高嶺のスミレはオケアノスのたなごころ

若島まつ

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24 トーレの休日 - Vacanze Thorene -

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 トーレ港へ着いた時には、既に日が暮れていた。
 最後にこの港の桟橋を踏んだのは、十四の時だ。あれから八年も経つというのに、港の様子はイオネの記憶のままだった。
 船から降り立つと、潮風に晒された木材の香りがした。故郷の匂いを身体が覚えている。
 不思議なのは、自分が感動はおろか動揺もしないことだ。
 父を亡くし、弟と離れてしまった悲しみを乗り越える間もなく、相続争いから早々に離脱する形で逃げるようにトーレを離れたのだから、舞い戻って来た瞬間に多少なりとも心が動きそうなものだが、今は自分でも驚くほど落ち着いている。
(変なの…)
 もっと奇妙なことは、隣にアルヴィーゼ・コルネールがいるということだ。
 ちらりと隣を見ると、アルヴィーゼが目を細めた。どんな気持ちでここに立っていたらよいか定まらず困惑するイオネの様子を面白がっているのだ。

 貿易船が多く集まる港の周りには、船乗り向けの宿屋や料理屋、酒場が多く建ち並び、同じ界隈に安い店から高級志向の店までが雑多に存在している。
 アルヴィーゼが手配した宿は、港から程近い大運河に面した場所にあった。百年ほど前まで貿易で財を成した豪商の邸宅だった赤い煉瓦造りの建物だ。これを、アルヴィーゼは五日間借り切って拠点にするつもりらしい。
 この宿の主人は、イオネの顔見知りだった。幼い頃から父に連れられて毎日のように港と港のそばにあるクレテ家の商館を訪れていたから、港周辺や中心地ではむしろ、イオネの顔を知らない者の方が少ないかもしれない。小さなイオネにとっては、外国からやってくる船乗りや商人たちは遊び相手であり、外国語の師でもあった。
 トーレの領民や貿易商人たちは、名君イシドール・クレテ公の利発で美しい領主令嬢に、一種の憧れにも似た親愛の情を持っている。或いは、女神への崇拝のようなものとも言える。
 宿の主人は上客の同伴者として現れたイオネがかつての領主令嬢だと気づいた瞬間に相好を崩し、手を取らんばかりの勢いで二人を歓迎した。
 イオネはアルヴィーゼとどういう関係に見られているのかと不安になったが、一方で嬉しくも思った。自分を覚えていてくれているということは、彼らの中に父イシドールの記憶が残っている証だ。

 イオネに用意された客間は、二階の南側にあった。大きな四角い窓の外には運河が広がり、その反対側に花模様の刺繍が美しいカーテン付きの寝台が鎮座している。続き部屋には、舶来品の陶でできた大きな浴槽と巧緻な金細工の縁取りが施された、いかにも貴婦人好みの大きな姿見があるから、かつては女主人の寝室だったのだろう。
 ソニアの手伝いで旅装を解いた時、激しい空腹が襲ってきた。いつもより多めの朝食を摂ったものの、船の上で焼き栗を食べてからは食事の暇がなかったから、当然と言えば当然だ。
 アルヴィーゼがいつものようにイオネの部屋の扉を叩いたのは、ちょうどそういう折だった。
「着替えは済んだな」
 と言いながら、返答を聞く前に部屋に入ってきている。麻のシャツに簡素な上衣を羽織った軽装なのに、持って生まれた気品と容姿が損なわれることはない。
「食事に行くぞ」
 いつもならこの身勝手な振る舞いに怒っているところだが、空腹が怒りを忘れさせた。どこかでこの男の傍若無人に慣れ、それを日常のこととして受け入れ始めている自分がいる。
 トーレでの初めての晩餐の場としてアルヴィーゼが選んだのは、港の目の前に店が建ち並ぶ界隈だった。富裕層よりも船乗りや港の労働者が多い一画だ。
 一際明るく篝火が焚かれた大衆酒場は、船乗りや港で働く男女で賑わい、中央の長く大きなテーブルに所狭しと酒や料理が置かれて、それらを上機嫌な客たちが大家族のように囲んでいた。
「驚いた。あなたもこういう店に来るのね」
 イオネは入り口に近い小さなテーブル席に腰掛けて、慣れた様子で向かいに座るアルヴィーゼに言った。
「船乗りで賑わう店は高確率で料理が旨い」
「それは誰の統計?」
「俺だ」
 イオネはニヤリと唇を吊り上げた。
 アルヴィーゼの言葉は正しかった。漁港も近いから、鮭のパイや帆立のワイン蒸しが驚くほどの安価な割に手が止まらなくなるほど美味しい。
 イオネがふと視線を上げると、アルヴィーゼがじっとこちらを見ていた。イオネは今まで貝の肉と出汁のスープを味わっていた帆立の殻を皿に置き、口元を指で拭って居住まいを正した。人前で食事に夢中になっていたことが恥ずかしい。
「お、美味しいんだもの」
「何も言っていない」
 アルヴィーゼが可笑しそうに笑い声を上げた。
 なんだか落ち着かない。アルヴィーゼと二人で食事をすることには慣れてきたが、見られていると自覚した途端に逃げ出したくなった。
 一方のアルヴィーゼは、大衆酒場で大きなエビとカラス貝が盛り付けられた豪快な海の料理を大口を開けて食べていても様になる。
 汚さないように捲った袖から筋張った腕が伸び、長い指が器用にエビを解体する様子は、どういうわけかイオネの鳩尾をぞわぞわとくすぐった。
 アルヴィーゼはイオネの視線に気付くと、エビの頭と胴をむしって切り離し、尻尾を持ってイオネの口元に向かって差し出した。
「ほら」
 白く繊維の柔らかそうなエビの身から湯気が立ち、オリーブ油と香草の香りがふんわりと鼻に届く。
「えっ…」
 エビを欲しがっていると思われたことに気付いて否定しようとしたが、それではアルヴィーゼをじっと見ていた理由が別にあることを知られてしまう。
「早く口を開けろ。汁が垂れる」
 まるで口を開けない方が礼儀に反しているような言い様と食欲をそそる匂いが、イオネに躊躇を捨てさせた。
 イオネは長い髪が付かないように押さえて身を乗り出し、口を開けてアルヴィーゼの手からエビを食べた。思ったよりも弾力が強くて噛み切るのに難儀したが、身の半分がイオネの口の中に納まった。噛むと塩加減が絶妙な汁が溢れ、海の匂いの中に混じった香草の爽やかな香りが鼻に抜けてゆく。
(おいしい…)
 アルヴィーゼが残った身を尻尾の根元から食べたのを見た瞬間、ひどい背徳感に襲われた。とんでもなく行儀の悪いことをしてしまったのではないか。
 しかし、アルヴィーゼの目がこちらを見て満足そうに細まり、オリーブ油とエビの汁で濡れた唇を節の目立つ親指で拭われると、何を考えるのも億劫になった。
 公爵たる男が素手でエビの丸焼きを解体しようが、餌付けされる猫のようにその手からエビを食べようが、ここは酔っ払って上機嫌な船乗りたちの笑い声や歌声が響く大衆酒場だ。誰も食事の作法など気にしないし、ふたりの関係について関心を示す者もない。みな仲間との会話に夢中でこちらに特別注目することもない。
 それなら、この開放的な雰囲気と料理を楽しむ方が合理的ではないか。
 イオネは貝の肉がついたままの帆立をズイ、とアルヴィーゼの目の前に差し出して、細い顎を上げた。
「わたしだけがあなたの手から食事をするなんて不公平だわ」
 アルヴィーゼは不意打ちを喰らったように目を見開いたあと、挑発するような鈍い光を踊らせて、イオネの手首を掴み、貝の肉を噛み切って貝殻の中に残ったスープを啜った。
 不思議だ。ひどく背徳的な気分なのに、同じくらいの愉悦が胸にじわじわと湧く。
「これで満足か?教授」
「いいえ」
 イオネは貝を皿に置いた。離されたばかりの手首が熱い。
「でも、悪い気分じゃないわね。トーレに来たのも…」
 船乗りたちの喧噪と活気を肌で感じる。代々クレテ家の当主が守ってきた港の生命力だ。
「思ったより悪くなかったのかも」
「ならよかった」
 アルヴィーゼが口元を綻ばせてエールがなみなみと注がれたゴブレットに口をつけた。
「‘よかった’?嫌がらせで連れてきたんだと思ったわ」
「心外だ」
 アルヴィーゼはわざとらしく眉を寄せて見せたが、声は面白がるように弾んでいる。
 突然、イオネの胸の中がもやもやとした。これは、よくない。この男の些細な言動のひとつひとつに心を動かされるべきではないのに、止められない。
「俺との食事中に考え事か?教授」
 アルヴィーゼの手が頬に伸びてくる。イオネはその指が優しく頬に触れるのを許した。目は、合わせられない。
「あなたの考えていることが分からなくて腹が立つのよ」
「訊けば教えてやる」
 つと親指が肌を撫でる。黒子のある場所だ。
「訊かない」
「他人に与えられる答えに意味がないからか」
 ドキリとした。
 この男の考えていることは何一つ解らないというのに、こちらの考えは全て見透かされている。
 イオネはエールを飲み干して酒場の女将におかわりを頼んだ後、「そうよ」と忌々しげに吐き捨てた。
「わたしは、自分が見聞きして分析し、検証した結果を自分の答えとして得るの」
「頑固な女だな」
「頑固で悪かったわね」
「悪くない。だからそそられるんだ」
 ぐ、とイオネは反論を呑み込んだ。思っていた返答と違っていたからだ。これ以上どう返してよいか分からず、じわじわと顔が熱くなるのを誤魔化すために二杯目のエールを一気に喉へ流し込んだ。
 この時、中央の大きなテーブルを囲んでいた船乗りたちが大声で歌い始めた。マルス語だが訛りが強く、どこかの地域の言葉が混じっている。
「船乗りが星空を讃える歌よ。話には聞いていたけど、実際に聴けるなんてすごいわ。来てよかった」
 と、イオネは興奮気味にアルヴィーゼに教えてやった。ついさっきまでの気まずさは既に頭にない。
「船によって独特な節回しがあったり、歌う人の出身によって言葉が違ったりするけど、どれもアストラマリスが元になっているの。国も育ちも全然違う人たちがずっと昔から共通の歌を歌い継いでいるのよ。それってとても神秘的だと思わない?まるで、オケアノス溟海の神々が導いているみたい」
 酒が回って饒舌になっている。イオネは瞳をらんと輝かせて、大きなジャグからガブガブ酒を飲みながら肩を組んで歌う船乗りたちに釘付けになった。彼らの訛りから彼らの出身地を分析し、その歌詞と抑揚を記憶して、頭の中の蒐集物に加えようとしているのだ。

 アルヴィーゼは既に食事を終えたが、イオネの気が済むまで酒を飲みながら待っていた。
 普段なら人を待つようなことはしない。自分との会話から関心を別のことに移してしまうような人間は今までいなかったし、いたとしてもこちらも相手への関心を失っていただろう。
 が、イオネは違う。
 彼女が瞬きを少なくして大きく開いたスミレ色の瞳から知識を頭の中の知恵の泉に吸い上げていくさまは、いつまでも眺めていられると思った。酒の肴にされているとも知らずに、ふっくらした唇を僅かに綻ばせ、白い頬に酒のせいか興奮のせいか、血色を昇らせている。
 アルヴィーゼの愉しみは、この姿を愛でることだけではない。
 あの頭の中に船乗りの歌が満ちた後、そいつらを全部追い払って自分でいっぱいにしてやるにはどうしてやろうかと考えを巡らせている。
 強引に奪うだけでは到底足りない。もっと別の、イオネから求めさせるような戦術を展開しなければ、あの偏屈な頭から学問を追い出すことはできないだろう。
(複雑な女だ)
 アルヴィーゼ・コルネールを求めるものは掃いて捨てるほどいる。誰に求められようが嬉しいと感じたこともなく、飽いてさえいたというのに、この世で最も自分に関心のない女の興味を引こうと躍起になっているとは、何とも滑稽なことだ。
 船乗りの歌を聞き終えて店を出た後も、イオネは上機嫌だった。篝火が海に揺れる港を歩きながら、柔らかく心地よい低めの声で船乗りの歌を口遊んでいる。料理と一緒に酒も進んでいたから、まだ酔っているのだろう。
「‘雷神よ連れ去り給うな、我らが星の海アストラマリスの女神’の歌詞が気に入ったわ。星の海の女神って、北極星の暗喩なのよ。人間と神が北極星を取り合うみたいで、甘美で叙情的な表現に思えるわ」
「確かにな。だが、お前にそんな情緒があったとは驚いた」
 アルヴィーゼは唇を吊り上げた。
「あるわよ!失礼ね」
 イオネが肩を怒らせて隣を歩くアルヴィーゼの方を向いた瞬間、爪先を石畳の小さな隆起に取られて蹴躓いた。アルヴィーゼが咄嗟にイオネの腰を支えてやると、腕の中でイオネが先程の軽快さを忘れたように身を固くした。
 アルヴィーゼがそのまま手を握り、指を絡めて歩き出しても、イオネは抗議の声を上げもせず、言葉なく隣を歩いている。いつものように突っかかってくるかと思ったが、少々拍子抜けだ。だが、従順にされるがままになっているイオネは、いつもとは違う意味で征服欲を煽る。
 屋敷の門をくぐり、イオネの寝室の扉の前で、アルヴィーゼは手を放した。どうやら諸事心得ているドミニクが人払いをしたらしく、出迎えもなければ、甲斐甲斐しく世話を焼きに来る侍女もいない。
「公爵」
 不意に呼ばれて、アルヴィーゼは目が合わないイオネの顔を屈んで覗き込んだ。暗がりではよく見えなかったが、屋敷の明るいランプの下ではその顔色がよく分かる。頬が赤い。
「今夜は…いい夜だったわ。食事もお酒も美味しかった。何より、故郷をもう一度好きになれたから。あなたの強引さにはいつも腹が立つけど、今日はそれ以上に…その…」
 イオネがちらりと視線を上げた。目元が長い睫毛で翳り、目が潤んでいる。
「楽しかったの。自分でも驚いてる」
 生真面目な口調で言いながら、イオネはひどく恥ずかしそうに笑って見せた。
(ああ――)
 これは不可抗力だ。
 アルヴィーゼはイオネの腕を掴んで寝室へ押し込み、自分も押し入るようにして扉を閉めて、驚いて顔を上げたイオネの唇を奪った。
 抵抗される前にイオネの手首を壁に押し付けて退路を断ち、抗議の声を上げようと開いた唇の隙間から舌を挿し入れると、白い喉の奥から小さな呻きが聞こえた。
 酒に酔っているせいか、口の中が熱い。アルヴィーゼは舌を絡めながらイオネの手首を解放して腰を抱き、その腕の中にイオネの身体を収めた。
 イオネの細い指が躊躇するようにもじもじと迷った後、アルヴィーゼの背に回って来た。
 興奮が血流に乗って全身に回る。
 このままこの身体を抱き上げ、寝台へ運んで肌を暴き、全身に快楽を植え付けてめちゃくちゃに犯したい。与えられる快感に溺れ、目の前の男のことしか考えられなくなるようにしてやりたい。
 しかし、それだけではだめだ。
 アルヴィーゼはイオネの舌を根本からゾロリと舐め、上顎のよく反応する場所をなぞりながら、耳朶に指で触れた。
「ん…」
 イオネの唇から甘い声が漏れる。熟れて、枝から落ちる寸前だ。
 触らなくても分かる。今頃身体の中心は熱く濡れて、アルヴィーゼをその中に待ち侘びているに違いない。
 しかし、アルヴィーゼは決定的な快楽を与えることはしなかった。
 赤く腫れた唇を解放した後、耳に舌を這わせ、首筋へ唇で辿り、啄むような口付けを繰り返した。イオネの高まった体温が、ドレス越しに伝わってくる。
 この肉体が欲しくて堪らず、息が上がった。が、今夜、力尽くで摘み取るには惜しい。
 アルヴィーゼはイオネのドレスの襟を引いて白い胸元に唇をつけ、イオネが痛みを感じるほどに強く吸い付いた。
「あっ、何するの…」
 乱した襟から、溢れるような乳房の先端が見え隠れしている。アルヴィーゼはその色付いた円をなぞるように舌を這わせ、腰から鼠径部へと手のひらを滑らせて、ドレス越しに下腹部へ触れた。イオネの身体が震え、吐息が熱くなる。
「いつもの威勢がないな、教授。酔っているのか」
 アルヴィーゼが顔を上げると、イオネは悔しそうに唇を噛んだ。快感を得ていたことを知られたくないのだろう。興奮で腰がぞくりと震えた。
 アルヴィーゼはイオネの顎をつまんで唇を開かせ、もう一度唇を奪った。イオネの舌がアルヴィーゼの舌に合わせて触れ、もどかしそうに喉の奥で喘いだ時、唇を解放した。とろりと溶けた目が揺れ、手首に吸い付くアルヴィーゼの行為を咎めることもなく受け入れている。
「じゃあな。おやすみ、教授」
 去り際に見せたイオネの表情は、複雑そのものだ。安堵したようにも、期待が外れたようにも見えた。
 アルヴィーゼは唇を歪に吊り上げたまま、向かいの寝室の扉を開いた。既にドミニクが続き部屋の浴室を準備していた。
 せいぜい淫靡な熱を燻らせながら欲望を持て余すといい。そして手首と胸元の痕を見るたびに、それを付けた男を思い出せばいいのだ。
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