いつかは さようなら~よかれと思うことをしてくれなくていい。嫌なことをしないで。

あおみなみ

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第9章 青年の部屋で

繰り返す

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「また会えますか?」
「もう無理かもしれないけど、会えるといいわね」
 そう言いながら、部屋に入ったときと同様、抱き合って深いキスをした。
 お互いの体が反応しているのが分かるけれど、さすがにもう時間がない。

 先々そうそう都合よく、彼が子守を申し出ることは多分ない。
 彼とはもう会えないかもしれないけれど、抱かれたことに少しの後悔もなかった。

◇◇◇

 家には5時5分に帰った。
「人の家を訪ねるときは、約束より2、3分遅れていきましょう」って言うでしょ?アレですよ。気を使ったの。

 奇襲をかけて、真っ最中の現場を押さえたらどうなるかなとも思ったけれど、実際そんなことをしたら、悪いことをしたはずの彼が、「約束を守らなかった」という理由で私に危害を加えるだろう。
 見たくもない現場を見て、しかも責め立てられることが分かっていて、そんなことをする気にはなれない。
 そして私自身がとても満たされているので、ポジティブな意味で「どうでもいい」気分だ。

 「あんなこと」をした後なのに、不思議と家に帰るのを怖いと思わなかった。バレたらバレたで何とかという、非常に大胆な気持ちだった。
 彼は「結婚が近い職場の女の子」とやらと、よろしくやっていたのかな。
 何にせよ、かなり機嫌がいいらしく、「君はどこに行ってきたの?」とだけ言われた。
 いつもの探るような口調ではなく、世間話調。多分興味もないだろう。

 たまたま3時間ぐらいの話題の超大作を、駅前の映画館で上映していたのはチェック済みだった。
「それを見にいったんですが、疲れていたのでずっと寝ていました」
 と言ったら、あっさり信じてくれた。
「なんだよ、1,800円無駄に払っただけ?いかにも君らしいポンコツさだね」
「私、集中力ないから…お昼寝にお金を使ってしまいました」
 今日に限っては、こういう軽いいじりが気楽でうれしい。

「じゃ、来週もソレで行ってもらおうかな」
「え?」
「いや、今日の子守存外うまくいったし、また来週もって考えてるんだけど」
「来週も?」
「またお小遣いあげるから、今度こそ映画ちゃんと見てきなよ。
 今日だってリフレッシュはできたんでしょ?」
「そうね…感謝しています」

 そういえば、もらった3,000円は結局使わなかった。
 結婚前からの口座にでもへそくっておこうかな。

 彼は自分の欲望さえ満たされていれば、私に必要以上に興味を持つことはない。
 ただ、いつ何どき妻の不貞を疑いたい病(これも欲望?)が発症するか、そのタイミングは分からない。
 そして、今までは痛くもない腹探られていた状態だったけれど、私はもう闇落ちしてしまっている。

◇◇◇

 携帯をチェックされる可能性があるので、連絡先の交換はしていない。
 お散歩の途中にでも、直接ポストに手紙かメモを放り込んでおこう。

「来週末〇日、また時間ができました。
 予定が変わらない限り、11時頃お邪魔します。
 外出などの予定がある場合は気にせずそちらを優先してください M」

 そうして私はまた宗太に抱かれた。
 お互いがお互いの中毒になってしまったように、お互いを貪った。
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