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31 解放と火種 - le petit feu -
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馬車の扉が閉まった瞬間、イオネの身体は座席の背もたれに押し付けられた。同時に、猛獣が襲いかかってくるような性急さで唇を塞がれ、息もできないほどに口の中を滑らかな舌で蹂躙されて、アルヴィーゼの身体を引き離そうとした手はその大きな手に拘束された。
「あ…!」
ドレスの上から膝を掴まれ、広げられた両脚の間に、アルヴィーゼの身体が入ってくる。
身をよじった瞬間、下着越しにアルヴィーゼの硬くなった一部が触れて、イオネは細波のように襲ってくる小さな快楽に声を上げた。
「イオネ」
唇の触れ合う距離で、アルヴィーゼが笑った。
「口付けが気持ちいいのか?濡れているぞ」
「う、嘘…」
暗い馬車の中で、アルヴィーゼの目が弧を描いた。揶揄うような声色なのに、視線は昏く、熱い。
「嘘じゃない。ほら」
アルヴィーゼの手がドレスの裾の下を這い、中心に触れた。微かな湿った音が、狭い馬車の中でやけに大きく聞こえた。
「あ」
アルヴィーゼがイオネの唇を啄んで舌を吸い、熱い湿原と化したイオネの中心へ指を進めて、緩慢に抜き挿しを繰り返している。
頭がぼうっとしてきた。酔いが全身まで回って、与えられる刺激にいつもより素直に反応している。
連日焦らされていたせいで早くも身体が溶けるほどに熱くなり、奥の深い部分にもっと強烈な刺激が欲しくなった。
(だめ…)
思考も身体も儘ならない。内部を探る指を二本に増やされ、奥の感じやすい場所を強く突かれたとき、喉から高い悲鳴が漏れた。
この瞬間、指の動きがぴたりと止み、唇を食むアルヴィーゼが吐息で笑った。
「外に聞こえる」
アルヴィーゼの舌がイオネの顎の輪郭に沿って這い、低く甘い声が耳を舐めた。
身体の中心が食らいつくようにアルヴィーゼの指を締め付けたのが、自分でも分かる。イオネは声を我慢するうちに、鬱屈した欲望が理性と羞恥を凌駕していくのを、意識の奥底で感じた。
「合図は、覚えているな」
息が上がる。アルヴィーゼの糸杉を思わせる匂いが胸を苦しくさせ、衣越しに伝わる微かな体温がイオネの衝動を膨れ上がらせた。
意識が浮ついて、何も考えられない。ただ、目の前の熱源を強烈に感じるだけだ。
アルヴィーゼの胸に今まで感じたことのない感情が湧いたのは、イオネがくたっと頭を肩に預けて来たときだ。
絹糸よりも柔らかい髪が首をくすぐり、甘いスミレの花のような香りが夜気に満ちる。
平素は冬の朝の空気のように凜とした声を発するこの女が、か細く、懇願するような弱々しい声音で、しかしはっきりと口にした。
「――アルヴィーゼ…」
愉悦、昂り、甘やかな性衝動、哀憐にも似た形容できない情念に、身体の内側が痛くなった。やっと自ら求めさせることに成功したのに、ユルクスへ戻ればイオネは自分の元から離れていく。
全く儘ならない。が、今はそれを黙認するしかない。そして、忌々しい害悪を取り除いた後は、どんな手を使ってでももう一度この女を取り戻す。
こちらまで酔いそうなほど熱を帯びたイオネの甘い声に耳を潤しながら唇を貪り、燃えるように熟れた身体の奥に触れていると、馬車が停まった。
アルヴィーゼは赤く血色を増したイオネの唇を解放し、力を失った身体を腕に包んで、耳元で囁いた。
「肩に掴まって顔を隠していろ。何をしていたかすぐにバレるぞ」
それに、こんなふうに蕩けた顔を他の人間に見られるなど、我慢ならない。
イオネは無言でいた。しかし拒む様子もなく、アルヴィーゼの肩に顔を押し付けて、首の後ろに腕を巻き付けた。
イオネを横向きに抱えて馬車を降りたアルヴィーゼは、何か言いたげなドミニクを視線で黙らせ、さっさと宿の門をくぐった。
「いいと言うまで誰も俺の寝室に近付けるな」
低い声で命じると、ドミニクは無言で頭を低くした。
寝室までの距離がこれほど長いと感じたことはない。寝室の扉を開けて薄暗い部屋の中を進む間も、寝台までの距離が長すぎるように感じた。
イオネの身体を寝台に降ろし、なだれ込むようにその肢体に覆い被さった。
サイドテーブルに置かれたランプの火が揺れ、イオネの白い肌の上で影が躍った。こちらを見上げてくるスミレ色の瞳が、熱っぽく、甘い色に溶けている。
燃えるように身体が熱くなった。無様にも程がある。女ひとりその気にさせるのにこれほど躍起になったことなど、今までで一度もない。求められて自制が効かなくなるほどの歓喜を覚えたのも、今この時が初めてだ。
アルヴィーゼはシャツの襟の間に指を差し込んでタイを外して放り投げ、イオネの唇を奪った。
イオネがいつもより素直に応じ、舌を絡めてくる。焦らした効果があったのか、単に酔っているせいかもしれない。が、どちらでもいい。甘い息遣いが、血を熱く沸き立たせた。
アルヴィーゼは背中に手を回していくつも並んだドレスの小さな留め具を外し、編み上げられた下着の紐を解き、イオネの頸に吸い付いた。イオネが頭上で熱い息を吐き、くすぐったいのか小さな呻きを発して、震える手でアルヴィーゼの肩に弱々しくしがみ付いてくる。
背中からドレスの襟をなぞるように細い肩に触れ、ドレスを引き下ろすと、細い腰には不釣り合いなほど豊かな乳房が露わになった。
イオネには、それを手で隠すほどの羞恥心がまだ残っている。
「隠すな」
アルヴィーゼはイオネの手を掴んで寝台に押し付け、指を絡めて、既に立ち上がった乳房の中心を食んだ。
「あっ…!」
こうしていると表情をじっくり見ていられないのが残念だ。しかし、舌先で円を描くように先端をつつき優しく吸い付いているうちに、次第に肌の温度が高くなり、ドレスの裾に隠された脚が震え始めた。
アルヴィーゼはイオネの手を離してドレスと下着を脚から引き抜き、床に落とした。
「ま、待って…」
「待たない。お前が欲しがったんだぞ」
いつものように揶揄う余裕もない。アルヴィーゼがイオネの膝を抱えて脚を広げさせると、イオネは羞恥の余り両手で顔を覆い隠した。
「ああ、そうだな」
底意地の悪い声色になっている自覚はある。しかし、嗜虐心を煽るこの女が悪いのだ。
「ここをこんなにしていては、顔を覆いたくもなるだろう」
アルヴィーゼは露わになったイオネの中心を指で撫でた。イオネの口から弱い悲鳴が上がり、腹の奥から溶けたものが臀部を伝って滴り、敷布を濡らした。
「あっ…!あ、あなたの、せいじゃない…!」
すすり泣くような声に、淫蕩な血が全身を奔った。手で覆っていても、どんな目をしているか分かる。
「そうだ、イオネ。俺がお前をこうした」
声色だけは冷静なまま、アルヴィーゼは煩わしいベストとシャツのボタンを乱雑に外して脱ぎ捨て、ズボンのベルトを抜いた。脚の間が痛いほどに硬くなっている。
「この対処をしていいのは俺だけだ」
顔を覆うイオネの指に優しく口付けをすると、イオネが力を抜いた。手の下から涙が溢れそうなほどに潤んだ目が現れ、悔しそうにこちらを見つめ返してくる。快楽に呑まれて自らアルヴィーゼの肉体を求めたというのに、この期に及んで気が強い女だ。
(かわいい)
顔が歪む。永遠に自分だけのものにしたくて堪らない。
(いっそ本当に孕むまで犯してしまおうか)
いや、それではだめだ。もし今それが現実になれば、すんなり嫁に来るどころか、きっと二度と目の前に現れないだろうという予感がある。ズボンの前を寛げて自分の一部をイオネの中心に触れさせたとき、微かに警戒するような目をしたのは、イオネも同じ事を考えているからに違いなかった。
最後の理性が、イオネを僅かばかりに躊躇させている。
「安心しろ。望むならあとで避妊薬をやる」
イオネは安堵が顔に出ていたことに気付かなかった。しかし、その小さな安堵が最後の緊張を解き、身体だけではなく意識まで情欲に支配させた。
膝を高く抱えられ、アルヴィーゼのよく鍛えられた肉体が視界を覆った瞬間、もう何日も待ち侘びていたものが身体の奥まで埋められた。
「ああっ――」
信じられない。
アルヴィーゼの熱が最深部に到達した瞬間、激しい快感に目の前が真っ白になって、全身が震えた。
「…ッ、まだ入ったばかりなのに一人でいってしまうとは、悪い教授だな」
恥ずかしくて堪らない。それなのに、それ以上にアルヴィーゼの苦悶するような表情と掠れた声が、イオネの胸を熱くした。
中で、アルヴィーゼが動いている。
「あっ!待って…まだ――」
内部がひどく敏感になったまま続けられては、意識が持たない。
「聞けないな」
アルヴィーゼはにベなく言ってイオネの唇を塞ぐと、口の中を舌で弄びながら律動した。
イオネはアルヴィーゼの腕を掴んで身を捩ったが、両手で腰を掴まれ、すぐに制圧された。叩きつけるように何度も身体の奥を突かれ、触れ合う場所が全て敏感な器官となって、もう一度小さな絶頂が襲ってくる。
「んぁっ…!もう、だめ」
「だめじゃないだろう」
自分に衝撃を与えるアルヴィーゼの顔が快楽に歪み、エメラルドグリーンの目が熱く燃えるようにイオネを見つめている。
胸が苦しい。鳩尾が捻りあげられたように痛くなって、内側がパタパタと落ち着かなくなった。
身体が自分のものではなくなったように、アルヴィーゼの与えるあらゆる刺激に反応した。両脚を肩に担ぎ上げられて最奥部を抉られると、その甘美な衝撃の強烈さに目の前が真っ白になった。
身体の中で激しく律動するアルヴィーゼが呼吸を乱してイオネの身体を強く抱きしめ、恍惚に呻いて腰を震わせた時、イオネは今までで一番大きな法悦の波を意識の中に迎え入れた。
速く打つ鼓動が熱く硬いアルヴィーゼの肌を通して伝わってくる。
とろとろと迫って来た眠気に任せて目を閉じようとした時、アルヴィーゼがイオネの身体を俯せに転がした。
「まだだ、イオネ」
アルヴィーゼの暗い愉悦に満ちた声が聞こえる。イオネは力の入らない身体を起こそうと手をついたが、背後から手首を掴まれて寝台へ押しつけられ、もう片方の手でいとも簡単に腰を掴まれた。
熱いアルヴィーゼの肉体が背に触れ、首の後ろに柔らかい唇が触れる。そこから甘い痺れがイオネの肌を伝って、腹の奥を熱くした。
「んあっ…ああ!」
アルヴィーゼが後ろから突き入ってくる。身体の奥深くをぐりぐりと突かれ、無防備な背中に何度も口づけをされて、快楽を追いかけることしかできない。
「…っ、俺の形を覚えるまで離さない」
壊れてしまいそうなほどの甘美な衝撃がイオネの意識を再び絶頂へ導いた。
「んうぅっ…!」
イオネは倒れ込んでふかふかの枕に顔を埋め、肩で息をした。こちらがこんなに体力を削っているというのに、背後で好き勝手に自分を犯すアルヴィーゼは愉快そうに吐息で笑っている。
繋がったまま秘所の突起を撫でられた瞬間、頭の中で火花が散った。このままでは本当におかしくなってしまう。
イオネはアルヴィーゼが自分の外へ出て行くと自ら仰向けになり、目元を真っ赤にしながら、アルヴィーゼを見上げた。
「や、やさしくして…」
こんな懇願をしなければならないなんて、屈辱的だ。
しかし、優しく目に弧を描かせたアルヴィーゼの顔を見て、どうでもよくなった。自ら求めてしまった時点で、既にこの屈辱と快楽を受け入れているのだ。
アルヴィーゼの手が身体を包み、背を這い上がって乱れた髪をほどき、ギンバイカの花を抜いて枕元に置いた。
甘い口づけのさなかにアルヴィーゼがもう一度中へ入ってくる。もう何度も受け入れたのに、これを中に感じる度にその圧迫感とそこから生み出される快楽に圧倒される。次第に激しさを増す波に翻弄されるように、イオネはアルヴィーゼの身体にしがみついた。
イオネがようやく眠ることを許されたのは、アルヴィーゼが四度目に果てた後だった。
額に優しい口づけが降ってきたような気がしたが、夢かもしれない。
(傲岸不遜なアルヴィーゼ・コルネールが、こんなに優しい口づけをするはずがないもの…)
イオネはとろとろと深い眠りに落ちる寸前、口づけと同じくらい優しい夜霧のような声を、意識の底で聞いた。
「あ…!」
ドレスの上から膝を掴まれ、広げられた両脚の間に、アルヴィーゼの身体が入ってくる。
身をよじった瞬間、下着越しにアルヴィーゼの硬くなった一部が触れて、イオネは細波のように襲ってくる小さな快楽に声を上げた。
「イオネ」
唇の触れ合う距離で、アルヴィーゼが笑った。
「口付けが気持ちいいのか?濡れているぞ」
「う、嘘…」
暗い馬車の中で、アルヴィーゼの目が弧を描いた。揶揄うような声色なのに、視線は昏く、熱い。
「嘘じゃない。ほら」
アルヴィーゼの手がドレスの裾の下を這い、中心に触れた。微かな湿った音が、狭い馬車の中でやけに大きく聞こえた。
「あ」
アルヴィーゼがイオネの唇を啄んで舌を吸い、熱い湿原と化したイオネの中心へ指を進めて、緩慢に抜き挿しを繰り返している。
頭がぼうっとしてきた。酔いが全身まで回って、与えられる刺激にいつもより素直に反応している。
連日焦らされていたせいで早くも身体が溶けるほどに熱くなり、奥の深い部分にもっと強烈な刺激が欲しくなった。
(だめ…)
思考も身体も儘ならない。内部を探る指を二本に増やされ、奥の感じやすい場所を強く突かれたとき、喉から高い悲鳴が漏れた。
この瞬間、指の動きがぴたりと止み、唇を食むアルヴィーゼが吐息で笑った。
「外に聞こえる」
アルヴィーゼの舌がイオネの顎の輪郭に沿って這い、低く甘い声が耳を舐めた。
身体の中心が食らいつくようにアルヴィーゼの指を締め付けたのが、自分でも分かる。イオネは声を我慢するうちに、鬱屈した欲望が理性と羞恥を凌駕していくのを、意識の奥底で感じた。
「合図は、覚えているな」
息が上がる。アルヴィーゼの糸杉を思わせる匂いが胸を苦しくさせ、衣越しに伝わる微かな体温がイオネの衝動を膨れ上がらせた。
意識が浮ついて、何も考えられない。ただ、目の前の熱源を強烈に感じるだけだ。
アルヴィーゼの胸に今まで感じたことのない感情が湧いたのは、イオネがくたっと頭を肩に預けて来たときだ。
絹糸よりも柔らかい髪が首をくすぐり、甘いスミレの花のような香りが夜気に満ちる。
平素は冬の朝の空気のように凜とした声を発するこの女が、か細く、懇願するような弱々しい声音で、しかしはっきりと口にした。
「――アルヴィーゼ…」
愉悦、昂り、甘やかな性衝動、哀憐にも似た形容できない情念に、身体の内側が痛くなった。やっと自ら求めさせることに成功したのに、ユルクスへ戻ればイオネは自分の元から離れていく。
全く儘ならない。が、今はそれを黙認するしかない。そして、忌々しい害悪を取り除いた後は、どんな手を使ってでももう一度この女を取り戻す。
こちらまで酔いそうなほど熱を帯びたイオネの甘い声に耳を潤しながら唇を貪り、燃えるように熟れた身体の奥に触れていると、馬車が停まった。
アルヴィーゼは赤く血色を増したイオネの唇を解放し、力を失った身体を腕に包んで、耳元で囁いた。
「肩に掴まって顔を隠していろ。何をしていたかすぐにバレるぞ」
それに、こんなふうに蕩けた顔を他の人間に見られるなど、我慢ならない。
イオネは無言でいた。しかし拒む様子もなく、アルヴィーゼの肩に顔を押し付けて、首の後ろに腕を巻き付けた。
イオネを横向きに抱えて馬車を降りたアルヴィーゼは、何か言いたげなドミニクを視線で黙らせ、さっさと宿の門をくぐった。
「いいと言うまで誰も俺の寝室に近付けるな」
低い声で命じると、ドミニクは無言で頭を低くした。
寝室までの距離がこれほど長いと感じたことはない。寝室の扉を開けて薄暗い部屋の中を進む間も、寝台までの距離が長すぎるように感じた。
イオネの身体を寝台に降ろし、なだれ込むようにその肢体に覆い被さった。
サイドテーブルに置かれたランプの火が揺れ、イオネの白い肌の上で影が躍った。こちらを見上げてくるスミレ色の瞳が、熱っぽく、甘い色に溶けている。
燃えるように身体が熱くなった。無様にも程がある。女ひとりその気にさせるのにこれほど躍起になったことなど、今までで一度もない。求められて自制が効かなくなるほどの歓喜を覚えたのも、今この時が初めてだ。
アルヴィーゼはシャツの襟の間に指を差し込んでタイを外して放り投げ、イオネの唇を奪った。
イオネがいつもより素直に応じ、舌を絡めてくる。焦らした効果があったのか、単に酔っているせいかもしれない。が、どちらでもいい。甘い息遣いが、血を熱く沸き立たせた。
アルヴィーゼは背中に手を回していくつも並んだドレスの小さな留め具を外し、編み上げられた下着の紐を解き、イオネの頸に吸い付いた。イオネが頭上で熱い息を吐き、くすぐったいのか小さな呻きを発して、震える手でアルヴィーゼの肩に弱々しくしがみ付いてくる。
背中からドレスの襟をなぞるように細い肩に触れ、ドレスを引き下ろすと、細い腰には不釣り合いなほど豊かな乳房が露わになった。
イオネには、それを手で隠すほどの羞恥心がまだ残っている。
「隠すな」
アルヴィーゼはイオネの手を掴んで寝台に押し付け、指を絡めて、既に立ち上がった乳房の中心を食んだ。
「あっ…!」
こうしていると表情をじっくり見ていられないのが残念だ。しかし、舌先で円を描くように先端をつつき優しく吸い付いているうちに、次第に肌の温度が高くなり、ドレスの裾に隠された脚が震え始めた。
アルヴィーゼはイオネの手を離してドレスと下着を脚から引き抜き、床に落とした。
「ま、待って…」
「待たない。お前が欲しがったんだぞ」
いつものように揶揄う余裕もない。アルヴィーゼがイオネの膝を抱えて脚を広げさせると、イオネは羞恥の余り両手で顔を覆い隠した。
「ああ、そうだな」
底意地の悪い声色になっている自覚はある。しかし、嗜虐心を煽るこの女が悪いのだ。
「ここをこんなにしていては、顔を覆いたくもなるだろう」
アルヴィーゼは露わになったイオネの中心を指で撫でた。イオネの口から弱い悲鳴が上がり、腹の奥から溶けたものが臀部を伝って滴り、敷布を濡らした。
「あっ…!あ、あなたの、せいじゃない…!」
すすり泣くような声に、淫蕩な血が全身を奔った。手で覆っていても、どんな目をしているか分かる。
「そうだ、イオネ。俺がお前をこうした」
声色だけは冷静なまま、アルヴィーゼは煩わしいベストとシャツのボタンを乱雑に外して脱ぎ捨て、ズボンのベルトを抜いた。脚の間が痛いほどに硬くなっている。
「この対処をしていいのは俺だけだ」
顔を覆うイオネの指に優しく口付けをすると、イオネが力を抜いた。手の下から涙が溢れそうなほどに潤んだ目が現れ、悔しそうにこちらを見つめ返してくる。快楽に呑まれて自らアルヴィーゼの肉体を求めたというのに、この期に及んで気が強い女だ。
(かわいい)
顔が歪む。永遠に自分だけのものにしたくて堪らない。
(いっそ本当に孕むまで犯してしまおうか)
いや、それではだめだ。もし今それが現実になれば、すんなり嫁に来るどころか、きっと二度と目の前に現れないだろうという予感がある。ズボンの前を寛げて自分の一部をイオネの中心に触れさせたとき、微かに警戒するような目をしたのは、イオネも同じ事を考えているからに違いなかった。
最後の理性が、イオネを僅かばかりに躊躇させている。
「安心しろ。望むならあとで避妊薬をやる」
イオネは安堵が顔に出ていたことに気付かなかった。しかし、その小さな安堵が最後の緊張を解き、身体だけではなく意識まで情欲に支配させた。
膝を高く抱えられ、アルヴィーゼのよく鍛えられた肉体が視界を覆った瞬間、もう何日も待ち侘びていたものが身体の奥まで埋められた。
「ああっ――」
信じられない。
アルヴィーゼの熱が最深部に到達した瞬間、激しい快感に目の前が真っ白になって、全身が震えた。
「…ッ、まだ入ったばかりなのに一人でいってしまうとは、悪い教授だな」
恥ずかしくて堪らない。それなのに、それ以上にアルヴィーゼの苦悶するような表情と掠れた声が、イオネの胸を熱くした。
中で、アルヴィーゼが動いている。
「あっ!待って…まだ――」
内部がひどく敏感になったまま続けられては、意識が持たない。
「聞けないな」
アルヴィーゼはにベなく言ってイオネの唇を塞ぐと、口の中を舌で弄びながら律動した。
イオネはアルヴィーゼの腕を掴んで身を捩ったが、両手で腰を掴まれ、すぐに制圧された。叩きつけるように何度も身体の奥を突かれ、触れ合う場所が全て敏感な器官となって、もう一度小さな絶頂が襲ってくる。
「んぁっ…!もう、だめ」
「だめじゃないだろう」
自分に衝撃を与えるアルヴィーゼの顔が快楽に歪み、エメラルドグリーンの目が熱く燃えるようにイオネを見つめている。
胸が苦しい。鳩尾が捻りあげられたように痛くなって、内側がパタパタと落ち着かなくなった。
身体が自分のものではなくなったように、アルヴィーゼの与えるあらゆる刺激に反応した。両脚を肩に担ぎ上げられて最奥部を抉られると、その甘美な衝撃の強烈さに目の前が真っ白になった。
身体の中で激しく律動するアルヴィーゼが呼吸を乱してイオネの身体を強く抱きしめ、恍惚に呻いて腰を震わせた時、イオネは今までで一番大きな法悦の波を意識の中に迎え入れた。
速く打つ鼓動が熱く硬いアルヴィーゼの肌を通して伝わってくる。
とろとろと迫って来た眠気に任せて目を閉じようとした時、アルヴィーゼがイオネの身体を俯せに転がした。
「まだだ、イオネ」
アルヴィーゼの暗い愉悦に満ちた声が聞こえる。イオネは力の入らない身体を起こそうと手をついたが、背後から手首を掴まれて寝台へ押しつけられ、もう片方の手でいとも簡単に腰を掴まれた。
熱いアルヴィーゼの肉体が背に触れ、首の後ろに柔らかい唇が触れる。そこから甘い痺れがイオネの肌を伝って、腹の奥を熱くした。
「んあっ…ああ!」
アルヴィーゼが後ろから突き入ってくる。身体の奥深くをぐりぐりと突かれ、無防備な背中に何度も口づけをされて、快楽を追いかけることしかできない。
「…っ、俺の形を覚えるまで離さない」
壊れてしまいそうなほどの甘美な衝撃がイオネの意識を再び絶頂へ導いた。
「んうぅっ…!」
イオネは倒れ込んでふかふかの枕に顔を埋め、肩で息をした。こちらがこんなに体力を削っているというのに、背後で好き勝手に自分を犯すアルヴィーゼは愉快そうに吐息で笑っている。
繋がったまま秘所の突起を撫でられた瞬間、頭の中で火花が散った。このままでは本当におかしくなってしまう。
イオネはアルヴィーゼが自分の外へ出て行くと自ら仰向けになり、目元を真っ赤にしながら、アルヴィーゼを見上げた。
「や、やさしくして…」
こんな懇願をしなければならないなんて、屈辱的だ。
しかし、優しく目に弧を描かせたアルヴィーゼの顔を見て、どうでもよくなった。自ら求めてしまった時点で、既にこの屈辱と快楽を受け入れているのだ。
アルヴィーゼの手が身体を包み、背を這い上がって乱れた髪をほどき、ギンバイカの花を抜いて枕元に置いた。
甘い口づけのさなかにアルヴィーゼがもう一度中へ入ってくる。もう何度も受け入れたのに、これを中に感じる度にその圧迫感とそこから生み出される快楽に圧倒される。次第に激しさを増す波に翻弄されるように、イオネはアルヴィーゼの身体にしがみついた。
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額に優しい口づけが降ってきたような気がしたが、夢かもしれない。
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春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
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しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
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お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
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