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第12章 悲喜こもごもの12月
レイの告白
しおりを挟む「至福のひとくち」ってシリーズのひとり食べきりサイズなので、2人で分けっこしたら1人分がほんの少しになるけど、おいしかったらまた買えばいい。今日のところは試食ってことで。
ショボい方法だと思うけど、とにかくレイを少しでも励ましたかった。
「飲み物は紅茶でいいかな?」
「うん、ありがとう」
私はキッチンにお茶の用意をしに行った。
◇◇◇
「いただきまーす」と一口食べてみたら?あれ…何だこれ。
まずいというより口に合わない。おいしいと思えない。
「発酵バター使用 こだわりのあーだこーだ」ってうたい文句がうらめしい。
1個150円(税抜き)だから、ぶっちゃけあんまりいい材料使ってないってことかな?
それとも発酵バター自体が私の口に合わないってこと?
そもそもうちのママは、手づくり菓子でも(マーガリンしか)使わないので、よくわからない。
素直に反応するのをためらいながら食べていたら、レイが言った。
「これ…母さんの味だ…」
「え…」
「母さんの作ったものは…マドレーヌもパウンドケーキも全部この味で…」
「…っということは、発酵バター使ってたってことかな?」
いわれてみると、確かに。
私は「ママのと味が違うけど、これはこれで」って思って食べていたわ。
でも、正直口に合わないのもあった。
「オレはこの味が苦手だったんだけど、うまく伝えられなくて…」
「発酵バターって焼き菓子にはいいらしいけど、好みもあるしねえ」
「ちょっとだけ…オレにほんのちょっとだけ知識があったら…なあ…」
「だからそれは好みで…」
私はそのとき、レイが泣いているのを初めて見た。
3歳からの付き合いだから、私が泣いている姿をレイに見られたことは何度かあったけれど(泣き虫だったし)、私はレイの泣き顔を見たことがない。
男のコと女のコの違いみたいな単純な話ではなくて、レイはそもそも人前で泣くようなシチュエーションになることがなかったのだ。
小さい頃から整ってきれいな顔を「女みてえ」ってからかわれても、「それがどうしたの?」ときれいな真顔で返すような、とても強い子だったから。
そのレイが、はばからずに涙をこぼしている。
あまりの非常事態にどうしたものか困って、思い余ってレイをぎゅっと抱きしめちゃったんだけど、レイも私の背中に長い両腕を回したまま、静かに泣き続けた。
本当にどうすんの…これ。
レイは正座、私はしゃがんだみたいな中途半端な姿勢なので、足が痛いし、腰にも来そう。
「ごめんね…取り乱しちゃったね…」
「あ――大丈夫。落ち着いた?」
レイの頭部が私から離れた後(どういうシチュエーションだよ)よく見たら、私のサロペットスカートの胸当てが涙でぐっしょり濡れてる。
まな板よりややまし程度の、この胸を貸してしまった(意味が違うけど)ってこと?
恥ずかしい…。穴があったら入りたい…。
その上、レイが一呼吸ついた後、爆弾発言をかましてきた。
「まつりちゃん、オレは君が好きだ。ずっと好きだった。付き合ってほしい」
「え…あ…」
私はうれしいというよりも、「早まるな、お若いの」という気持ちだった。
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