最弱引き出しの逆襲 ― クラス転移したのはいいけど裏切られたけど実は最強だった件

第５話 「謎の島」

　目が覚めた時、俺は一瞬、自分が死んだのではないかと思った。クラスメイトからの裏切り、そして一番仲の良かった悠太、佳奈、真優からも裏切られたあの瞬間。引き出しの中に飛び込んだ記憶が鮮明に蘇る。

「あれ？ここはどこだ？」

　混乱しながら、俺は周囲を見回した。
　白い砂浜、青い海、そして未知の島。
　どうやら、引き出しの中からこの不思議な島へと連れてこられたらしい。
　死んだわけではなく、また新たな世界に足を踏み入れたというのが現実だった。

「俺は…死んでないんだ。」
　俺は自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。
　裏切られたあの時の痛み、絶望、そして、引き出しに飛び込んだ決死の覚悟。
　それら全てが夢ではなく、現実だったのだ。


　心の中では、クラスメイトたちに裏切られたあの瞬間の感情が時折、波のように押し寄せた。
　怒り、悲しみ、そして裏切られた悔しさ。
　しかし、俺はそんな感情を振り払うように前を向いた。
　ここは過去からの逃避ではなく、新たな自分を見つける場所だ。


「おお、目覚めたか、若者よ」

　声の主は白髪の老人で、穏やかな目をしていた。

　俺は驚きつつも、声の方を向いた。

「あなたは……？」

　声を震わせながら尋ねた。心の中は不安と疑問でいっぱいだった。

　老人は優しく微笑んだ。

「私はテオドール！　この島に住むただの老人……と言っておこう、君がここに倒れているのを見つけて、傷を治療してあげたんだ」

　俺は自分の体を見下ろし、包帯が巻かれているのを確認した。

　確かに、傷の痛みは以前よりもずっと和らいでいた。

「ありがとう……テオドールさん！　助けてくれて……」

　俺は感謝の言葉を口にした。その言葉は心からのものだった。

　テオドールは「いやはや、気にすることはない……ここは危険が多いですから」

　柔らかい笑顔を浮かべた。

　この予期せぬ出会いは、俺にとって小さな救いだった。
　テオドールの存在は、この未知なる島での生存への一筋の希望を与えてくれた。
　彼の穏やかな物腰と温かい言葉は、俺の心の中の不安を少しだけ和らげてくれたんだ。


　テオドールとの初対面は、さらなる感情の渦を呼び起こした。
　彼の「いやはや」という口癖と丁寧な話し方には、一見の安堵感があったが、彼の過去を知ると、同時に疑念と好奇心が湧いた。彼がかつての英雄でありながら、なぜこの島に隠れ住んでいるのか。その背景には何があるのだろうか。

「テオドールさん、ここでの生活は……一体どうすればいいんですか？」

　俺は彼に尋ねた。

　彼は優しく微笑んで答えた。

「いやはや、若者よ、心配することはない！　一緒にいれば、この島の厳しい環境も乗り越えられると思いますぞ」

　テオドールは、この島「セレスティナ」に何十年も住んでいると言った。彼の過去を尋ねると、彼は苦笑いを浮かべながら語り始めた。

「いやはや、実は私、若い頃に女遊びに明け暮れ、結果として財産を失い、この島に逃げてきたのですよ」

「えっ、クズ野郎じゃないですか……」と俺は内心で思った。
　しかし、テオドールの次の言葉は俺を驚かせた。

「実は私、かつては名高い剣士でして、王国の騎士団に所属し、その団長も務めたことがあります」

　彼の顔には遠い日の誇りが浮かんでいた。

「まじか、すごいじゃないですか！」と俺は感心しながら言った。
　そんな彼は、この世界の戦い方や生きる術を熟知しているらしい。

　俺はふと思った。これも何かの出会い、何かの縁だ。テオドールが持つ知識と経験は、俺にとって非常に貴重だ。俺は彼にある提案をしてみることにした。

「テオドールさん、あなたの経験と知識を教えていただけませんか？　私にはまだ学ぶことがたくさんあります！　一緒にこの島で生きていくための知恵を分かち合いませんか？」

　テオドールは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに温かい笑みを浮かべた。

「いやはや、それは光栄なことです……私の知識が役に立つのであれば、喜んでお教えしますぞ」

　この予期せぬ出会いは、俺にとって小さな救いだった。テオドールの存在は、この未知なる島での生存への一筋の希望を与えてくれた。彼の穏やかな物腰と温かい言葉は、俺の心の中の不安を少しだけ和らげてくれたんだ