神の沈黙、闇の豊穣、偽りの祈り

ルサルカ

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第七話

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 神父さまは海辺に立つ、荒れた小屋にお住まいになられた。

 半ば朽ちてはいたが、かろうじて雨風をしのげ寝床を設えることができる程度の小屋だ。

 おれはそこで、神父さまのお世話をする。

 神父さまは、毎日荒れ狂う海と澱み重く垂れ下がった灰色の空を眺めておられた。

 何かを語ることも何かを求めることもせずあたかも俘囚のような様で、淡々と日々を過ごす。

 その夜は。

 星も月も空に現れず、ただただ濃厚な闇が黒々と空を塗りつぶす。

 そんなような、夜だった。

 おれは夜半過ぎに気配を感じ、神父さまの寝床がある部屋を覗く。

 死体のように横たわりなさる神父さまの隣に、あの怪異がいた。

 あたかも闇の中で漆黒の炎が燃え盛っているような、地獄のただなかから現れた獣が持つ気配を纏うあの異形のおんなが、立っている。

 ミストレス、そう名乗ったおんなだ。

 ミストレスは怪異に相応しい異形の気配で、あたりを暗黒の太陽で照らすように闇を蠢かせていたが。

 それでもミストレスは、とても美しかった。

 明らかに神に背きその理から逸脱した存在なのに、なぜこのおんなはかくも美しくこころをうつ姿をしているのか。

 不思議でたまらなかったが、ミストレスはそんなことは当たり前だというように異形の気配を業火のごとく振りまき立っている。

 はっと、神父さまは気づきなされ身を起こすと後ずさりなさった。

 ミストレスは、その神父さまを追って顔を近づける。

 息が触れるほどの近さで、ミストレスは囁く。

「ご機嫌麗しく、幸いのようね。あなた」

 神父さまは、昏く呻いた。

「何を、言っている? 幸いなど」

 ふふっと、ミストレスは笑う。

「あなたは神の気配を欠片ほどもこの世から感じられず、信仰を失うのではと恐れている。でもね」

 ミストレスは闇に灯る赤い火のような舌をでろりと吐き出し、神父さまの首筋から頬に向かって舐めてゆく。

 神父さまは官能の悦びに耐えるような顔で、眉間を顰めなさる。

 ミストレスはうふふと笑うと、舌なめずりし美酒を味わうように笑みを浮かべた。

「あなたは、かつて無いほど強く神を求めている。まるで飢えたものがひと欠片のパンを求めるように、渇いたものが一滴の水を求めるように」

 ミストレスは歌うように語る。

「強く強く、神を求めている。あなたはようやくもっとも深くもっとも暗い牢獄の底に辿りついて、もっとも高き頂の神をもとめている。だからこれは、恩寵なのよ」

「一体何を」

 ミストレスは、何かを語ろうとした神父さまの唇を奪う。

 まるで渇いた獣が泉から夢中で水を飲むように、ミストレスは神父さまの唇を貪っていた。

 ミストレスの舌が容赦なく神父さまの口の中で暴れまわり、官能の火を掻き立ててゆく。

 ミストレスは唇を離すと上気した顔で、笑みを浮かべた。

 神父さまの頬に、赤い色が灯る。

「あなたはわたしと同じようにもっとも深くもっとも暗い淵から、もっとも高き天上の神をもとめ焦がれているわ。でも、足りないのよ」

 ミストレスの瞳が、暗黒の太陽がごとく黒く輝いた。

「あなたにはまだ理性が、残っている。あなたに残った知性、それはかの明けの明星が原初のおんなに食べさせた実の名残り。それがあっては神の愛に辿り着けない。だから、わたしが」

 ミストレスは身につけていた服を、脱ぎ去る。

 夜空に月が昇るように、白い裸体が闇に晒された。

 流れるように優美な曲線を描くおんなの胸で赤い蕾か固く息づき、神父さまの目を奪う。

 ミストレスは、熱い吐息を神父さまにむかって吹きかける。

「あなたから理性を奪ってあげるの。そうしてはじめてわたしたちは、神の全き愛に包まれ至上の悦びへと至るのよ」
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