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夏奈を見送った幸人は何だかまた失恋した様な気持ちになった。
一回りも違う子を好きになってしまうなんて、馬鹿みたいだ。
恥ずかしい。
恋愛体質では無かったのに。
真菜さんが初恋で最後の恋だと思った。
そして、直ぐに終わった恋だった。
それなのに、直ぐに別の子を好きになったりして、僕は節操無しである。
もしかして、急に恋に目覚めて恋愛体質になってしまったのだろうか。
また直ぐに新しい女性に恋してしまうのだろうか。
幸人は溜め息をつくと、一人寂しく帰路につく。
亘から借りた服は後でクリーニングに出そう。
今日はもう疲れたし、泣きたい気分なので、さっさと家に帰って寝ることにする幸人だった。
「幸人ー! どうだった!? デート楽しめた!?」
「何で家に居るんだ」
帰ったら勝手に亘が部屋で待っていた。
警備員さんから勝手に部屋の鍵を借りたんだろうけど、僕も亘なら部屋に入れて待たせておいても良いと言っておいたけど。
亘なら僕のプライベートなスペースは守ってくれると信頼しているから良いんだけども。
綾乃さんとのデートはどうしたんだ!
「だって、どうなったか気になるし、夏奈ちゃんが帰っちゃって寂しいかなぁって思ってさ。図星だろう?」
「綾乃さんは放ったらかしで良いのか?」
図星だが、妻より友人を優先するなんて、愛想を尽かされても知らんぞ。
「綾乃も幸人が心配だから行ってくれって言うんだもん。どっちかと言えば俺が家から追い出された様なもんなんだけど。旦那の親友を心配して旦那を家から追い出すってどうなんだよ」
「知らん」
似たもの夫婦だ。
思わず笑ってしまう幸人だ。
「で? どうだったんだ? ん?」
「別にどうも何も無い」
我が物顔でソファーに座る亘の隣に腰下ろす幸人。
亘はニヤニヤと、幸人の肩に腕を回す。
「デート楽しめなかったか?」
「楽しかったさ」
「キスぐらいはしたのか?」
「するわけないだろう!」
「流石に手は繋いだよな?」
「夏奈さんは迷子癖が有るみたいなんで、真菜さんが繋げと言うから……」
視線を反らす幸人に、亘は溜め息を吐く。
「夏奈ちゃんが好きなんだろ。さっさと告白しちゃえよ」
「昨日出会ったばかりなんだぞ。何を言ってんだ」
夏奈さんも困るだろう。
「お持ち帰りした癖に」
「そんなんじゃない」
あのまま外に置き去りにしたら良かったのか?
「でも、好きなんだろ?」
「僕は彼女の事、何も知らない」
真菜さんの妹さんで、明るくて、笑顔が素敵で、優しくて、とっても強い事しか知らないんだ。
「本当に? 何も知らなくないだろ?」
「僕が知ったのは、彼女の一面だけだ」
彼女が普段どんな様子なのか、何が好きなのか嫌いなのか、恋人は居るのか、何も知らない。
「一面でも好きなら好きなんだろ」
「もう、きっと恋人が居る」
彼女は素敵だから、きっと年の近い良い男性と付き合っているに違いないだろう。
「ちゃんと聞いたのか?」
「聞かなくても解るだろ。あんな素敵な人に恋人が居ない訳ない」
怖くて聞けるわけない。
少しだけでも、今この時だけででも、夏奈さんとのデートを楽しみたい。
本当に恋人同士の気分を味わいたいと思ってしまったんだ。
聞いたら夢が終わってしまう。
「お前も非の打ち所のないイイ男だが、恋人居ないじゃないか」
「非の打ち所がないイイ男ってのお前の事だろ」
こうやって僕の事を心配して部屋まで来てくれるんだから。
「いや、お互い褒めあってどうすんだ。有難うだけど」
ハハッと笑ってしまう亘だ。
幸人は臆病過ぎるんだ。
「相手に恋人が居たとして、指輪もしてねぇんだし、まだ奪えるチャンスが有るんじゃねぇか?」
亘は夏奈の指先に光るものが無いことを確認済だ。
「そんな事出来るわけ無いだろ! 不謹慎だ」
奪略愛なんて昼ドラでも無いんだ。
人ものは奪ってはいけない。
「夏奈ちゃんも満更でもなさそうだったけどな」
「そうかな」
夏奈さんは優しいから、誰にでも態度を変えない気がするが。
他の男性にどんな態度なのか変わらない。
ほら、やっぱり僕は夏奈さんの事何も知らない。
「取り敢えず恋人が居る居ないかだけでも確かめろよ」
「うん」
「ほら、早く」
「今か?」
「今やらないと、お前ぜったい聞けないからな」
亘は生返事の様な頷きをする幸人を急かした。
「何て聞けば良いんだ?」
「恋人は居ない? 居なかったら僕の恋人になって欲しいなぁ~って」
「無理だ! 絶対無理!」
絶対コイツ面白がってる。
前言撤回しようかな。イイ男じゃない。
幸人は亘を睨む。
「じゃあ普通に恋人は居るの? でも良い」
「馴れ馴れしくないか? なんでそんな事聞くんだと思われるだろ?」
夏奈さんも僕に警戒してしまうかも知れない。
恋人になれなくても良いんだ。
それでも良い友達という立ち位置に陣取っては居たいんだが。
「大丈夫だって。ほら、早く! 連絡先ぐらい交換したんだよな?」
「うん…… でも、本当に変じゃないか?」
普通の友達でも聞くことなのか?
「普通だって、ほら早くしろ」
「解ったから急かすな!」
あまりに亘が急かすので、幸人はスマホを取り出す。
でも、確かに気になる。
『こんばんは、家には無事に着けましたか? 今日はとても楽しかったです。またお話しましょう。こっちに来たときは連絡下さい。所で、夏奈さんは恋人は居るんですか?』
こ、これで良いんだろうか?
いや、どう見ても君に興味があるよという、男の下心丸出しな文ではなかろうか。
もし恋人が居なかったら僕と付き合わない?
と、暗に言ってるようなもんではないか?
チラリと亘を見る。
グーサインを出している。
本当か?
本当にこれで良いのか?
不穏だ。
「あっ、おい!!」
送信を押すかどうか迷っていた幸人の指を亘が勝手に押してしまう。
何てことをするんだコイツは!
直ぐに削除しよう!
そう思って見ると、もう既読になってしまっている。
夏奈さん見るの早すぎ!!
『まだ新幹線の中です。今日は引っ張り回してごめんなさい。ゆっくりお風呂に入って下さいね。是非、また遊びに行きます。恋人の事はお姉ちゃんに聞いてくれと言われたんですか? 今は居ないんです』
夏奈さん返事も早い!
そして、恋人居ないんだ!
しかも、勝手に真菜さん経由と誤解してくれている!
真菜さん、誤解はこのままにさせて下さい。
ごめんなさい。
「良かったじゃねぇか! チャンスあんぞ!」
「やったぁ!!」
バンバン背中を叩く亘に、思わず手を上げて喜ぶ幸人だ。
いや、夏奈さんに恋人が居なかったからと言って、僕に目を向けてくれるとは思えないんだけど。
一回りも違う相手をそんな風に見れるだろうか。
やっぱり二十代から見て三十代後半はオッサンだよな。
勝手にそう思って、勝手に項垂れる幸人だ。
「誕生日でも聞けよ、趣味とか!」
「そんなに沢山メッセージして良いんだろうか。夏奈さん疲れて寝てるかも知れないし」
「新幹線で寝るのは防犯上良くないだろ」
「確かに」
じゃあメッセージ送ろう!
『幸人さんの誕生日はいつですか?』
送ろうと思ったら先に夏奈さんが送ってくれた。
『僕は5月3日です』
『ゴールデンウィークですね!』
『夏奈さんはいつですか?』
『私は6月22日です』
『かにの日ですね』
『そうなんですか?』
夏奈さんは蟹のスタンプを押してくれた。
「どうしよう。夏奈さんが可愛い」
亘に見せる。
「おお、良い感じだな」
夏奈がメッセージをくれるので、ちゃんと会話が続きそうだ。
幸人はこういうのも経験が無いだろうから何を送って良いか解らない。
でも、夏奈が送ってくれるから大丈夫だな。
「夏奈さん、ジョギングが趣味だそうだ」
「ジョギングか」
良い趣味だが、誕生日プレゼントのヒントには成らなそうだな。
「夏奈さん、明日は友達と登山だって」
「すごいアウトドアな子だな」
「ああ、今日も神社への階段を沢山上がった」
「お前が? 足、大丈夫なのか?」
「めちゃくちゃ痛い」
「早く風呂に入れ!」
脹ら脛を擦る幸人、こりゃあ明日は筋肉痛で大変だろうな。
夏奈ちゃんと良い感じに思うが、こうも正反対な性格だと付き合っても後々疲れるかもしれない。
やっぱり後押しするのはやめた方が良いんだろうか。
亘は悩む。
でも、幸人が楽しそうだし、やっぱり応援したいな。
幸人は立つのもやっとそうだったので、そのまま座るように言うと、幸人の変わりに亘が風呂を準備をしてやる事にした。
作りが同じで良かった。
一回りも違う子を好きになってしまうなんて、馬鹿みたいだ。
恥ずかしい。
恋愛体質では無かったのに。
真菜さんが初恋で最後の恋だと思った。
そして、直ぐに終わった恋だった。
それなのに、直ぐに別の子を好きになったりして、僕は節操無しである。
もしかして、急に恋に目覚めて恋愛体質になってしまったのだろうか。
また直ぐに新しい女性に恋してしまうのだろうか。
幸人は溜め息をつくと、一人寂しく帰路につく。
亘から借りた服は後でクリーニングに出そう。
今日はもう疲れたし、泣きたい気分なので、さっさと家に帰って寝ることにする幸人だった。
「幸人ー! どうだった!? デート楽しめた!?」
「何で家に居るんだ」
帰ったら勝手に亘が部屋で待っていた。
警備員さんから勝手に部屋の鍵を借りたんだろうけど、僕も亘なら部屋に入れて待たせておいても良いと言っておいたけど。
亘なら僕のプライベートなスペースは守ってくれると信頼しているから良いんだけども。
綾乃さんとのデートはどうしたんだ!
「だって、どうなったか気になるし、夏奈ちゃんが帰っちゃって寂しいかなぁって思ってさ。図星だろう?」
「綾乃さんは放ったらかしで良いのか?」
図星だが、妻より友人を優先するなんて、愛想を尽かされても知らんぞ。
「綾乃も幸人が心配だから行ってくれって言うんだもん。どっちかと言えば俺が家から追い出された様なもんなんだけど。旦那の親友を心配して旦那を家から追い出すってどうなんだよ」
「知らん」
似たもの夫婦だ。
思わず笑ってしまう幸人だ。
「で? どうだったんだ? ん?」
「別にどうも何も無い」
我が物顔でソファーに座る亘の隣に腰下ろす幸人。
亘はニヤニヤと、幸人の肩に腕を回す。
「デート楽しめなかったか?」
「楽しかったさ」
「キスぐらいはしたのか?」
「するわけないだろう!」
「流石に手は繋いだよな?」
「夏奈さんは迷子癖が有るみたいなんで、真菜さんが繋げと言うから……」
視線を反らす幸人に、亘は溜め息を吐く。
「夏奈ちゃんが好きなんだろ。さっさと告白しちゃえよ」
「昨日出会ったばかりなんだぞ。何を言ってんだ」
夏奈さんも困るだろう。
「お持ち帰りした癖に」
「そんなんじゃない」
あのまま外に置き去りにしたら良かったのか?
「でも、好きなんだろ?」
「僕は彼女の事、何も知らない」
真菜さんの妹さんで、明るくて、笑顔が素敵で、優しくて、とっても強い事しか知らないんだ。
「本当に? 何も知らなくないだろ?」
「僕が知ったのは、彼女の一面だけだ」
彼女が普段どんな様子なのか、何が好きなのか嫌いなのか、恋人は居るのか、何も知らない。
「一面でも好きなら好きなんだろ」
「もう、きっと恋人が居る」
彼女は素敵だから、きっと年の近い良い男性と付き合っているに違いないだろう。
「ちゃんと聞いたのか?」
「聞かなくても解るだろ。あんな素敵な人に恋人が居ない訳ない」
怖くて聞けるわけない。
少しだけでも、今この時だけででも、夏奈さんとのデートを楽しみたい。
本当に恋人同士の気分を味わいたいと思ってしまったんだ。
聞いたら夢が終わってしまう。
「お前も非の打ち所のないイイ男だが、恋人居ないじゃないか」
「非の打ち所がないイイ男ってのお前の事だろ」
こうやって僕の事を心配して部屋まで来てくれるんだから。
「いや、お互い褒めあってどうすんだ。有難うだけど」
ハハッと笑ってしまう亘だ。
幸人は臆病過ぎるんだ。
「相手に恋人が居たとして、指輪もしてねぇんだし、まだ奪えるチャンスが有るんじゃねぇか?」
亘は夏奈の指先に光るものが無いことを確認済だ。
「そんな事出来るわけ無いだろ! 不謹慎だ」
奪略愛なんて昼ドラでも無いんだ。
人ものは奪ってはいけない。
「夏奈ちゃんも満更でもなさそうだったけどな」
「そうかな」
夏奈さんは優しいから、誰にでも態度を変えない気がするが。
他の男性にどんな態度なのか変わらない。
ほら、やっぱり僕は夏奈さんの事何も知らない。
「取り敢えず恋人が居る居ないかだけでも確かめろよ」
「うん」
「ほら、早く」
「今か?」
「今やらないと、お前ぜったい聞けないからな」
亘は生返事の様な頷きをする幸人を急かした。
「何て聞けば良いんだ?」
「恋人は居ない? 居なかったら僕の恋人になって欲しいなぁ~って」
「無理だ! 絶対無理!」
絶対コイツ面白がってる。
前言撤回しようかな。イイ男じゃない。
幸人は亘を睨む。
「じゃあ普通に恋人は居るの? でも良い」
「馴れ馴れしくないか? なんでそんな事聞くんだと思われるだろ?」
夏奈さんも僕に警戒してしまうかも知れない。
恋人になれなくても良いんだ。
それでも良い友達という立ち位置に陣取っては居たいんだが。
「大丈夫だって。ほら、早く! 連絡先ぐらい交換したんだよな?」
「うん…… でも、本当に変じゃないか?」
普通の友達でも聞くことなのか?
「普通だって、ほら早くしろ」
「解ったから急かすな!」
あまりに亘が急かすので、幸人はスマホを取り出す。
でも、確かに気になる。
『こんばんは、家には無事に着けましたか? 今日はとても楽しかったです。またお話しましょう。こっちに来たときは連絡下さい。所で、夏奈さんは恋人は居るんですか?』
こ、これで良いんだろうか?
いや、どう見ても君に興味があるよという、男の下心丸出しな文ではなかろうか。
もし恋人が居なかったら僕と付き合わない?
と、暗に言ってるようなもんではないか?
チラリと亘を見る。
グーサインを出している。
本当か?
本当にこれで良いのか?
不穏だ。
「あっ、おい!!」
送信を押すかどうか迷っていた幸人の指を亘が勝手に押してしまう。
何てことをするんだコイツは!
直ぐに削除しよう!
そう思って見ると、もう既読になってしまっている。
夏奈さん見るの早すぎ!!
『まだ新幹線の中です。今日は引っ張り回してごめんなさい。ゆっくりお風呂に入って下さいね。是非、また遊びに行きます。恋人の事はお姉ちゃんに聞いてくれと言われたんですか? 今は居ないんです』
夏奈さん返事も早い!
そして、恋人居ないんだ!
しかも、勝手に真菜さん経由と誤解してくれている!
真菜さん、誤解はこのままにさせて下さい。
ごめんなさい。
「良かったじゃねぇか! チャンスあんぞ!」
「やったぁ!!」
バンバン背中を叩く亘に、思わず手を上げて喜ぶ幸人だ。
いや、夏奈さんに恋人が居なかったからと言って、僕に目を向けてくれるとは思えないんだけど。
一回りも違う相手をそんな風に見れるだろうか。
やっぱり二十代から見て三十代後半はオッサンだよな。
勝手にそう思って、勝手に項垂れる幸人だ。
「誕生日でも聞けよ、趣味とか!」
「そんなに沢山メッセージして良いんだろうか。夏奈さん疲れて寝てるかも知れないし」
「新幹線で寝るのは防犯上良くないだろ」
「確かに」
じゃあメッセージ送ろう!
『幸人さんの誕生日はいつですか?』
送ろうと思ったら先に夏奈さんが送ってくれた。
『僕は5月3日です』
『ゴールデンウィークですね!』
『夏奈さんはいつですか?』
『私は6月22日です』
『かにの日ですね』
『そうなんですか?』
夏奈さんは蟹のスタンプを押してくれた。
「どうしよう。夏奈さんが可愛い」
亘に見せる。
「おお、良い感じだな」
夏奈がメッセージをくれるので、ちゃんと会話が続きそうだ。
幸人はこういうのも経験が無いだろうから何を送って良いか解らない。
でも、夏奈が送ってくれるから大丈夫だな。
「夏奈さん、ジョギングが趣味だそうだ」
「ジョギングか」
良い趣味だが、誕生日プレゼントのヒントには成らなそうだな。
「夏奈さん、明日は友達と登山だって」
「すごいアウトドアな子だな」
「ああ、今日も神社への階段を沢山上がった」
「お前が? 足、大丈夫なのか?」
「めちゃくちゃ痛い」
「早く風呂に入れ!」
脹ら脛を擦る幸人、こりゃあ明日は筋肉痛で大変だろうな。
夏奈ちゃんと良い感じに思うが、こうも正反対な性格だと付き合っても後々疲れるかもしれない。
やっぱり後押しするのはやめた方が良いんだろうか。
亘は悩む。
でも、幸人が楽しそうだし、やっぱり応援したいな。
幸人は立つのもやっとそうだったので、そのまま座るように言うと、幸人の変わりに亘が風呂を準備をしてやる事にした。
作りが同じで良かった。
応援ありがとうございます!
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