王城のマリナイア

若島まつ

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二十六、衝動 - un impulso -

 サゲンは子供をあやすように幼馴染の背を撫でてやりながら、あの気の強いアルテミシア・リンドのことを考えた。このまま彼女を手に入れたとしたら、ロザリアの言うように大きな苦しみを与えることになるだろうか。
「手に入れてもいないのに、ちょっと自惚れすぎじゃない?」
 と、頭の中でアルテミシアの声がした。事実、彼女には一度振られている。が、当然それくらいのことで引き下がるつもりなど毛頭ない。どれほど時間が掛かろうと、どれだけ手間が掛かろうと、どんな手段を使おうと、彼女を手に入れることは決まっている。アルテミシアがあの時このままの関係でいたいと言ったのは、彼女自身が自制を必要としているからだ。彼女がサゲンの気持ちを遠ざけようとした手前、態度にはほとんど出さないが、目を合わせればサゲンを欲しているのが分かる。ハシバミ色の瞳の奥で、情熱的な炎がちらちらと燃えている。その目を見るたび、花びらのような唇を貪り、服を暴き、肌のあらゆる場所を味わいつくし、甘い悲鳴を聞きながら彼女の中に入る瞬間を想像する。
 始末が悪いのは、そういう時に必ず意志に反して身体が反応することだ。もう他の女で間に合わせようとも思わない。アルテミシアが予想外のいじらしさでサゲンに約束をさせてしまったことも理由の一つだが、書斎での一件の後で悟ったのだ。結局のところ、アルテミシア・リンド以外の女は欲しくないのだということを。
 そんなことを考えていたら、今も危うく身体が反応するところだった。サゲンは自分が可笑しくなって思わず笑みを漏らした。
「嫌ね、エメレンス。幼馴染みが沈んでいるのに、他のことを考えるなんて」
 ロザリアが呆れて言った。責めるような口調だったが、どこか楽しんでいるようでもある。
「悪い」
「あなたの気を散らすなんて、どんな大問題なのかしら」
 サゲンは喉の奥で低く笑い、東屋の欄干から池の向こうに視線を走らせた。最初は何故そうしたのか分からなかったが、すぐに理解した。無意識のうちに、橋の方へやって来たドレス姿の女を目で追っていたのだ。アルテミシアのしなやかな肢体には、遠くからでも目を奪われた。すぐにイグリが後を追って来て二人が向かい合った時、どういうわけかアルテミシアがこちらを見た。
 それから後は、あっという間だった。
 その瞬間にアルテミシアの顔に浮かんだものが何だったのか考える間も無く、イグリが彼女の唇を奪い、その手を引いて連れ去ったのだ。
 ロザリアはサゲンの様子が変わったことに気付き、顔を上げた。どうしたのかと訊こうとしたが、顔を見て口を噤んだ。今まで優しく穏やかな表情を浮かべていた幼馴染みとは、まるで別人のように見えたからだ。これほど暗く恐ろしい目をした彼を見たことがない。
「悪いが――」
 声まで別人のようだ。
「やらなければならないことができた」
「いいわ。行って」
 と、ロザリアが言い終わる頃には、彼女を一人残しサゲンは東屋を背に橋を渡り始めていた。
 サゲンは暗く激しい怒りを抱えたまま、屋敷へと馬を駆った。あの様子では、あの二人が宴に戻る可能性は少ないだろうし、どちらにせよ、遅かれ早かれアルテミシアは屋敷へ帰って来るだろう。闇雲に探して機を逃すよりも先回りする方が合理的だ。と、ごく僅かに残った冷静な自分が判断した。
 案の定、サゲンが屋敷に戻ってから一時間もしないうちに馬が地を蹴る音が聞こえて来た。サゲンはアルテミシアの寝室より手前の客間の窓からその様子を見ていた。アルテミシアがイグリと一つの馬で帰り、談笑し、イグリの手を借りて馬を下り、頬にキスを受ける一部始終を、全て。サゲンはその場に邪魔な上着を脱ぎ捨て、アルテミシアがこの部屋を通り過ぎるのを暗殺者のように静かに待った。
 当のアルテミシアは何事もなかったかのように軽い足取りで廊下を進んでいく。背を真っ直ぐに伸ばし、前だけを見て。赤みがかった金色の髪は白い花に飾られ、いつも以上に美しく見える。丈の短い白の上衣と緑がかったエメラルドグリーンのドレスは彼女の腰の細さとよく引き締まった臀部の丸みを隠してはいない。おまけに、甘い香りがする。これは花だろうか。それともアルテミシアの香りなのか。――これを他の男が近くで見、匂いを嗅いでいたのか。
 自分の中にこれほど凶暴な性質があることが空恐ろしくさえあったが、それでも怒りがまさった。自室へ向かうアルテミシアに音もなく近付き、背後から腕を取って壁に押し付けた。
 奇襲者の顔を見たアルテミシアの表情は、驚き、次に困惑、それから怒りへと変化した。ヘーゼルの瞳に危うい金色の光が散っている。こんな時にまでその美しさに目を奪われるなど、滑稽だ。
「イグリ・ソノと何をしていた」
 唸るような声色だった。激怒しているのは、アルテミシアにも分かる。牙を剥いた大きな野獣に丸腰で対峙しているような気分だった。それでもアルテミシアは怯まなかった。あんな気持ちにさせられて、こちらばかりが責められるのでは道理に合わない。声が震えないよう奥歯を噛みしめ、口元だけで笑みを作って見せた。
「あなたこそ、楽しい夜を過ごしたみたいだね」
「あいつと、何をしていたんだ」
 サゲンはぎりりと壁に押し付けたアルテミシアの腕を握り、歯の間から絞り出すように繰り返した。どこまでも思い通りにならない女だ。しかしアルテミシアは答えず、代わりに唇を歪に吊り上げて反抗的な視線を返した。素直に答えてやるつもりなど、更々ない。
「そんなことより、一緒にいた人は新しい恋人?それとも昔の?」
 サゲンが眉間の皺を深くした。それだけでアルテミシアには答えが分かった。同時に、胸の中に息苦しい靄が広がっていく。
「ああ、わかった。昔の婚約者ってあの人でしょう」
 聞かなくても分かる。一瞬見ただけでも、二人の親密さが分かった。ああいう雰囲気は、深い仲になった者たちにしかないものだ。例えば、別れた後も容易に新しい婚約相手を決められないくらいの関係とか――。
「今訊いているのは俺だ。質問に答えろ」
 サゲンの怒りに満ちた低い声を聞いた瞬間、取り乱すまいとしていたアルテミシアの胸で何かが決壊した。
「命令しないで!わたしはあんたの部下じゃない!」
 自分でも聞いたことがないほどヒステリックな声だった。こんな風に心を乱されるのなら、サゲンなど探そうとしなければ良かった。一歩踏み込んで関係を進めようなんて、甘かった。そもそもサゲンの気持ちは「確かなもの」ではなかったのだ。目頭が熱くなった。止めようと思っても、できなかった。
「質問に答えろ、アルテミシア・リンド」
「嫌だ――」
 サゲンはアルテミシアが振り上げた腕をいとも簡単に掴んで壁へ押し付け、反抗的な言葉を遮って噛み付くように口を塞いだ。アルテミシアが面喰らって反応できずにいる間に舌で口をこじ開け、口の奥へ舌を潜り込ませた。
「んん!やっ…」
 いつものように快感が押し寄せてくる前に、東屋で他の女性を腕に抱くサゲンの姿がアルテミシアの脳裏に甦り、頭に血が上った。
「――ッ」
 微かな鈍い音と同時に舌に痛みが走り、サゲンは唇を放した。口の中で血の味がする。アルテミシアがサゲンの舌に噛みついたのだ。アルテミシアの瞳は暗く剣呑な色に光っている。
「…わかった」
 サゲンは表情を殺して歯の間から絞り出すように呟いた。こんな状況なのに、唇に付いた血を舌で舐め取る仕草がやけに官能的だった。
「待つと言ったが、もういい。気が変わった」
 サゲンは反論を許さなかった。アルテミシアの腰を掴んでいとも簡単に身体を持ち上げ、肩に担ぎ上げた。
「いや!」
 アルテミシアが怒りの声をあげて抵抗したが、サゲンは意にも介さない。目の前の扉を開いて寝室の奥へ運び、手荒にベッドへ下ろした。サゲンは着地の反動でアルテミシアの身体が跳ね、髪から白い花が落ちるのを見下ろした。彼女の両脚の間に膝をつき、袖口のボタンを外して袖を捲ると、首元からタイを抜いてシャツのボタンを外した。
「全て身体に聞いてやる」
 その時のサゲンの顔を見てアルテミシアに起きた反応が何なのか、説明がつかない。恐怖と言うには、熱すぎる。怒りと言うには、甘すぎる。ただ確かなのは、腹の奥が一瞬ぎゅうっと痛いほどに締め付けられたことだ。この感覚は何と呼べばよいのだろう。自分を見下ろす青灰色の瞳は怒りと焦燥と欲望が混ざり合い、いつもよりもっと危険な色に見えた。
 開かれたシャツの間からサゲンの精悍な胸が覗いた。アルテミシアは何故かそこから目が離せなくなり、身じろぎも忘れた。それがすぐ目の前に迫っているというのに。
「怖ければ懇願しろ」
 サゲンは嘲るような調子で言った。どう言えば彼女が逃げ出せなくなるのか、知っているのだ。慈悲深く、辛抱強く逃がしてやれる段階などは、とうに過ぎてしまった。
「絶対いや」
 アルテミシアはサゲンの目論見通り受けて立った。自分が何を言ったのか気付いた時には、既に遅かった。それに、もう逃げようとも思えない。これは、怒りとは別の感情だ。
 サゲンは獰猛とも思えるような笑みを広げ、アルテミシアの丈の短い上着の前に手を伸ばし、肩から滑り落とすようにして脱がせた。喧嘩を買ったアルテミシアは毅然とした強い視線でサゲンを睨んでいる。サゲンの長い指が絹のベルトの結び目に伸びてくると、かすかに指が鳩尾に触れ、身じろぎしそうになったが、無意識のうちに唇を噛んで耐えた。
 サゲンはアルテミシアのベルトを解いて床に落としながら、先にこの部屋に灯りをつけておいたことに密かに満足していた。エメラルドグリーンのドレスは、均整の取れた身体に沿い、腰の曲線や形の良い胸を美しく引き立てている。何より羞恥と不安と期待をない交ぜにしたアルテミシアの表情を心ゆくまで楽しむことができる。今から目の前の女を征服するのだと思うと、凶暴にも思えるほどの高揚感に包まれた。
 サゲンの大きな手がアルテミシアの両手首を掴み、手の甲と手のひらに口付けをしながら頭上でまとめた。サゲンの柔らかい唇が、アルテミシアの頬へと下り、次に唇をなぞるようにそっと触れた。
 先程と同じように荒っぽくされると思っていたアルテミシアには、予想外だった。じわりと体温が上がる。
「また噛みつかれては適わん」
 と、サゲンは羽が触れるように上下の唇を啄み、首筋へと下っていった。アルテミシアは小さく喉の奥で声を上げた。目の前の男に怒っているはずなのに、柔らかい唇の触れたところから甘い痺れがさざ波のように身体に広がり、別の感情を目覚めさせる。
「ここは」
 首の窪みにサゲンの熱い息が掛かり、ぶるりと身体が震えた。
「…なに?」
「ここは触らせたのか」
 サゲンの低い掠れ声に、怒りと興奮が混じっている。サゲンが首から鎖骨へと啄むようなキスを繰り返し始めると、身体中の力が抜けてざわざわと何か得体の知れない感覚が広がった。
「ううん…」
 アルテミシアが反抗も忘れて素直に答えた。甘えるような声色が混じったことに、彼女は気付いてもいない。ハシバミ色の瞳の奥が燃えている。情欲に火が点いている。
 サゲンは眉間に皺を寄せ、舌を打ってアルテミシアの身体をうつ伏せに返した。アルテミシアは上体を起こして抗議しようとしたが、サゲンが背中にのしかかってボタンを外し始める方が早かった。
「くそ」
 ――焦れったい。
 サゲンは小さく悪態をついた。この瞬間はアルテミシアの身体を覆っているもの全てが忌々しい。
 アルテミシアは少しずつ自分の肌が空気に晒されるのを感じながら、何故いま身体を捩ってこの男の手から抜け出さないのかと考えようとした。が、うなじの髪の生え際にサゲンの唇がそっと触れた瞬間、背筋にぞくりと快感が走って思考が止まった。
「ここは」
 うなじに唇が触れるか触れないかの距離でサゲンが訊くと、アルテミシアが首を横に振った。
 サゲンは密かに口の端を吊り上げ、ドレスの袖を腕から抜いてベッドの下に投げ落とした。レース刺繍のアンダードレスの袖から白い腕が伸び、薄絹がぴったりと身体に沿って細い腰を覆っている。サゲンは露わになった腕に手のひら全体で覆うように触れ、肩の方へとゆっくり這わせていった。親指がつ、と脇に近い腕の内側を掠めるとアルテミシアの身体がぴくりと反応した。
「ここは」
 サゲンの声が耳のすぐ後ろで聞こえる。アルテミシアはかぶりを振った。身を捩ろうとした時、サゲンの大きな手が胸に触れた。レース地のドレスの上からでも既に胸の先端が硬くなり、サゲンの手に反応しているのが分かる。アルテミシアは大きく息を呑んだ。サゲンの手は布越しの感触を確かめるように円を描いて胸を撫で、するりと腰へ移動していく。ぞくぞくと熱い感覚がアルテミシアの思考を完全に奪おうとしているようだ。
「あっ、あなたこそ、どうなの」
 アルテミシアは声を振り絞って詰った。優位に立たれたままやりたいようにされるのは、アルテミシアの流儀ではない。
「さっきの人ともこういうことをしたわけ?わたしがあなたを拒絶してからひと月も経っていないのに、さっさと他に乗り換えて?」
 嫌味を言ったつもりだったのに恨みがましく責めるような口調になってしまったのは、サゲンによって理性を乱されているからだ。口に出した瞬間、怒りと失望、期待と欲望が頭の中で混ざり合う。とても平静ではいられなかった。胸が苦しい。こんなにぐちゃぐちゃに乱されるなんて、一体この男は自分に何をしたというのだろうか。
 背中の留め具を外そうとしていたサゲンの指が止まった。サゲンはアルテミシアの頰に触れてこちら側を向かせ、顔を覗き込んだ。初めて見る顔だ。彼女のこんなに自信がなく不安そうな表情は見たことがない。それまで激しい怒りに支配されていた心が、驚きと共に別の感情に変化していった。
「…嫉妬しているのか」
 カッ、とアルテミシアの顔が燃えるように熱くなった。恥ずかしい。妬心を暴かれるのがこれほどまでに恥ずかしいとは思ってもみなかった。それでも、否定はできなかった。
「じゃ、その反抗的な態度も嫉妬のせいか」
 イグリ・ソノを受け入れ、自分を遠ざけようとしたからではなく。――と言い終わる前に、既に答えは明白になっていた。
 アルテミシアは熱く潤んだ目を見られたくなくて下唇を噛んで顔を横へ向けたが、すぐにサゲンの手に顎を掴まれて正面を向かされ、噛みつくように唇を奪われた。
「んん!」
「噛むなよ」
 舌をねじ込みながらサゲンが唸るように言った。さっきよりも熱い。
「は、まだ…」
 質問の答えを聞いていない、と言うより前にサゲンの舌が絡みつき、熱い手のひらが胸から腰を上下し始めたので何も言えなくなった。触れられたところから炎で焼かれていくようだった。身体中が燃えるように熱い。
 サゲンの長く筋の目立つ指がアルテミシアの頰をそっと撫で、青灰色の瞳がアルテミシアの瞳をまっすぐ貫くように射竦めた。
「俺が欲しいのは君だけだ、アルテミシア。これほど俺から理性を奪い去るのは。君でなければ何も意味をなさない。信じて欲しい」
 最後の言葉は懇願のようにも聞こえた。アルテミシアはアーモンド形の目を丸く見開き、サゲンの瞳を見つめ返した。
 ハシバミ色がオパールのような輝きを放って燃えている。サゲン身体の一部も既に燃えるような熱を持って硬度を増していた。
「…わたしだけ?」
「ああ」
「じゃあ、他の人にはもうしないで…」
 そう言いながら、自分の言葉に衝撃を受けた。自分の中にこんな感情があるなんて、知らなかった。いつからこんな生々しい感情をサゲン・エメレンスに対して抱くようになっていたのだろう。
「全て君の望む通りにする」
 サゲンの唇が弧を描いた。熱を孕んだ、優しい笑みだった。そしてアルテミシアはそれを受け入れることにした。この期に及んでこれを拒むなど、できるはずかない。
 サゲンが再び熱い舌を潜り込ませてきた時、アルテミシアも舌をおずおず伸ばしてそれに応えた。サゲンの息が次第に荒くなっていくのが分かる。アルテミシアがサゲンのシャツにしがみついて甘いキスに夢中になっている間に、サゲンは背中に手を伸ばしてアンダードレスの留め具を外し始めた。これほど美しく官能的な装いを剥ぎ取ってしまうことに多少の後ろめたさを感じなくもないが、それよりも今すぐにアルテミシア・ジュディットをそのまま感じたい。
 サゲンの唇が顎へ、顎から喉へ、喉からうなじへとキスを繰り返しながら下って行き、気付いた時には再びうつ伏せにさせられていた。アルテミシアはもどかしい感覚に耐えるようにシーツを握った。
 アンダードレスから解放された白い背に、留め具とレースの痕がうっすらと桃色に色付いて蔦模様を描いている。サゲンは露わになった背中に手のひらで触れた。初めて会った日、浴室でアルテミシアの肌を見てからずっと直に触れてみたいと思っていた背は、やはりするすると滑らかで柔らかい。サゲンが引き付けられるようにそこへキスをすると、アルテミシアが息を呑み、喉の奥で唸った。サゲンの手のひらが脇を通って薄く筋肉の付いた鳩尾へ、そしてその上のなだらかな丘陵へと滑るように上がっていく。
「あ!」
 先端を捕らえられ、アルテミシアが小さく悲鳴を上げた。サゲンはそれを親指の腹でそっと押し上げ、撫でた。じんじんと味わったことのない感覚がアルテミシアの身体に広がっていく。
「んっ、う…」
 アルテミシアは声を抑えようと下唇を噛んだが、すぐに後ろからサゲンの手が伸びてきて口を開かれ、太く長い親指が入ってきた。片手は相変わらず胸の感触を楽しみながら、時折優しく先端を撫でてアルテミシアに緩やかな快感を与えている。
「噛むな」
 サゲンは耳元で低く囁き、アルテミシアの耳にそっとかじりついた。アルテミシアの短い悲鳴が、サゲンの背をぞくりと震わせる。
 サゲンの舌が耳の穴をぐるりと舐めた瞬間、アルテミシアの身体が震えた。アルテミシアはぞくぞくとせり上がってくる快感に耐えるようにシーツを握りしめ、唇の代わりにサゲンの親指を噛んだ。そして、その微かな痛みがサゲンの五感を鋭くさせた。
 サゲンは耳から背へと唇で辿り、手のひらを肩から腕へと滑らせてアンダードレスを両腕から抜き去り、上半身を露わにした。アルテミシアが我に返って胸を隠してしまう前に、サゲンは彼女の手首を掴んで仰向けにさせ、ベッドに縫い付けるように腕を押さえつけた。
 情欲を剥き出しにしたサゲンの瞳と視線が合った時、アルテミシアはようやく自分がどうなっているのかを理解した。身体を隠すものが腰から下に纏わりつくアンダードレスだけになっている。アルテミシアは顔を真っ赤にし、普段の彼女からは想像もできないほどか細い声を出した。
「はっ、放して…」
「だめだ」
 サゲンは薄く笑い、上からその身体をじっくり眺めた。服に隠されて陽に晒されることのなかった肌は白磁のようだ。柔らかく薄い肉の下に筋肉がつき、腹の中央には臍へと続く縦筋が入っている。やや小さいながらも芸術品のように美しい形をした胸、珊瑚色に色付いた先端――やはり彼女の身体は素晴らしい。
「まだ序の口だぞ」
 アルテミシアが逃げ出さないように手首を掴んで押さえつけたまま、サゲンはゆっくりとアルテミシアの胸元へ顔を近づけ、鎖骨の下に吸い付いた。アルテミシアが息を呑むと同時に、肌がぴくりと小さく跳ねた。
 緩やかにうねった短い髪がアルテミシアの肌をくすぐり、繰り返されるキスの音が耳に微かに響く。サゲンの唇が触れたところから彼のものにされていくように感じる。
 サゲンはアルテミシアのだんだんと速く熱くなる呼吸を感じながら、愛らしい胸の先端に吸い付いた。
「あぁっ…!」
 アルテミシアは甘く不可解な感覚に背を反らせて悶えた。サゲンの舌がそれを絡め取り、押し上げ、つついてくるたびに、その感覚が強くなる。
 サゲンは手首を掴んでいた手をアルテミシアの手のひらへと滑らせ、指を絡めた。舌先で柔らかい胸の頂にある部分が硬くなったのを感じ、軽く歯を立てた時、アルテミシアは小さく高い声を上げてびくりと腰を浮かせ、サゲンの絡めた指を強く握り返した。サゲンの唇が乳首を濡らして離れ、もう片方にも吸い付いた。アルテミシアの片手を開放して先程まで口に含んでいた胸を片手ですっぽり包み込むと、血色を増した先端を指で挟むように刺激した。アルテミシアが喉の奥で悲鳴を上げ、自由になった手でサゲンの短い髪にしがみついた。
 身体中が熱い。いつかのように直接触れられたわけでもないのに、脚の間がひどく濡れているのが自分でも分かる。時折上がってしまう高い声も抑えられない。
 アルテミシアが両脚を擦り合わせるような動きをしたのに気付き、サゲンは笑みを浮かべた。――彼女が欲しがっている。ついさっきまで嫉妬と怒りに我を忘れていたというのに、今は天に拳を突き上げて歓喜したい気分だった。これほどアルテミシア・リンドに気分を振り回される自分がひどく滑稽に思えるが、自分の中でそれほどまでに大きな存在になってしまったアルテミシアがいっそう愛おしい。
 サゲンの唇と熱い舌が胸を離れ、胸の間を通って鳩尾へ、更に臍へと啄むようなキスを繰り返しながら下って行く。アルテミシアは腰の横で未だに絡んだままの手を強く握り、身体中を走り抜ける痺れを逃がそうとした。が、快感は増すばかりだった。
「アルテミシア…」
 サゲンの熱い息が臍の下に掛かると、アルテミシアが甘い吐息を漏らして身悶えた。
「今までここに触れた者は」
 サゲンはアルテミシアの腰を隠しているアンダードレスを引っ張ってずり下ろしながら、臍の下の平らな腹にキスをし、時折舌を這わせた。腰に纏わりついていたドレスが足元へ下ろされ、靴と一緒に床に落ちた。アルテミシアの引き締まった腿、青く細い血管の見える白い脛と、愛らしい足の指が露わになると、サゲンはしばらくそれらを淫らな視線で眺め、脛から腿へと舌を這わせた。柔らかい肉の下でしなやかな筋肉が硬くなったのが分かる。
「んうっ…」
「ここは?これまで誰かに触らせたか」
 アルテミシアは脚を閉じようとしたが、既にサゲンの身体がその間に入り込んでいた。身に付いているものは秘所を隠す頼りない薄布だけになっている。
 アルテミシアが驚愕する間も無く、サゲンは下着の紐を解いて足元へ下ろしてしまった。
「ああ、だめ、待って…」
 アルテミシアは小さい声で懇願し、身をよじって抵抗を始めたが、サゲンが膝を捕らえて開かせ、簡単に制圧した。髪と同じ美しい色の茂みがそこを隠している。サゲンは白く柔らかい腿の内側に舌を這わせた。
「あっ!あ…待って」
「答えろ、アルテミシア」
 抵抗もままならない。アルテミシアはサゲンが興奮の混じった声色で命じるのを気もそぞろに聞いていた。サゲンの高い鼻が鼠蹊部に当たり、そこでサゲンの息遣いを感じる。このままその奥に触れられたら、どうにかなってしまう。
「あなただけだから、お願い、待って…――!」
 サゲンはアルテミシアの答えと反応に満足し、茂みの奥の秘所に唇を付けた。やはり既に十分濡れている。細い腰が跳ねると同時に鋭い悲鳴が上がり、何かに耐えるようにサゲンの肩を掴んで握りしめた。
(うそ…)
 味わったことのない快感が身体を痺れさせていく。恐いくらいだ。男が口で、舌でこんなことをするなんて、知らなかった。そして、自分がどう反応するかも。
 サゲンの舌が先程まで胸にしていたように秘所の小さな実を舌で円を描くように舐め、つついてくる。その度にびりびりと鋭い感覚が生まれ、自分のものとも思えない高い声が何度も喉から漏れた。
 サゲンはアルテミシアの露に濡れた唇を舐め、恍惚と笑みを浮かべた。
「可愛い声だ。ずっと聴いていたい」
「やだ…」
 アルテミシアが恥ずかしくて目も明けられずにいると、サゲンがもう一度そこに強く吸い付いた。
「ああっ!」
 甘い悲鳴がサゲンの身体をいっそう熱くさせた。緩急をつけて吸い付き、くるくると舌で弄ぶと、アルテミシアの身体が震え始めた。サゲンの手は胸を弄り、もう一方の手は腰を押さえている。彼女を絶頂へ連れて行くのはこれで二回目になるが、前回よりも激しく反応しているのは明白だ。しかしアルテミシアは手の甲を噛んで息を殺し、声と快感を抑えようとしている。
 サゲンは真っ赤に染まった場所から唇を離すと、既に十分すぎるほどに濡れて熱くなっているそこに指の腹で触れ、細い手首を掴んでアルテミシアの口を自由にさせた。途端に花びらのような可憐な唇から熱く荒い呼吸が漏れ、ハシバミ色の瞳が潤んで恨めし気にサゲンを見た。
「耐えるな、アルテミシア。解放しろ」
「どうやるの…」
「もう知っているはずだ。思い出せ」
「んんっ、でも…」
 これはこの前とは違う。それに、あの時は全てがわけの分からないうちに終わっていたのだ。意識が自分の思うままにならないのが苦しい。助けを求めるようにサゲンに掴まれた手を強く握り返した。
「ただ、俺を感じるだけでいい」
「――あ!」
 サゲンの指が感度の上がった快楽の中心に荒く、時に優しく触れながら絶えず快感を創り出し、増幅させていく。アルテミシアはサゲンの言葉に誘われるように一切の思考を放棄した。サゲンはその機を逃さずに唇を重ね、秘所にしていたような動きで舌を弄びながら指でアルテミシアの中心を愛撫し続けた。
 その瞬間はすぐに来た。サゲンによって生み出された鋭い快感がアルテミシアの口から甘い叫びをあげさせ、五感の全てを支配し、意識を真っ白にした。アルテミシアは呼吸を乱しながら、放心状態で目の前の男の苦しそうな顔をぼんやり眺めた。どうしてサゲンが苦しそうなのかと疑問に思うよりも、サゲンが再び噛みつくようなキスを仕掛けるほうが早かった。
(まずい)
 サゲンは今にも自制心を失いそうだった。アルテミシアの中にすぐにでも入りたくて脚の間は痛いほどに硬くなっている。しかし、それはだめだ。一度達しただけでは、処女のアルテミシアには苦痛を与えるだけだろう。中指を中心から下へずらし、蜜の源泉へゆっくりと侵入させた。
「ん!」
 唇を塞がれたままのアルテミシアがくぐもった声をあげた。昇り詰めたばかりの場所に触れられ、身体がびくびくと反応してしまうのを抑えられない。
「まっ、まだ…」
 と唇を浮かせて抗議しようとしたが、すぐにサゲンに唇を塞がれてしまった。サゲンの指が秘所の内部を押し広げて奥へと入ってくる。わずかな痛みと異物感に眉を寄せたが、明らかに何か熱い感覚がその場所からせり上がってくる。アルテミシアはサゲンのシャツの胸のあたりを握りしめ、強い刺激に耐えた。
「まだ?」
 サゲンは意地悪く尋ねながら、中指を埋めたまま上部の突起に親指で触れた。アルテミシアは返答もままならず、悲鳴をあげ、腰を反射的に浮かせて身体を震わせた。こんな時でも悔しそうに睨め付けてくるところが彼女らしい。ただ、それも今はサゲンの欲望を更に暗く深くするだけだった。
 彼女の内部は熱く、狭い。あまりの狭さに、弱い場所の探索は諦めて内部を解すことだけに集中することにした。あまり指を動かすと痛みが増すはずだ。ゆっくりと内壁を広げ、親指で突起に愛撫を加えながら中指を半ば抜き、更に奥まで進める動きを繰り返した。奥から蜜が溢れてくる。サゲンの一部は、そのなかに身を沈める瞬間を期待して更に熱くなっている。ツンと立った乳首を引き寄せられるように口に含んで舌で弄ぶと、アルテミシアが激しく反応した。中に埋めたままの指が締め付けられる。
「あっ、あっ…!だめ。また…」
「いい。いってくれ、アルテミシア」
 サゲンの声は興奮が混じってひどく掠れていた。呼吸も荒くなっている。熱い息が胸にかかり、更にアルテミシアの体温を上げた。サゲンの長い指が二本に増えて奥まで押し入り、親指で敏感な部分を撫でると、アルテミシアは身体を震わせて二度目の絶頂を迎えた。
 絶頂の余韻に意識を泳がせていたアルテミシアが次に見たものは、手早くベルトを外すサゲンだった。こんなに余裕のない表情は見たことがない。アルテミシアは奇妙な高揚感を覚えた。心臓を無数の細い糸で縛られたような感覚だった。上体を起こしてほとんど無意識のうちに手を伸ばし、サゲンの頬を両手で挟み込むと、形の良い唇にそっと触れるだけのキスをした。
 サゲンは唸り声をあげてアルテミシアを荒っぽく押し倒し、再びベッドにその身体を縫い付けてしまった。今すぐ彼女の中に入りたい。甘く蕩けるような彼女の声を聞きながら、この熱く濡れた場所にこの欲望を解き放ちたい。激しい焦燥を感じながら、ズボンを下ろして熱くなった一部を空気に晒した。身体にまとわりつくシャツももはや邪魔でしかない。ベッドの下に脱ぎ捨て、よく鍛えられた精悍な胸板を露わにした。
 アルテミシアの目はサゲンの精悍な肉体に釘付けになった。今まで見たことのある男性の身体とは全く違う。屈強な船乗りたちでさえ、これほど逞しく美しい肉体を持ってはいなかった。アルテミシアの身体が更に熱を増し、既に濡れている場所がとろりと溶け出した。この逞しく美しい身体がこれから自分に何をするか理解しているからだ。それから、アルテミシアの視線は下着を脱ぎ捨てたサゲンの脚の間へと走った。
 ――見なければ良かった。あんな大きなものが、本当に入るのだろうか。
 アルテミシアが狼狽したのに気付き、サゲンは彼女に覆い被さって柔らかい胸を弄びながら深いキスをした。アルテミシアの温かく柔らかい腕が首に巻き付き、キスの合間に彼女がひどく甘い声で息継ぎをしているのが聞こえる。
 アルテミシアは脚の間に硬いものが擦り付けられるのを感じながら、サゲンのキスに応えた。先程の愛撫でひどく敏感になった場所をサゲンの熱く立ち上がったものが掠め、新たな快感を生み出していく。アルテミシアは快感に反応して高い声を上げるのを止められなかった。サゲンもキスの合間に苦しそうに息を吐き、時折加減を忘れるのか、痛みを感じるほどに胸を掴んでくる。
 サゲンはアルテミシアの柔らかい唇を解放すると、とろりと熱っぽく潤んだハシバミ色の目と視線が合った。――もうだめだ。もうこれ以上は待てない。
「限界だ」
 食いしばった歯の間から唸るように言うと、アルテミシアの膝裏を腕で抱えて押し開き、硬く張りつめたものを彼女の入り口に押し当てた。
 アルテミシアは息を呑んだ。あまりの硬さに熱した鉄の塊でもあてがわれているのかと思ったが、間違いなくサゲンの一部だ。不安に駆られて目の前の苦しそうな顔を見上げた。曇天の日の海のような色をした瞳が、まっすぐこちらを見据えている。瞳に映し出されていたのは、熱く滾るような、純粋な情欲だ。またしてもぎゅうっと胸が締め付けられて苦しくなった。それに呼応するように、腹の奥が熱く疼く。
 その時だった。
「あ…――!」
 突然の圧迫感と激しい痛みに叫びそうになったが、唇を噛んで堪えた。サゲンが喉の奥で唸るのが聞こえる。眉間に皺を寄せ、歯を食いしばっている。
「…どうして」
 アルテミシアが細く呼吸をしながら、上擦った声で言った。サゲンは慈しむようにアルテミシアの顔に掛かった髪を指で横に退けてやりながら、相変わらず眉根を寄せている。
「なんだ」
「どうしてあなたが苦しそうなの…」
 痛いのはわたしなのに、と続けようとしたが、サゲンが一度腰を引いてもう一度入ってきたので何も言えなくなった。
「ああ、アルテミシア」
 声は低く掠れている。
「君の中があまりに狭くて熱いからだ」
「それって、よくないこと?」
 アルテミシアがあまりに不安そうな顔をしたので、サゲンは思わず笑みを漏らした。
「今の君にとってはそうかもしれないな」
「どういう――」
 言い終わる前にサゲンが再びゆっくりと奥へ進んで来たので、アルテミシアはまた呻いた。痛みと一緒に熱が増す。サゲンの唇がこめかみへ下りてきて優しく触れた。サゲンは何かに耐えるように長く息を吐き、更に少しずつ奥へと入って来る。アルテミシアはまだ全てが収まりきっていなかったことに驚きながら、悲鳴を押し殺した。
「よすぎて加減ができなくなる」
 アルテミシアはかあっと顔色を変え、顔を横に向けた。とても目を合わせられない。それなのに、青灰色の瞳が射貫くようにこちらを見つめ続けているのが分かる。それだけでじわりと脚の間が潤いを増した。驚くべきことに、身体が痛みを受け入れようとしている。
 サゲンは一気に奥まで押し入ってめちゃくちゃに腰を動かしたい衝動と必死に戦った。誰も入ったことのないアルテミシアの内部は熱く潤い、男を受け入れる準備が整っているというのに、サゲンのそれを押し返してくるほどの狭さだった。彼女の片方の膝を持ち上げたまま、身を半ばまで引いて更に奥へと進む動作を緩慢に繰り返し、彼女の中を慣らしていくことに集中しようとしたが、奥へ進む度に可憐な唇から漏れる控えめな喘ぎ声と、彼女から漂う花の香りがますますサゲンの理性を削ぎ取っていった。
「…ッ、痛いか」
 そう尋ねたサゲンもまた、絞り出すような声色だった。辛そうに眉を歪めている。その表情が、何故かアルテミシアの胸に迫った。アルテミシアは頬を桃色に染め、ハシバミ色の瞳を潤ませて小さく頷いた。
「けど、大丈夫…。あなたは」
「俺は痛くない」
「そうじゃなくて」
 サゲンが呻くような声で的外れなことを言ったので、アルテミシアは目元を緩めて柔らかく笑った。この日初めてサゲンに見せた笑顔だった。
(やられた)
「…くそ」
 サゲンはとうとう理性を手放した。
「きゃ!あっ、待って…」
「無理だ」
 もう片方の脚も抱えて腰を浮かせるように持ち上げると、アルテミシアが驚いて叫び声をあげ、次の瞬間には、サゲンは腰を強く押し付けてアルテミシアのいちばん奥まで入っていた。
「ああっ!」
 アルテミシアの苦痛とも快楽とも取れる高い声が耳に心地良く響く。彼女の身体が素晴らしいのは外見だけではなかった。内部は想像していたよりもずっといい。感度の増した身体の一部が彼女の身体にぴったり包まれ、背中が震えるほどの快楽が全身に広がっていく。
 アルテミシアはとてつもなく硬くて大きなものが根元まで中に突き立てられるのを感じ、内部を押し広げられる痛みに顔を歪め、唇を噛んで耐えた。
「だめだ、アルテミシア」
 サゲンの親指がアルテミシアの下唇を下に引っぱって外し、ふっくらしたその輪郭に羽のように優しく触れた。
「抑えるな。声が聞きたい」
「やっ、あ…」
 アルテミシアの奥を探るようにサゲンが動く。感じるのは痛みだけではない。サゲンの動作が奥から快感を探り当て、引き出していく。その度に、どうしても声が上がってしまう。苦痛からではなく、歓喜のためだ。アルテミシアは恥ずかしくてぎゅっと目を瞑ったが、その隙にサゲンが脛を目の高さまで持ち上げてべろりと舐めたので、結局驚いて目を開けることになってしまった。
 自分に覆いかぶさる男は満足そうに笑っている。が、相変わらずどこか苦しそうでもあった。
「アルテミシア・ジュディット…」
 サゲンが耳元で名前を呼ぶと、アルテミシアは耳から痺れが広がるのを感じた。次第に内部を打ち付ける動きが大きくなり、その衝撃に耐えるように堅く広い肩にしがみついた。サゲンの身体も熱を増しているのが分かる。とうとう快感が痛みを凌駕し、身体がサゲンの一部を享受し始めた。また意識がぼんやりとしてくる。
「あっ、あ、バルカ将軍、もっと、ゆっくり…」
「サゲンだ、アルテミシア。名前を呼べ」
「サゲン」
「もう一度」
「サゲン…――ああっ!」
 サゲンは大きく奥を突いた。ぞくぞくと背中から何か強力な感覚がせり上がってくる。アルテミシアの澄んだ声が情事のために掠れ、自分の名を呼ぶだけで、どうしようもなく興奮した。彼女の必死の懇願も聞き届けられない。どうかしている。こんなことは初めてだ。
 ハシバミ色の虹彩に淡いグリーンや金色が散り、縋るような視線で見つめてくる。この目には魔力が備わっている。彼女のことしか考えられなくなる魔力が。
 サゲンはしなやかなアルテミシアの身体を腕の中に収め、熱く滾った部分を奥の壁に強く何度も打ち付け、喘ぎを漏らす花びらのような唇に深く口付けて悲鳴を飲み込んだ。アルテミシアが腰をしならせ、くぐもった声で一際高く叫んだ瞬間、彼女の中に埋めたものが急速に締め付けられ、激しい快感の波に意識の全てを支配された。
「ああ、アルテミシア」
 サゲンは唸るように名前を呼び、大きく腰を何度か打ち付けると、熱くうねり痙攣するアルテミシアの中に欲望を解放し、今まで味わったことがないほどの快感の中、サゲンも果てた。身体が熱い。これほどまでに行為の終わった身体を離したくないと思うのは初めてだった。
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