すれちがいざま

あおみなみ

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 映画のタイトルではないが、道夫が浮気をしたのは結婚7年目である。
 相手は2歳年上の幼馴染の女で、たまたま商談の場に現れた担当者だった。
 もともとほのかな憧れを抱いていた女性でもあり、思わぬ場での再会に少し浮かれた。
 若い妻とはまた違う、熟しきった色気がある。

 彼女は結婚の経験はあるらしいが、優雅で気楽な今はひとり身だという。
 最初の打ち合わせで連絡先を交換し、時々ともに飲みに行くようになり、その流れで女のマンションで3度ほど関係を持ったが、の夜、「私今度結婚するから、あなたとはこれっきりね」とそっけなく告げた。

 道夫は正直少しほっとしていた。
 彼女との関係を楽しみつつも、いつもどこかで怯えていたのだ。
 自分は浮気には向かないのだと自覚し、その日は「短い間だったが楽しかった。ありがとう」とだけ告げ、早目に切り上げた。

 素面だったし、彼女のアドバイスどおりシャワーも使っていない。時間もそう遅くはなかった。
 しかし少し急いでいたせいか、Tシャツを裏返しに着るという凡ミスを犯していたらしい。
 あとは――まあそういう流れである。

 その後道夫は確かに浮気をすることはなかったし、街子の機嫌や体調を考えつつ、ベッドに誘うこともあった。
 最初は理由をつけて断ることも多かった街子だが、徐々に応じたり、自分から仕掛けたりもするようになった。
 街子は街子で、あの瞬間的に盛り上がった嫌悪感は徐々に薄れ、夫とかわいい娘との落ち着いた生活に好ましさを覚えるようになったが、いまさら寝室をともにしたいと積極的には思わない。

 その気になったらどちらかのベッドでセックスし、そのまま裸で寝落ちすることもあれば、寝間着を着直して自室に戻ることもある。

 これが自分たちの夫婦生活の最適解なのだと、お互いぼんやり考えるようになった。
 そうして気付けば、かなり歳月が流れた。

◇◇◇

 聖奈はもはや高校受験が目前の年齢である。
 結局それ以外の子宝には縁がなかったが、夫婦は聖奈の成長を見守ることにした。

 街子は聖奈が生まれた後、いったんは職をやめていたものの、小学校入学を機にパートやアルバイトに出ることも多くなった。
 もともと整った顔立ちで細身の男好きするタイプではあったし、職場で「来年高校生の娘さんがいるなんて、とても見えませんよ」などと言われて満更でもなく、夕飯の席で自慢げに話のタネにすることもあった。

「ミナのママきれいだって、クラスでもみんな言ってるよ」

 屈託ない性格の聖奈は人に好かれやすい。
 だから周囲も、その母親である街子に対しても率直に賛辞を贈りやすいのだろう。

「ママが若くてキレイでも、パパがこんなじゃなあ…年も年だし、爺さんと間違われないか?」

 自嘲気味に言いながら缶ビールを直飲みする道夫に、街子と聖奈は口々に「パパだって年の割にはかっこいいよ」「そう思うなら、ビールぐらい控えてくれると私も助かるんだけどな」と、飴と鞭のような言葉を言う。

 午後7時。
 そんな幸せを絵に描いたような光景が、新築時よりもいい感じに生活感の出てきた明るいダイニングで繰り広げられていた。
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