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4 再会の舞踏会
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王都に戻るのは、あの夜以来、五年ぶりだった。
修道院で過ごした日々は、私の心を削り、同時に磨き上げた。
もう私は、誰の娘でもない。
ただの「セラ」――いや、今は商会の代表として、
王国貴族たちの間で“黒衣の未亡人”と呼ばれている。
誰も、あの夜に捨てられた公爵令嬢セレスティアと、
この女が同一人物だとは思わないだろう。
声も、名も、微笑みさえも変えたのだから。
豪奢な舞踏会場の扉が開いた瞬間、
燭台の光が、黒いシルクドレスに反射した。
ざわめきが広がる。
貴族たちは私を一瞥し、そして噂した。
「誰だ……?」
「黒衣の未亡人では?」
「まるで夜そのもののようだ……」
私は微笑んで会釈した。
五年前、同じ場所で涙を堪えたこの会場。
今、私は微笑みながら同じ床を踏んでいる。
この瞬間を、どれほど夢見たことだろう。
会場の中央では、ひときわ明るい笑い声が響いた。
――アルトだ。
彼は侯爵家を継ぎ、今や王都でもっとも勢いのある男として名を馳せていた。
傍らには、あの女――リーナがいた。
絹のドレスを纏い、誰よりも幸せそうに笑っている。
(あの夜と、同じ笑い方。)
喉の奥が焼けるように熱い。
けれど私は、微笑みを崩さなかった。
心の奥では冷たい炎が静かに燃えている。
この日をどれほど待ったか。
この場所で、彼らの笑顔を見ながら、
私が笑い返せる日を。
音楽が止み、アルトがこちらに気づいた。
彼の表情に、一瞬の戸惑いが浮かぶ。
そして、私の前に歩み寄ってきた。
「……お初にお目にかかります。あなたが“黒衣の未亡人”と?」
「はい。セラ・クロフォードと申します。」
微笑みながら、優雅に一礼する。
完璧な貴婦人の礼。
かつて彼に教えられた仕草だ。
けれど、彼はそれを思い出すことはない。
あの頃の“セレスティア”は、もうこの世にはいないのだから。
「どこかで……お会いしたことがあるような……」
アルトの言葉に、私は唇の端を上げた。
「いいえ。きっと“気のせい”ですわ。
私はもう、誰にも覚えていてほしくありませんもの。」
静寂。
そして、遠くで弦の音が響いた。
再び始まる舞踏。
私はグラスを手に取り、ゆっくりと視線を巡らせる。
貴族たちの笑顔、その裏に隠れた嘘と打算。
すべてが、私には透けて見えていた。
「お久しぶりですわ、閣下。……随分とお幸せそうで。」
その一言で、アルトの顔が一瞬だけ強張る。
彼は気づかない。
この言葉が、五年前の夜に私が最後に放った言葉の“鏡”であることに。
私はワインを一口飲み、グラスの赤をじっと見つめた。
まるで、血のように濃い赤。
――これが、始まりの色。
(いいわ。今日からすべてを始めましょう。
静かに、確実に、誰も逃がさない。)
再会の舞踏会は、まるで祝祭のように輝いていた。
けれどその奥で、ひとつの物語が再び動き出していた。
沈黙の誓いが、炎を上げて燃え始める――。
修道院で過ごした日々は、私の心を削り、同時に磨き上げた。
もう私は、誰の娘でもない。
ただの「セラ」――いや、今は商会の代表として、
王国貴族たちの間で“黒衣の未亡人”と呼ばれている。
誰も、あの夜に捨てられた公爵令嬢セレスティアと、
この女が同一人物だとは思わないだろう。
声も、名も、微笑みさえも変えたのだから。
豪奢な舞踏会場の扉が開いた瞬間、
燭台の光が、黒いシルクドレスに反射した。
ざわめきが広がる。
貴族たちは私を一瞥し、そして噂した。
「誰だ……?」
「黒衣の未亡人では?」
「まるで夜そのもののようだ……」
私は微笑んで会釈した。
五年前、同じ場所で涙を堪えたこの会場。
今、私は微笑みながら同じ床を踏んでいる。
この瞬間を、どれほど夢見たことだろう。
会場の中央では、ひときわ明るい笑い声が響いた。
――アルトだ。
彼は侯爵家を継ぎ、今や王都でもっとも勢いのある男として名を馳せていた。
傍らには、あの女――リーナがいた。
絹のドレスを纏い、誰よりも幸せそうに笑っている。
(あの夜と、同じ笑い方。)
喉の奥が焼けるように熱い。
けれど私は、微笑みを崩さなかった。
心の奥では冷たい炎が静かに燃えている。
この日をどれほど待ったか。
この場所で、彼らの笑顔を見ながら、
私が笑い返せる日を。
音楽が止み、アルトがこちらに気づいた。
彼の表情に、一瞬の戸惑いが浮かぶ。
そして、私の前に歩み寄ってきた。
「……お初にお目にかかります。あなたが“黒衣の未亡人”と?」
「はい。セラ・クロフォードと申します。」
微笑みながら、優雅に一礼する。
完璧な貴婦人の礼。
かつて彼に教えられた仕草だ。
けれど、彼はそれを思い出すことはない。
あの頃の“セレスティア”は、もうこの世にはいないのだから。
「どこかで……お会いしたことがあるような……」
アルトの言葉に、私は唇の端を上げた。
「いいえ。きっと“気のせい”ですわ。
私はもう、誰にも覚えていてほしくありませんもの。」
静寂。
そして、遠くで弦の音が響いた。
再び始まる舞踏。
私はグラスを手に取り、ゆっくりと視線を巡らせる。
貴族たちの笑顔、その裏に隠れた嘘と打算。
すべてが、私には透けて見えていた。
「お久しぶりですわ、閣下。……随分とお幸せそうで。」
その一言で、アルトの顔が一瞬だけ強張る。
彼は気づかない。
この言葉が、五年前の夜に私が最後に放った言葉の“鏡”であることに。
私はワインを一口飲み、グラスの赤をじっと見つめた。
まるで、血のように濃い赤。
――これが、始まりの色。
(いいわ。今日からすべてを始めましょう。
静かに、確実に、誰も逃がさない。)
再会の舞踏会は、まるで祝祭のように輝いていた。
けれどその奥で、ひとつの物語が再び動き出していた。
沈黙の誓いが、炎を上げて燃え始める――。
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