捨てられたので、私はもうあなたたちに用はありません

ワールド

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宣告の刻

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裁判が終わり、王宮の扉が閉まると同時に、世界の音が遠のいた。
歓声も、涙も、怒号も――まるで夢の残滓のように薄れていく。

私は広間の奥、誰もいない回廊をゆっくり歩いた。
月光が床に伸び、黒衣の裾がその上を静かに滑る。
足元の大理石には、まだ人々の熱が残っていた。

……すべてが、終わった。
けれど、心は不思議と空白だった。

「おめでとうございます。」
背後からリオネルの声。
彼はもう、あの氷のような表情をしていなかった。
静かで、柔らかい眼差し。

「これで、あなたの名は清められた。
 神も、王も、民も、あなたを認めた。」

私は首を振った。
「いいえ、清められたのは名前だけ。
 私の中の“汚れ”は、誰にも裁けないわ。」

「それでも、あなたは勝った。」
「勝利は一瞬。赦しは永遠。」
「赦すのですか?」
「ええ。私を地に落とした人たちを――もう、思い出す価値もないもの。」

リオネルは、少しの沈黙のあと言った。
「あなたは本当に、強い人だ。」

「違うわ。」
私は微笑んだ。
「ただ、もう疲れただけ。怒りで生きるのは、息をするより苦しいもの。」

その時、回廊の先に人影が見えた。
――アルト。
かつての婚約者。
鎧も名誉も剥がされ、ただの男の姿になっていた。
背後にはリーナがいた。
化粧も剥げ、涙と埃にまみれた顔。

彼らは、見る影もなかった。

「……セレスティア。」
アルトが絞り出すように言った。
「お前が、俺をここまで――」

私は彼の言葉を遮った。
「違うわ。
 あなたをここまで追い詰めたのは、あなた自身よ。」

沈黙。
その沈黙が、かつてよりも重く、痛く響く。

リーナが震える声で言った。
「お願い……何でもするから、助けて……! あなたは優しかったじゃない……!」

「優しさ?」
私は小さく笑った。
「あなたたちが踏みにじったそれを、今さら求めるの?」

リーナが泣き崩れる。
アルトは拳を握り、うつむいた。

「俺は、間違っていたのか。」
「いいえ、あなたは“選んだ”だけ。
 嘘を選び、虚栄を選び、私を棄てた。
 だから、今こうして“報い”を受けている。」

私は歩み寄り、二人の前に立った。
その瞳を真っすぐ見据える。

「でもね――」

その瞬間、二人が顔を上げた。
私の声は静かだった。
「あなたたちに、もう用はありません。」

その言葉が広間に落ちた瞬間、
まるで時が止まったように静寂が訪れた。

私は黒衣の裾を翻し、背を向ける。
その背に、誰も手を伸ばさなかった。
伸ばせなかったのだろう。

外に出ると、夜風が頬を撫でた。
月が雲間から顔を出し、淡い光を投げかけていた。
その光の中で、私は黒衣を脱いだ。

静かに地面に置く。
それは、まるで古い殻のように、音もなく崩れた。

「セレスティア。」
リオネルがそっと近づく。
「これから、どうします?」

「生きるわ。」
「目的もなく?」
「ええ。ようやく、“生きるだけ”をしてみたいの。」

リオネルは微笑んだ。
「その姿のあなたを、見てみたかった。」

私は少しだけ笑い返した。
「これでようやく、沈黙に意味ができた気がする。」

「どういう意味です?」
「怒りの沈黙ではなく、安らぎの沈黙よ。」

遠くで夜明けの鐘が鳴る。
その音が、まるで祝福のように響いた。

私は顔を上げ、朝の空を見つめる。
「マリア。見ていてね。
 私はもう、沈黙を恐れない。」

――それは復讐の終わりであり、
 沈黙の女神の誕生でもあった。
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