捨てられたので、私はもうあなたたちに用はありません

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開廷、王都査問会

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王都王宮、白銀の間。
数百もの蝋燭が燃え、豪奢なシャンデリアが煌めく。
今日、この場に集められたのは、王族、貴族、そして教会の高官たち。
“社交裁判”――名ばかりの社交ではなく、今宵は“真実の見せ物”となる。

壇上の中央に、王太子アルフォンスと王妃ソレーヌが並び、
その正面には、三つの椅子。
ベイラン侯爵アルト、侯爵夫人リーナ、そして黒衣の女セラ・クロフォード。

群衆がざわめく。
「魔女だ……」「いや、真実の女神だ……」
二つの声が入り混じり、空気が震えていた。

王太子の声が響く。
「これより、ベイラン家とセラ・クロフォードの名誉査問を開廷する。」

アルトが先に立ち上がった。
白い軍服を纏い、いかにも“被害者”を装う。
「殿下、この女は我が家の名誉を汚し、虚偽の帳簿で民を惑わせました。
 教会の神聖を穢すこの行為、到底見過ごすことは――」

「帳簿が虚偽だと、そう主張するのですね?」
王妃が静かに問う。
アルトが頷くと、王妃は手を上げた。
「では、証拠を確認いたしましょう。」

リオネルが進み出る。
「こちらが、教会寄付帳原本と王立監査の記録です。」

会場がざわめいた。
証拠台に並べられた帳簿の山。
一冊を開けば、すべての不正がそこに記されている。

リーナが震えながら立ち上がる。
「そ、それは偽物ですわ! 黒衣の女が、神殿から盗んだのです!」

「盗んだ?」
リオネルが淡く笑う。
「ならば、こちらに残された印章をご覧ください。」

提示された羊皮紙の端。
赤い封蝋――“ベイラン家公印”。
そしてその隣に、流麗な筆跡で記された署名。

「リーナ・ベイラン」と。

リーナの顔から血の気が引いた。
「そ……そんな、これは捏造よ!」
「おや、捏造とおっしゃる? ならば……こちらの筆跡鑑定書をご覧に。」

リオネルが差し出した書類を受け取った王太子が読み上げる。
「王立文官局の鑑定により、筆跡はリーナ・ベイラン本人のものであると確認された。」

会場中に衝撃が走る。
一部の貴婦人たちが口元を押さえ、男たちが息を呑んだ。

「リーナ様が……帳簿を偽造……?」
「教会の寄付金を流用……? ベイラン家が……?」

群衆のざわめきが波のように広がっていく。
アルトが椅子を蹴って立ち上がった。
「これは陰謀だ! 黒衣の女に嵌められたんだ!」

その瞬間、王妃の扇が静かに閉じられた。
「侯爵、貴方の言葉を信じるには、あまりに“都合がよすぎる”ようです。」

沈黙。
広間に張り詰めた空気。
すべての視線が、黒衣の女――セレスティアへ向けられる。

王太子が告げた。
「セラ・クロフォード。弁明を許す。」

私は立ち上がった。
しかし、何も言わなかった。

ざわつきが走る。
貴族たちがひそひそと囁く。
「なぜ黙っている?」「何を考えている?」

私は、ただ一枚の紙を取り出した。
それは――“沈黙の誓い”と題された契約書。
修道院を追放された夜、マリアと交わした唯一の誓文。

〈嘘を語らず、沈黙を貫き、真実を行いによって示す〉

私はその紙を王妃の前に差し出した。
王妃が目を通し、息を呑む。
「……これは……修道院の誓約書。」

「私は言葉で争いません。
 ――真実は、沈黙の中にあります。」

その瞬間、群衆が静まり返った。
音が消える。
空気が止まる。

リオネルが一歩前に出て宣言する。
「これこそが、真実の証。
 沈黙は逃げではなく、力。
 この女性が沈黙を選んだ瞬間、すでに彼女の勝利は決まっていた。」

王妃が立ち上がった。
その声が、堂々と響く。

「この裁き、女神の前において下す。
 ――ベイラン侯爵家は、寄付金流用および詐欺の罪により爵位を剥奪する。」

リーナが悲鳴を上げ、アルトが膝をつく。
誰も助けない。
かつて彼らが嘲笑した“沈黙の女”の前で、
二人の声だけが虚しく響いていた。

私はその場で一礼した。
王太子が告げる。
「セラ・クロフォード、あなたの潔白は証明された。」

一瞬、王宮全体に拍手が広がりかけたが――
私は、手を上げて止めた。

「いいえ。
 これは私の勝利ではありません。
 神が沈黙した世界で、人が真実を選んだ――その証です。」

その言葉に、王妃が微笑んだ。
「……女神の微笑み、とはこのことね。」

私は扇を伏せ、静かに頭を垂れた。
背後でリオネルの声が聞こえた。
「これで、すべて終わりましたね。」

けれど、私は小さく首を振った。
「いいえ。
 復讐は、終わりではなく――始まりを教えてくれたの。」

扉の外には、民衆の歓声と光。
その中を歩き出す。
黒衣の裾が、まるで夜の終わりを告げるように揺れた。
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