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2話
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ベッドの上で正座し、ジークフリートと真っ向から向き合うアルトリア。組み敷こうと試みる彼に対し、アルトリアは全身に力を込めて耐えていた。
「……俺とするのが、そんなに嫌ですか?」
「当たり前だ。私は節操なしではない。夫がある身で他国の男と夜伽など、あってはならないことだ」
視線で火花を散らす二人を余所に、隣では熱を帯びた営みが続いている。
「あっ、胸が気持ちいいわルイス様。その中央の突起は何なの? 摘まれると、私、おかしくなっちゃいそう……ああ、舐めないでぇっ」
「君の胸は大きくてもみ応えがあるね。柔らかくて僕の手に吸い付くようだよ。薄紅色の蕾も可愛らしい。ああ、なんて良い声で鳴いてくれるんだ、僕のリリー……」
何度も唇を重ねる、湿った音が鼓膜を打つ。見ずとも二人が愛し合い、初夜を慈しんでいるのは明白だった。主の幸せに安堵するアルトリアだったが、今は自分の窮地でそれどころではない。
「貴女の国と俺の国では、価値観が違うようですね。我が国では、既婚者であれど夫との間に子がいない場合、孕ませた男がその女性を自分のものにできる決まりがある」
「貴様の国の倫理観はどうなっているんだ!」
「生産性のない夫婦関係より、愛のある家庭の方が有益でしょう。結婚して久しいのに子がいないなど、夫側に問題がある可能性も高い。理に適っていると思いますが?」
アルトリアは頭を抱えたくなった。同盟相手を間違えたのではないかという疑念が脳裏をよぎる。
「アルトリア殿、貴女は夫を愛しているのですか? 違うでしょう。政略結婚なら相手が俺に代わっても問題はないはずだ。俺ならば必ず貴女を幸せにするのに」
「……なぜ結婚の話になっている?」
「行為に及ぶなら、結婚を前提にするのは当然でしょう。私が責任を持って貴女を娶ります。当たり前じゃないですか」
ジークフリートの強引な理屈に、アルトリアの思考が追いつかない。だんだん自分の方がおかしいのではないかという錯覚に陥り始める。
部屋に立ち込める、処女の苦痛を和らげるための媚薬香――それが、処女であるアルトリアの意識をも、しっとりと甘く、朦朧とさせていく。
隣の睦言はさらに熱を帯び、ルイスの指先がリリーの秘所に触れたのか、艶めかしい水音が響き始めた。
「すごいねリリー、初めてなのに、こんなに僕を迎え入れる準備ができている。君は本当に優秀だ」
「あ、あんっ……だめぇ、恥ずかしいわルイス様……」
リリーを宝物のように扱うルイス。その幸福な空気に当てられ、アルトリアの頭には深い霧がかかっていく。
(リリー様、とても気持ちよさそうだ……。私だって女として生まれたのだから、一度くらい、あんな風に……)
今を逃せば、自分のような「可愛げのない女」を抱こうとする男など二度と現れないのではないか。
目の前の男は宿敵だが、類まれなる強さと美貌を兼ね備えた、非の打ち所のない騎士だ。
(初めてを……最後になるかもしれないものを捧げるには、申し分ない男なのではないか。寧ろ自分には勿体ない男だ)
彼は王子からの罰を逃れるため、私は経験を得るため。これは互いにとって利益のあることなのだ――。
そう自分に言い訳をして、アルトリアは腕の力を抜いた。
抵抗が消えた瞬間、ジークフリートは逃さぬと言わんばかりに彼女の手首をベッドに押し付けた。
「……俺を受け入れてくれるのか?」
「……もう、好きにしろ」
承諾を得たジークフリートは、狂おしげに彼女を抱きしめた。
「アルトリア殿、まるで夢のようだ……」
鋼のような腕に強く抱かれ、アルトリアは息を呑んだ。男に抱きしめられることが、これほどまでに安心し、心地よいものだとは知らなかった。
「国境の丘で、姫の戯れに付き合っていた貴女を一目見た時から、俺の心は貴女のものだった。これほど美しい人を、俺は他に知らない。その貴女が今、俺の腕の中にいる。初めてを俺に捧げてくれるなんて、俺はなんて幸運なんだ」
ジークフリートは、宝物を確認するように何度も彼女の顔を覗き込む。
「……やめろ、恥ずかしい」
お世辞はやめて、さっさと済ませてほしい。そう願うほどに、胸が高鳴って止まらない。
「貴女の髪は艶やかで、肌は驚くほど滑らかだ。……この白い肌に、俺の跡をつけることをお許しください」
ジークフリートの長い指が髪を梳き、鎖骨のラインをなぞる。そこへ熱い唇が寄せられ、吸い付くような音を立てた。
自分を、何よりも価値のある存在として扱う彼の仕草。
(……私は、ずっと、誰かにこうされたかったのか?)
ドキドキと暴れる心臓の音は、もはやお香のせいだけではなかった。
もしかしたら、自分もずっと前から、この男を――。
「……俺とするのが、そんなに嫌ですか?」
「当たり前だ。私は節操なしではない。夫がある身で他国の男と夜伽など、あってはならないことだ」
視線で火花を散らす二人を余所に、隣では熱を帯びた営みが続いている。
「あっ、胸が気持ちいいわルイス様。その中央の突起は何なの? 摘まれると、私、おかしくなっちゃいそう……ああ、舐めないでぇっ」
「君の胸は大きくてもみ応えがあるね。柔らかくて僕の手に吸い付くようだよ。薄紅色の蕾も可愛らしい。ああ、なんて良い声で鳴いてくれるんだ、僕のリリー……」
何度も唇を重ねる、湿った音が鼓膜を打つ。見ずとも二人が愛し合い、初夜を慈しんでいるのは明白だった。主の幸せに安堵するアルトリアだったが、今は自分の窮地でそれどころではない。
「貴女の国と俺の国では、価値観が違うようですね。我が国では、既婚者であれど夫との間に子がいない場合、孕ませた男がその女性を自分のものにできる決まりがある」
「貴様の国の倫理観はどうなっているんだ!」
「生産性のない夫婦関係より、愛のある家庭の方が有益でしょう。結婚して久しいのに子がいないなど、夫側に問題がある可能性も高い。理に適っていると思いますが?」
アルトリアは頭を抱えたくなった。同盟相手を間違えたのではないかという疑念が脳裏をよぎる。
「アルトリア殿、貴女は夫を愛しているのですか? 違うでしょう。政略結婚なら相手が俺に代わっても問題はないはずだ。俺ならば必ず貴女を幸せにするのに」
「……なぜ結婚の話になっている?」
「行為に及ぶなら、結婚を前提にするのは当然でしょう。私が責任を持って貴女を娶ります。当たり前じゃないですか」
ジークフリートの強引な理屈に、アルトリアの思考が追いつかない。だんだん自分の方がおかしいのではないかという錯覚に陥り始める。
部屋に立ち込める、処女の苦痛を和らげるための媚薬香――それが、処女であるアルトリアの意識をも、しっとりと甘く、朦朧とさせていく。
隣の睦言はさらに熱を帯び、ルイスの指先がリリーの秘所に触れたのか、艶めかしい水音が響き始めた。
「すごいねリリー、初めてなのに、こんなに僕を迎え入れる準備ができている。君は本当に優秀だ」
「あ、あんっ……だめぇ、恥ずかしいわルイス様……」
リリーを宝物のように扱うルイス。その幸福な空気に当てられ、アルトリアの頭には深い霧がかかっていく。
(リリー様、とても気持ちよさそうだ……。私だって女として生まれたのだから、一度くらい、あんな風に……)
今を逃せば、自分のような「可愛げのない女」を抱こうとする男など二度と現れないのではないか。
目の前の男は宿敵だが、類まれなる強さと美貌を兼ね備えた、非の打ち所のない騎士だ。
(初めてを……最後になるかもしれないものを捧げるには、申し分ない男なのではないか。寧ろ自分には勿体ない男だ)
彼は王子からの罰を逃れるため、私は経験を得るため。これは互いにとって利益のあることなのだ――。
そう自分に言い訳をして、アルトリアは腕の力を抜いた。
抵抗が消えた瞬間、ジークフリートは逃さぬと言わんばかりに彼女の手首をベッドに押し付けた。
「……俺を受け入れてくれるのか?」
「……もう、好きにしろ」
承諾を得たジークフリートは、狂おしげに彼女を抱きしめた。
「アルトリア殿、まるで夢のようだ……」
鋼のような腕に強く抱かれ、アルトリアは息を呑んだ。男に抱きしめられることが、これほどまでに安心し、心地よいものだとは知らなかった。
「国境の丘で、姫の戯れに付き合っていた貴女を一目見た時から、俺の心は貴女のものだった。これほど美しい人を、俺は他に知らない。その貴女が今、俺の腕の中にいる。初めてを俺に捧げてくれるなんて、俺はなんて幸運なんだ」
ジークフリートは、宝物を確認するように何度も彼女の顔を覗き込む。
「……やめろ、恥ずかしい」
お世辞はやめて、さっさと済ませてほしい。そう願うほどに、胸が高鳴って止まらない。
「貴女の髪は艶やかで、肌は驚くほど滑らかだ。……この白い肌に、俺の跡をつけることをお許しください」
ジークフリートの長い指が髪を梳き、鎖骨のラインをなぞる。そこへ熱い唇が寄せられ、吸い付くような音を立てた。
自分を、何よりも価値のある存在として扱う彼の仕草。
(……私は、ずっと、誰かにこうされたかったのか?)
ドキドキと暴れる心臓の音は、もはやお香のせいだけではなかった。
もしかしたら、自分もずっと前から、この男を――。
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