いつかは さようなら～よかれと思うことをしてくれなくていい。嫌なことをしないで。

第6章 今さらの自己紹介

周囲

　私たちとかかわってきたいろいろな人々、スケブ青年（後ほど詳述）や、「彼」が抱いた女性たちについては、今のところ名前も知らない。
　殊に彼の浮気相手に関しては、1人か複数かも分からない。
　複数の可能性を疑うのは、残り香が微妙に違うのと、突然持ち出す話題が極端に変わるからだ。
　ヨガだったり特定のミュージシャンについてだったりの話を、前置きなしにつらつら始め、「よく分からない」と言うと、満足気に「君は視野が狭いからね。もっと広くいろいろ興味を持たないと、さらにつまらない人間になっちゃうよ」と満足気に言い、少しでも知っているようなことを言うと、「ま、これぐらいは常識かな」とか、「付け焼刃だとそんなもんか」と言い、実はかなり詳しいということが分かると、その話題は一切出さなくなる。とことん会話の主導権を握っていたいタイプらしい。

　彼がマウントを取りたがるのは、昨日今日の話ではないからどうでもいい。
　公務員が不倫って、バレると結構シャレにならないことになるらしいんだけど、大丈夫なのかな。

　私の実家関係とか、彼の実家関係とか、当然名前は知っているけれど、キリがないし紛らわしいから省略。
　1つだけ言えるのは、どちらの家にも、無条件に私の味方をしてくれる人はいないだろうなということだ。
　何しろ妊娠中に大学生に色目使った恥知らずだと思われているので。

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　結婚前に1年働いただけで、アルバイトの経験も大学時代にわずかにあるだけ。
　結婚後は働きに出ることを許されていない。
　その状態でのうのうと生活していられるのは、ダンナサマの堅いお勤めと、「彼」の実家の援助のたまものだ。
　要するに今の私は自分のことを、人間の言葉が通じないことを前提に暴言を吐かれているペットか何かと思うべきなんだろう。
　いわば言葉のサンドバッグね。

　頭の悪いペットでサンドバッグなんだから、あんまり過大な期待しないでほしいんだけど、掃除が行き届いていないと小言を言われ、シャツのアイロンがけが下手だと、全部クリーニングに出され、ご飯が気に入らないと、私の目の前で三角コーナーに捨てられる。
　その際、優しい口調で諭すように注意されることが多いが、気分次第では「役立たず」「クソ女」「無駄飯食い」と罵られる。

　私はいつしか「私がこの世からいなくなったら」と考えるようになっていた。
　こんなクズ母親でも、こんなバカ女房でも、いきなりいなくなったらそれなりに困るはずだ。
　だから、この場所からいなくなるのはためらわれる。
　どうせバカゴミクズなんだから、バカゴミクズらしいことをしても、それはいっそ整合がとれているって話でもある。

　さあて、どうしたもんでしょ。