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何をするにも道具から

薬屋の洗礼

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 チュートリアルをやった諸君なら覚えているだろう。
 回復の時に飲まされたポーション。
 激苦臭汁の存在を。

 親方に教えられて行った店が薬屋。
 店構えからして、とても雰囲気がある。
 外観は赤い屋根の洋館で、煙突からモクモクと虹色の煙が排出されている。

「うーん。今回は辞めたほうが良い気がするな」

 反転して帰ろうとするが、見えない壁に阻まれて、出られなくなってしまった。
 まさかの物理的な封鎖で、怪しい館に入らなければいけなくなった。

《薬屋初回訪問イベント:ポーションを探せ! が開始されました。》

 まさかのイベントか。
 扉をノックしても返事無し。
 開けて中を覗くと、広めの展示スペースがあって、綺麗に整えてある。

「外観と比べるとかなり清潔感があるな」

「いーらっしゃい」

 声の方へ振り向くが、誰もいない。

「こっちだよ!」

 どこだ!?
 全方位探しても人影無し。
 まさかゴーストか。

「目の前だよ!甲冑着てるでしょ!」

 確かに甲冑はあるが、置物じゃないのか?
 しげしげと眺めていると、急にガシャコン音を立てながら動き出した。

「ほら!ちゃんと動くんだよ」

「おぉ。まさか人が入ってるとは思いませんでした」

「ようこそ薬屋へ。君は初めてだよね?」

「そうですよ」

「それなら説明しないとね。こっちに来て」

 誘われるがままついていくと、広めのカウンターに案内される。甲冑が、裏から小瓶をいくつか取り出すと、5本を横並びにした。

「まずはポーション瓶。」

 それぞれの効能ごとに瓶の形を変えるルールとなっており、故意に変えて売るとペナルティが掛かるらしい。しかも名称表記も無い。つまり自力で鑑定するか、飲んで確かめるしか無い。

「じゃあ、この中からポーションを見つけて」

「いきなりですか?」

「残念ながら教えても理解出来ないの。がんばって」

 1つ1つ眺めるも、1ヶ月以上前に見た瓶の形なんて覚えてない。
 蓋を開けて匂いを嗅いでみる。

「うわ。青臭い」

 次々と嗅いでいくが、若干香りは違うものの、全て青臭くてわからなかった。

「結局、飲むしか無いんだよね。みんなやることだから、諦めて飲んじゃいなよ!ほーら、いっきいっき!」

 今時そんなんやったら、パワハラ一直線で委員会が黙っとらんぞ。

「ふぅ…。いきます」

 1つ目の瓶を飲み干すと、喉奥に甘みと痺れが蔓延する。意外と味は良かったので飲めたが、体が動かなくなってしまった。

「今のは麻痺薬、狩りで使えるやつ。今治すね」

 甲冑に液体を掛けられ、数秒すると徐々に動くようになる。

「ひどい目にあった。まだ続けるんですかぁ?」

「やらないと覚えられないよ」

 まさかロシアンルーレットをやらされるとは。いや、全部1人で飲むから、ルーレットじゃないか。
 次の瓶は清涼飲料水みたいな味。さっきも美味しかったから身構えたんだけど、特に変化なし。

「それは、魔力ポーションだね。おいしいでしょ?」

「確かに美味しかったです」

「魔力の回復効果があるんだ。回復量は個人差があって、魔力が多い人ほど多く回復するよ」

 だとすると割合回復なのかな?

「数分は効果が続くから、飲むなら早めの方が良いかもね」

 違った、持続回復効果か!
 魔力無くなってから使っても間に合わないな。
 次の奴は。

「ぐぅ!」

 味は魔力回復と似ている。その中に微量の苦味が加わった程度で、そのまま飲み込めてしまったが、急激にHPバーが減り始める。

「わわ!えい!」

「危ねぇ。死ぬ所だった」

「今のは毒薬だね。耐性が無いとかなり痛手になるんだ。先に言っておくと、次のは大丈夫だから飲んじゃって」

 言われるまま口に含むと、知ってる味。

「あぁ、この臭み覚えてる。回復ポーションだ」

「そそ。体力回復ポーションだね」

 HPが半分まで回復したので、続けて隣も飲む。
 この味はリアルで飲んだことがある。筋肉痛になった時に香る風味。

「なんでルートビア…」

「ん?それは毒消し薬だよ。ちょっと癖あるけど、はまると美味しいんだ。僕もおやつによく飲んでるよ」

 毒消しがおやつってどうなんだ?
 一応全部飲み終わったけど、なんとも無いな。

「実はあと1つあるんだ」

「えぇ?だったら最初から出しておいて良かったのに」

「ちょっと準備が必要なんだよ。こっち来て」

 個室に案内されると、周りには十字架やら色々飾られている。
 神々しい像まであって、それが返って恐ろしい。

「最後のポーションがこれなんだ」

「うっ」

 瓶の形は毒消しに近いが、外からでもわかる色合い。
 どこからどう見てもヤバい紫色。

「これ持って、まだ開けないでね。良いって言うまで待っててよ!」

 そう言って俺に渡すと、ガシャコン鳴らしながら、いくつもの瓶と十字架を抱えて戻ってきた。

「さぁ、飲んで!」

 これを飲むのか?

「ささ、ぐいっと!」

 震える手を押さえつつ、一気に飲み干す。

「ぐぉぉぉ!」

 喉奥が焼ける!世界が回っている!
 めっちゃ気持ち悪い。
 立ってられず、横になるしかなかった。

《ポーション6種が判明しました。以後、ポーションの種別が表示されます。》

「きたきたー!大地と風の神に奉納致します。この者に回復の兆しをお与えください」

 甲冑の声は届いているが、それよりも視界の気持ち悪さが勝っていて、吐きそうになる。
 地面が光り出すと、徐々に気持ち悪さも治っていった。

「おっえ。まだ視界がぐらついてる」

「おつかれさまー!準備必要だったでしょ?」

「確かに必要だった。2度と味わいたく無いけどね」

 展示スペースに戻ると、手に取ったポーションがしっかりと表示される。
【体力ポーション】

「実は、粉薬と湿布もあるんだけど…」

 おう。
 天を仰ぐしか出来なかった。
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