神の沈黙、闇の豊穣、偽りの祈り

ルサルカ

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第五話

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 エイレシアは、不思議そうに神父さまをみる。

「主の御心を問うとは、僭越だなおまえ」

 恐ろしげにエイレシアをみる神父さまへ、エイレシアは語った。

「主はいつも口をあけて、待っていらっしゃる。だから我々のできることは、その口に魂をほうりこむことだけなのさ。そうしたらよき魂は天国にゆき、悪しき魂は地獄へゆく。全ては主の御心のままに」

 エイレシアは、狂い咲いた桜のように。

 月明かりのした、赤い唇を歪めて笑ってみせた。

 神父さまは、なにかに取り憑かれたように身体を震わせていらっしゃった。

 突然、決意を宿した瞳を昏く輝かせ、足元に残されたあの方の似姿を踏みつけになさる。

 狂ったような顔をして、何度も何度も。

 踏みつけになされた。

 エイレシアは、ぽかんとした表情で神父さまを見ている。

 神父さまは、凶悪な光を宿す目でエイレシアを見つめなさった。

「これで」

 神父さまは、地の底から湧きてくるような昏く低い声で言いなさる。

「これで我が信仰は、失われた。エイレシア殿、わたしを殺すといい」

 エイレシアは、あっけにとられたように神父さまを口を空けて眺めていた。

 おもむろに皮肉な笑みを浮かべると、神父さまに語りかける。

「一体、何を言ってるんだ。おまえは、聖なる書を読んでいないのか?」

 今度は、神父さまがあっけにとられた顔になられる。

「聖なる書は、偶像を崇めることを戒めている。おまえはまさに、偶像を否定し信仰を証明したんだ。ただなぁ」

 エイレシアは、やれやれと首をふる。

「それは異教徒が作った粗悪な模造品だろ。それを偶像とは呼べんなぁ。それはただのゴミクズだ」

 神父さまは青褪め、口を震わせなさった。

 何かを言おうとされたようだけれど、それは果たされなかった。

 エイレシアは、言葉を続ける。

「おまえは、ゴミクズを踏んだだけだ。そんな行為になんの意味もないぞ。第一わたしがおまえを殺すだって? そんなことをすれば、わたしは殺人の罪を犯すことになるじゃないか」

 神父さまは、目を昏く光らせながら頭を掻きむしる。

「殺人なら、あなたは今さんざんやったではないか!」

 ほう、とエイレシアはため息をつく。

「聖なる書は殺人を犯すなと戒めているが、異教徒と戦うなとは書かれていない。異教徒と戦うことが殺人というなら聖教会騎士団だって、殺人者になる。そんなことは、ありえない」

 神父さまは癇癪をおこしたように、叫びなさる。

「エイレシア殿、では吊るされた信徒たちを殺したのはどうなんだ!」

 エイレシアは、皮肉な笑みを浮かべたまま応える。

「信徒だって? では、彼等は洗礼を受けていたのか?」

 神父さまは、胸を突かれたような顔をして口ごもる。

「彼等は、彼等なりのやり方で」

「それでは、だめだな。バチカンの認めた教会でなければ、カタリ派やプロテスタントどもと同じじゃあないか。むしろ」

 エイレシアは、大きく手を広げる。

「このわたしが、彼等に血の洗礼を与えた。よって彼等の信仰は祝福され、主の身元へ旅立ったのだ。あぁ、聖なるかな、聖なるかな!」

 神父さまは絶望の色を目に浮かべ、唇を震わしながら呟く。

「だがわたしは今、主を呪ったのだ」

 エイレシアは、ふふっと笑う。

「おまえは、聖なる書をちゃんと読め」

 エイレシアは冷たく笑いながら、神父さまを見つめる。

「主は世界の中心の木に吊るされた時に、神を呪っている。などて我を見捨てたもうたとな」
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