒縁の眼鏡が結構似合っていて、時々髪に寝ぐせついているような人。
 学園ものの漫画とかアニメに出てきそうな、生徒から親しみを込めて「〇〇ちゃん先生」とか呼ばれるキャラを想像すると、意外としっくりくるかも。

 担当教科は数学で、少しなまりはあるものの聞きやすい話し方で、授業も分かりやすい。
 年齢が若いってこともあるけど、頭ごなしに理不尽な叱り方をしないし、「話せる大人の人」だと思う。

 私はそーいうのよくわかんないけど、ああいう先生って割と「ガチ恋女子」みたいなファンが付きやすいよねって、誰かが言ってた。
 男子に「先生、どうせ彼女とかいねえんだろ?」ってからかわれて、「はいはい、いいから授業始めるよ」って、ごまかし口調で雑に反応しているのを見て、そういうコは「いないなら、私にもチャンスが…」って思ったりするのかな。

 若い先生で「この間カノジョと水族館でデートして…」なんて話を授業中にする先生もいるらしい。
 正直先生のプライベートにはそんなに興味ないから、どっちでもいいんだけどね。 
 私としては、谷先生くらいのあしらい方の方が好感持てる。

***

 月曜日の朝学活のとき、最前列に座っていた女子の一人が、「先生、ひょっとして今お菓子持ってる?」って聞いた。
 その子はもともと割と鼻がいいらしいんだけど、先生が教室に入ってきた途端、バターとバニラエッセンスの香りがふわっとしたというのだ。

「あ、言われてみると…」
「そうか?俺わかんねえ」

 みんな口々に言い始めて、少しざわざわしたので、先生が「ほーら、静かにして」と言った後、心当たりのことを話してくれた。

「多分、今朝食べたマフィンのせいじゃないかな。朝ごはん代わりだったから、これくらいのを三つも食べちゃったんだ」

 両手を使って、おにぎりを握るみたいな手つきで大きさを表現しているのも、妙に説得力があったけれど、また別の意味でみんなが騒ぎ始めた。
 ちなみに先生が甘党であることは、学校報の「担任紹介」とかにも書かれていたからみんな知っている。

「えー、マフィンとかオシャレじゃん」
「それ朝飯なの?ティータイムみたい」
「どこのお店のですか?」

 先生は再びみんなを静かにさせようと、少し声を張ったついでに、「どこのお店のですか?」という質問にだけ、答えかけた。

「あ、店じゃなくて…もういいだろう?」

 先生は最後までは言わなかったけれど、店じゃないということは手づくりか?自作?恋人がつくったとか?と、結局その日の業間休みの話題を提供することになってしまった。

 「私もお菓子づくりとか頑張ってみようかな」と言う、ガチ恋気味の女子を見て思い出したことがある。

 無関係な、または無関係であることだけど。

 母はこの前日の日曜日、マフィンをたくさん焼いて、私の分を置いて出かけていたのだ。
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