神の沈黙、闇の豊穣、偽りの祈り

ルサルカ

文字の大きさ
5 / 11

第五話

しおりを挟む
 エイレシアは、不思議そうに神父さまをみる。

「主の御心を問うとは、僭越だなおまえ」

 恐ろしげにエイレシアをみる神父さまへ、エイレシアは語った。

「主はいつも口をあけて、待っていらっしゃる。だから我々のできることは、その口に魂をほうりこむことだけなのさ。そうしたらよき魂は天国にゆき、悪しき魂は地獄へゆく。全ては主の御心のままに」

 エイレシアは、狂い咲いた桜のように。

 月明かりのした、赤い唇を歪めて笑ってみせた。

 神父さまは、なにかに取り憑かれたように身体を震わせていらっしゃった。

 突然、決意を宿した瞳を昏く輝かせ、足元に残されたあの方の似姿を踏みつけになさる。

 狂ったような顔をして、何度も何度も。

 踏みつけになされた。

 エイレシアは、ぽかんとした表情で神父さまを見ている。

 神父さまは、凶悪な光を宿す目でエイレシアを見つめなさった。

「これで」

 神父さまは、地の底から湧きてくるような昏く低い声で言いなさる。

「これで我が信仰は、失われた。エイレシア殿、わたしを殺すといい」

 エイレシアは、あっけにとられたように神父さまを口を空けて眺めていた。

 おもむろに皮肉な笑みを浮かべると、神父さまに語りかける。

「一体、何を言ってるんだ。おまえは、聖なる書を読んでいないのか?」

 今度は、神父さまがあっけにとられた顔になられる。

「聖なる書は、偶像を崇めることを戒めている。おまえはまさに、偶像を否定し信仰を証明したんだ。ただなぁ」

 エイレシアは、やれやれと首をふる。

「それは異教徒が作った粗悪な模造品だろ。それを偶像とは呼べんなぁ。それはただのゴミクズだ」

 神父さまは青褪め、口を震わせなさった。

 何かを言おうとされたようだけれど、それは果たされなかった。

 エイレシアは、言葉を続ける。

「おまえは、ゴミクズを踏んだだけだ。そんな行為になんの意味もないぞ。第一わたしがおまえを殺すだって? そんなことをすれば、わたしは殺人の罪を犯すことになるじゃないか」

 神父さまは、目を昏く光らせながら頭を掻きむしる。

「殺人なら、あなたは今さんざんやったではないか!」

 ほう、とエイレシアはため息をつく。

「聖なる書は殺人を犯すなと戒めているが、異教徒と戦うなとは書かれていない。異教徒と戦うことが殺人というなら聖教会騎士団だって、殺人者になる。そんなことは、ありえない」

 神父さまは癇癪をおこしたように、叫びなさる。

「エイレシア殿、では吊るされた信徒たちを殺したのはどうなんだ!」

 エイレシアは、皮肉な笑みを浮かべたまま応える。

「信徒だって? では、彼等は洗礼を受けていたのか?」

 神父さまは、胸を突かれたような顔をして口ごもる。

「彼等は、彼等なりのやり方で」

「それでは、だめだな。バチカンの認めた教会でなければ、カタリ派やプロテスタントどもと同じじゃあないか。むしろ」

 エイレシアは、大きく手を広げる。

「このわたしが、彼等に血の洗礼を与えた。よって彼等の信仰は祝福され、主の身元へ旅立ったのだ。あぁ、聖なるかな、聖なるかな!」

 神父さまは絶望の色を目に浮かべ、唇を震わしながら呟く。

「だがわたしは今、主を呪ったのだ」

 エイレシアは、ふふっと笑う。

「おまえは、聖なる書をちゃんと読め」

 エイレシアは冷たく笑いながら、神父さまを見つめる。

「主は世界の中心の木に吊るされた時に、神を呪っている。などて我を見捨てたもうたとな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

発情王女の夫選び

山田ランチ
恋愛
〈あらすじ〉  王家熱を発症した者が女王になれる国、テーレフルミ王国の第一王女サンドラは、よりにもよってたまたま通りすがった騎士団長ジュール・ベルナールの前で王家熱を発症してしまう。王家熱を発症するとより多くの子孫を残そうと発情してしまうという厄介な体質になってしまったサンドラは、抗えない衝動によってジュールを襲い後悔する。その日は丁度、功績を上げた褒美としてジュールが騎士団長になり、侯爵という高位の爵位を賜った日でもあった。  女王になれば複数の愛妾を持つ定めのサンドラは、ジュールに惹かれていく気持ちになんとか蓋をしようとする。そんな中、二人を引き裂くようにサンドラの夫候補としてグランテーレ王国から第三王子のアレシュがやってくる。そしてサンドラはアレシュの前で発情してしまい……。 〈登場人物〉 テーレフルミ王国  サンドラ・フルミ 第一王女 17歳 ジュール・ベルナール ベルナール侯爵、騎士団長、26歳。 シルヴィオ・フルミ 第一王子 22歳 シルビア・フルミ 第二王女 8歳 レア・フルミ 女王、53歳 シュバリエ 女王の愛妾 55歳 シレンヌ・ベル 宰相、ベル伯爵、53歳 アレッサ・シャスール シャスール子爵家の長男、騎士団副隊長、28歳。 シェイラ・シャスール シャスール子爵家の長女で、アレッサの双子の妹。ジュールの元婚約者。 グランテーレ王国 アレシュ 第三王子 18歳  

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

どうぞ、お好きに

蜜柑マル
恋愛
私は今日、この家を出る。記憶を失ったフリをして。 ※ 再掲です。ご都合主義です。許せる方だけお読みください。

公爵令嬢のひとりごと

鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...