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何を言えば
しおりを挟む〇〇こと私・あおだけがその場に残された理由はなんと、「挨拶ができていない」からだった。
自分の名誉のために言うが、朝起きて部屋を出て、台所や洗面所で誰かに会えば、もちろん「おはよう(ございます)」ぐらいは言っていた。
ただ、狭い校内の廊下ですれ違うとき、学外で会ったときに、いちいち「こんにちは」と言う必要はないだろうと思い、会釈だけですませていたのは認めるし、気付いてなさそうなときは、それも省略していた。
どうやらその「無言」に駄目出しをされてしまったようだ。
ほかの子たちは、「先輩、この間の〇〇どうでした?」とご機嫌うかがいをしたり、趣味が近い人なら「〇〇の新譜もう聞きました?」的に、必ず雑談的な話題を出したりするが、私だけそれが「ない」のが「気になる(意訳:気に入らない)」のだそうだ。
それは極端にしても、とにかく「こんにちは」「ども」と“発声”しているのがポイントのようで、会釈は挨拶に数えてもらえないらしい。
(うわー、面倒くさいことに巻き込まれているな、私)
そう思いながらやっと口から出てきた言葉が、「何を言ったらいいか……」だった。
この場の私は挨拶一つまともにできないアホの子なので、「『こんにちは』でいいのに」と、何言ってんだこいつという調子で返されてしまう。
しかし、「おはよう」と既に挨拶している人に、わざわざ「こんにちは」と言う意味が、私にはどうしても理解できない。
高校時代、その日初めて会った人には、それが午後5時であろうと「おはよう」という習慣があった。
少なくとも(ごく普通の)我が校ではそんな感じだったので、女子高生なるもののメンタリティーのなせるわざというか、割とそういう学校はほかにもあったのではないかと思う。
部活の顧問には、「芸能人か?夜の蝶(水商売の女性のこと)か?」などと笑われたが、妙に理にかなっている気がして、あれはまだ納得できた。
泣いてごまかそうとしたわけではないが、みじめさと訳のわからなさと情けなさで涙が出てきたので、2年生たちはそこで「言い過ぎたね、ごめん」と言って、しかし最後に小言をたっぷりと手土産に持たせ、私を解放した。
あまり愉快ではないが、一応話はそこで終わり――だと思っていた。
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