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第一章 討伐騎士団宿舎滞在編
48 飲んで食べて無礼講!
しおりを挟むさて、夜になりました。
合同修練場には第一と第二の騎士が勢揃い、ガヤガヤとお祭り状態になっております。
そんな中を揉みくちゃにされつつ様子を伺っておりますのが私です!
一番人気はやっぱり目玉のバックボアの半身焼きだね。
いつもならそのまま焼いたものを切って食べるって言うからちょっと工夫した、というか変化球的な食べ方教えたらそれがまた人気になってしまって……半身焼き担当のルーとミッシェルがアワアワしてる。
「うんめぇ!いつもなら塩だけなのに、この調味料……?ってやつ、すげえな!」
「パンに挟むのも、斬新だよな!?」
「てかこのパンも柔けえ!なんだこれ!」
第二の騎士達がぎゃあぎゃあと感想を言いつつ、食べながら飲みながら大絶賛。
そうだね、そっちには教えてないもんね……柔らかいパン……。
遠い目をしつつ、褒めてくれるのは単純に嬉しいので笑顔になる。
塩だけの半身焼きもそれはそれは美味しくて、皮はパリパリしてて蜂蜜を塗って焼いたのか甘しょっぱさが後を引く感じだ。
子豚の丸焼きで食べる皮のようで、北京ダックみたいにして食べたいな、と思った。
肉は言わずとも、直火で焼いているので煙で燻製効果なのかなんとも言えない香り付きで肉汁もたっぷり、1口かじれば旨み爆発!という……悪魔的なお味のお肉の仕上がりだ。
これがあのバックボアだと言うのだから驚きだけど、やっぱりこの世界の食材のポテンシャル高くてめっちゃ美味しいー!魔物最高ー!
バックボアの半身焼きは、削いでは焼いて、焼けたら削いで……を繰り返していたので何となくケバブを思い出した私は、作っておいた焼肉のタレとマヨネーズとトマトケチャップで作ったオーロラソース、そして野菜やらを調理場から持参して、パンに玉ねぎやキャベツを載せたあと、焼肉のタレをぶっ掛けたお肉にオーロラソースをかけて挟んだものを提供。
なんちゃってケバブ風を作ってみた!
そしたらその食べ方が人気になった、という訳です。ケバブ……鶏肉で作るんだけどね。
そして忘れちゃならない、イノシシカツ!
テーブルには沢山の木の枝で作った大きな串
、それに各種野菜と肉を好きなように指してもらったら、パン粉とバッター液を用意してるので串揚げ状態に。
何個か焚き火台を作ってもらったからそこに油が入った鍋を置いて各々好きに揚げてもらう。
ツボになんちゃってトンカツソースと焼肉のタレを用意したから、好きな味でどうぞ、の食べ放題ビュッフェスタイルにした。
直前ツボに串揚げを入れるんだけど、二度漬け禁止と書いたから多分大丈夫でしょう。
騎士達を信じます。
もちろんそのまま焼いて食べてもいい、二重に美味しい串料理。
とにかく自由に、美味しく楽しく食べてもらいたいのでこういう半調理を取り入れたものにしてみた。
ちょっと不安だったけど、そこは野外実習などで慣れた第一がお手本となり第二に教えつつ各自勝手に盛り上がりをみせたのでこれは大成功といえるだろう。
「賑わっているな」
私が会場の端で盛り上がりを見せる騎士達をベンチに座って見ていると、横にライオネルが座りながら声をかけてきた。
「そうですね、これもひとえに食材提供してくれたどこかの誰かさんのおかげですかねー」
「……よく言う」
ニヤリ、と笑うライオネルは少し酔っているのか表情が豊かになっている気がする。
「奴はどうした?来てないようだが」
「……団長さんは、いつも通りですよ。自分が居ると騎士達が遠慮するからって」
「そうか……」
第一宿舎の三階、灯りがついている部屋を指さすとライオネルもそれにつられて視線をあげて見ている。
「残念だ」
「そうですね……でも、頑固なので」
事前に何度も誘ってはいたのだけど頑なに来ようとしなかった団長さんを思い出して苦笑い。仕方ないので、私が作った煮物と皮のきんぴらと日本酒をそっと置いて私は宴に来たのである。
「今頃、これ、食べてるんじゃないですかね?」
「なんだそれは」
「これは私の親父の味です。こっちが皮のきんぴらで、こっちは皮の煮物です」
「……皮ばかりだな」
「好きなんで。……味見します?食べさしで良ければ」
すいっとテーブルの上に乗っている皿を流すと、食べさしでも気にしないのか躊躇なく味見をするライオネル。
きんぴらから食べたみたいでコリコリと咀嚼音が聞こえる。
「美味い。少し固いがそれがまたいいな。噛めば噛むほど脂の旨みが口に拡がって……甘辛さも相まって後を引くな」
おお、ライオネル意外と食レポ上手い。
普段は必要なこと以外喋ったりしないのに、お酒効果なのか饒舌だな。
「こっちの、プルプルとしているのも皮なのだな?柔らかくて噛む前に消えていったぞ?同じ皮なのに、信じられん」
「気に入ったのならもっと出しましょうか?」
「ああ、頼む」
こんなこともあろうかとバックパック持参してきたのです。ルー達に食べさせたかったからね。
鞄から食べ物を出す私を驚きの目で見られたが特に言及されなかったのでスルー。
ついでにライスリキュールも出してみる。
「日本酒……ライスリキュールってこっちでは言うらしいんですが、抵抗なければ是非」
「ケイが言うんだ、美味いんだろう?」
「はい、目の前の料理に合いますよ」
ライスリキュールは消毒液。こっちの感覚ではそうなのだけど、私が飲んでるのを見たライオネルはこれも躊躇なく飲む。
そして煮物をぱくり、と食べると酒とアテのマリアージュを楽しんでいる。
……飲みなれてるな……コイツ……。
「これは……最高に美味いな。ライスリキュールがこれほどに美味いなどと……」
「私がいた世界ではないと困るお酒です。神に捧げたり、料理につかったり、御仏……お墓にかけて清めたり……ここで使うように消毒で使う時もありましたね」
「ほう……興味深い」
ライオネルは私の故郷のことを静かに飲みながら相槌をうちつつ聞いてくれた。
私もお酒が入っていたのと、懐かしい親父の味で饒舌になっていたのをみとめます。
そして、話も途切れ、静かに二人で飲んでいると、ライオネルが私を見つめた。
「どうしました?」
「……ありがとう。改めて言いたかった」
「私は何もしてません」
「きっかけを作ってくれただろう」
「勝手に改心したのはライオネルです。それに私も現実というものが分かったので……ウィン・ウィンです」
「う、うぃん……?」
「お互い様ってことです」
きょとん、としているライオネルにニヤッと笑いかけると目を瞬く仕草を見せる。
「今、楽しく飲んで食べて盛り上がってる騎士達がいる……それでもうなんか、良いかなぁ……って思います」
宴の中心を指さして言うと、私の言いたいことがわかったのか、ライオネルも笑って頷いた。
多分、お互い思うところなど沢山あるだろうけども。それはもう水に流して。
団長さんとの固執も、私への偏見も、何もかも解決した訳では無いけれど。
なんとかなるだろう……という気になるので、きっとなんとかなるし何とかする。
「お前が来てから、騎士団も変わった」
「そうですか?」
「ああ、良い方へ、な。……聖女と言っていいぞ」
「よして下さいよ……嫌な思い出しかないんですから」
「まあ、そう言うな。俺はお前をそう思う。この世界にケイが来てくれた事に感謝しよう」
時に、なんとなしに言われた言葉が抉るように、痛いくらい嬉しいと感じることがあるだろう。
まさか私を嫌っていた相手からそう言われるとは思わなかったので、つい涙腺が緩む。
ライオネルは見て見ぬふりをしてくれる。
それがまた悔しくて、肩肘でライオネルを小突いた。
「……ライオネルのくせに、うっせーです」
「言ってろ小娘が」
今はもう、この軽口も心地よく、最高の友が出来た……そう感じた夜だった。
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