捨てられたので、私はもうあなたたちに用はありません

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最後の反撃

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春の朝、光の街に柔らかな陽が差していた。
再生院の庭では、子どもたちが笑いながら本を読み、
パンの香りが漂っている。

――穏やかで、満ち足りた朝。

だがその平穏を破るように、
市場の一角で、誰かが叫んだ。

「見ろ! “魔女の手紙”だ!」

その声に群衆が集まる。
壁に貼られた紙には、滲むような文字でこう書かれていた。

『沈黙の女神は、偽りの聖女。
彼女は人の魂を奪い、声を喰らう魔女なり。
その光は、地獄の炎の色。
罪はまだ終わっていない――リーナ・ベイラン』

ざわめきが広がる。
「本当なのか?」「聖女様が……?」
「まさか、また魔女騒ぎか?」

噂は瞬く間に街を駆け抜けた。
“光の母”が再び“沈黙の魔女”と呼ばれる――
皮肉な輪廻。



昼。
再生院の前に群衆が押し寄せる。
「真実を話せ!」
「彼女の“沈黙の奇跡”は呪いだったのか!」

セレスティアは、扉の奥でその声を静かに聞いていた。
ミーナが慌てて駆け寄る。
「セラ様、どうか外へ出ないでください! 彼らは……!」

「いいえ。」
セレスティアは首を振った。
「私はもう沈黙しない。
 沈黙で罰したのなら、今度は“声”で赦す番よ。」

扉を開くと、光が差し込む。
人々の怒号が、一瞬、止んだ。

白衣に身を包んだセレスティアが、
階段をゆっくり降りてくる。
その姿は、まるで光そのもののようだった。

「皆さん。」
静かな声。
けれど、その一言が広場全体に響いた。

「あなたたちの中に、沈黙を知る者はいますか?」

群衆が戸惑う。
「……沈黙?」

「声を奪われ、誰にも信じてもらえず、
 心の中で叫びながら、誰にも届かなかった夜を。
 その痛みを、覚えていますか?」

誰も答えない。
ただ、風が人々の間を通り抜けた。

「私は、その夜を生きました。
 沈黙は罰ではなく、教えです。
 “言葉の重さ”を思い出せという、神の声です。」

セレスティアは群衆を見渡した。
「だから私は、あなたたちを赦します。
 嘘を信じたことも、恐れに屈したことも。
 だって――私も、同じ人間だから。」

その瞬間、群衆の中から一人の老人が声を上げた。
「……あの夜、あなたを石で打ったのは私だ。
 だけど、あなたは今、私に笑いかけてくれた。」

セレスティアは微笑んだ。
「石を投げた手が、今は支える手に変わるなら、
 それで十分です。」

空気が変わった。
怒号が消え、誰かが膝をつく。
やがて次々と、人々が頭を垂れ始めた。

「聖女様……申し訳ありません……!」
「私たちこそ、沈黙していた罪人です!」

セレスティアは首を振り、静かに手を伸ばす。
「立ってください。
 沈黙の街は、もう終わりました。」

その瞬間、風が吹いた。
壁に貼られた“リーナの手紙”が剥がれ、空へ舞い上がる。
太陽の光に焼かれ、紙が燃え、灰になって消えた。

灰の中で、セレスティアの声が響く。
「――さようなら、リーナ。」



夜。
再生院の屋根の上で、セレスティアとリオネルが並んで立っていた。
街の灯が広がり、遠くまで光の帯が続く。

「結局、彼女は最後まであなたに挑み続けたのですね。」
リオネルの言葉に、セレスティアは微笑む。

「いいえ。
 挑んだのは“彼女の心の残り火”よ。
 でも、それももう消えた。」

「怖くはなかったんですか?」
「昔なら、怖かったわ。
 でも今は……光があるもの。」

夜空を見上げると、
一番星が輝いていた。

「リーナも、あの星のどこかで見ているでしょうか。」
「ええ。
 きっと笑っているわ。
 “あなたの光はずるい”って。」

二人は小さく笑い合った。
沈黙ではなく、穏やかな声で。

その夜、
光の街のすべての家で灯が消えずにともっていた。
それは祈りのように、穏やかに、静かに燃えていた。
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