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第三話
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わたしは息を呑む。
「どういうことなの」
「来て欲しいんだよ、ねえさんに。
オレは、はめられたんだ。
金がいる」
「何言ってるのよ、テツオ」
「ねえさん、これからいう場所に100万円持ってきてくれ」
テツオは、一方的に場所の説明をしだした。
街はずれのさびれた場所を、テツオは指定する。
わたしの職場から少し離れた場所だった。
テツオは話終えると、一方的に電話を切ってしまう。
「どうしたんだい、ナミエ」
声をかけられ、わたしは顔をあげる。
わたしの父だった。
ナミエというのは、わたしの母の名前だ。
今、わたしは父の妻となっているらしい。
「テツオがトラブルに巻き込まれたようなの。
すぐ来て欲しいって」
「判った」
父は重々しく頷く。
「すぐに行こうじゃないか」
わたしは、父に詳しい事情を説明する気力が無かった。
手近なものを手当たり次第にバッグへ詰め込み、父を伴って外へでる。
わたしは着替えようとして、ふとクローゼットの片隅にあるショットのライダースジャケットに目がいく。
かつてアキオにもらったジャケットは、ずっと袖をとおすこともなく眠っていた。
わたしは、そのジャケットを手にとり羽織る。
既に日が沈みきって、闇に押し包まれた通りに出た。
タクシーをつかまえる。
父と共にタクシーへ乗り込んだわたしは、弟から聞いた場所を行き先として指示した。
車でだいたい、20分程かかる場所だ。
わたしは、バッグの中から封筒を取り出す。
音楽評論家からピアニストに宛てた手紙を読んでみることにした。
『例のCDを送ります。
正直いって、僕にはこの演奏をどう判断していいのか判らない。
いや、演奏自体にいうべきことはあまり無いのかもしれない。
見事なまでに隙の無い、完璧な演奏。
というよりは、徹底的に余剰なものを削ぎ落としてゆき、最後に残ったコアなものだけで構成された音楽。
狂気に犯されたものが、ほんの一瞬手に入れた正気の静寂を刻みつけたような透明感。
僕はかつてヴィニ・ライリーが、シンプルなほうがアナーキーだと言ったのを思い出した。
けれども、この演奏はミニマルミュージックにあるような叙情性すら排除されている。
ステンレスとコンクリートで構成されたオブジェのような音楽。
表面的に見れば、そう結論づけるべきなのだろう。
けれども、僕の中の何かがそう結論づけることを拒んでいる。
ただそれを言語化することができない。
君には前に話したことがあると思うが、僕はアムステルダムを放浪していたころ、色々な麻薬を試してみた。
ダウナー系の麻薬というやつがある。
精神が地下の奥深くへ入り込んでゆき、そこで内なる豊穣さと出会う感覚。
この演奏がドラッグによるトリップと同じ効果を持っているとはいわない。
麻薬と同じ効果を持つ、そんな便利な音楽があれば誰も苦労はしない。
そうでは無い。
けれども、もし僕がこの演奏を、いや、この演奏の背後にあるであろう何かを表現しようとすれば、そう言うしか無い。
僕に言えるのはここまでだ。
あとは、君自身でこのCDを聞いてみて欲しい。
君は僕が最も信頼している演奏者だ。
君になら、この演奏に隠された秘密が判るのではないかと思う。
演奏者としての君になら、僕には判らない色々なものが見えるのでは無いだろうか。
それと参考になるかは判らないが、このCDを僕に送ってくれた僕の友人であり、カゲヤマ・アキオの恋人であった女性の手紙も同封しておく。
読んでみて欲しい。
僕以外の人間の感想も役に立つだろう。
君の感想を待っています』
「どういうことなの」
「来て欲しいんだよ、ねえさんに。
オレは、はめられたんだ。
金がいる」
「何言ってるのよ、テツオ」
「ねえさん、これからいう場所に100万円持ってきてくれ」
テツオは、一方的に場所の説明をしだした。
街はずれのさびれた場所を、テツオは指定する。
わたしの職場から少し離れた場所だった。
テツオは話終えると、一方的に電話を切ってしまう。
「どうしたんだい、ナミエ」
声をかけられ、わたしは顔をあげる。
わたしの父だった。
ナミエというのは、わたしの母の名前だ。
今、わたしは父の妻となっているらしい。
「テツオがトラブルに巻き込まれたようなの。
すぐ来て欲しいって」
「判った」
父は重々しく頷く。
「すぐに行こうじゃないか」
わたしは、父に詳しい事情を説明する気力が無かった。
手近なものを手当たり次第にバッグへ詰め込み、父を伴って外へでる。
わたしは着替えようとして、ふとクローゼットの片隅にあるショットのライダースジャケットに目がいく。
かつてアキオにもらったジャケットは、ずっと袖をとおすこともなく眠っていた。
わたしは、そのジャケットを手にとり羽織る。
既に日が沈みきって、闇に押し包まれた通りに出た。
タクシーをつかまえる。
父と共にタクシーへ乗り込んだわたしは、弟から聞いた場所を行き先として指示した。
車でだいたい、20分程かかる場所だ。
わたしは、バッグの中から封筒を取り出す。
音楽評論家からピアニストに宛てた手紙を読んでみることにした。
『例のCDを送ります。
正直いって、僕にはこの演奏をどう判断していいのか判らない。
いや、演奏自体にいうべきことはあまり無いのかもしれない。
見事なまでに隙の無い、完璧な演奏。
というよりは、徹底的に余剰なものを削ぎ落としてゆき、最後に残ったコアなものだけで構成された音楽。
狂気に犯されたものが、ほんの一瞬手に入れた正気の静寂を刻みつけたような透明感。
僕はかつてヴィニ・ライリーが、シンプルなほうがアナーキーだと言ったのを思い出した。
けれども、この演奏はミニマルミュージックにあるような叙情性すら排除されている。
ステンレスとコンクリートで構成されたオブジェのような音楽。
表面的に見れば、そう結論づけるべきなのだろう。
けれども、僕の中の何かがそう結論づけることを拒んでいる。
ただそれを言語化することができない。
君には前に話したことがあると思うが、僕はアムステルダムを放浪していたころ、色々な麻薬を試してみた。
ダウナー系の麻薬というやつがある。
精神が地下の奥深くへ入り込んでゆき、そこで内なる豊穣さと出会う感覚。
この演奏がドラッグによるトリップと同じ効果を持っているとはいわない。
麻薬と同じ効果を持つ、そんな便利な音楽があれば誰も苦労はしない。
そうでは無い。
けれども、もし僕がこの演奏を、いや、この演奏の背後にあるであろう何かを表現しようとすれば、そう言うしか無い。
僕に言えるのはここまでだ。
あとは、君自身でこのCDを聞いてみて欲しい。
君は僕が最も信頼している演奏者だ。
君になら、この演奏に隠された秘密が判るのではないかと思う。
演奏者としての君になら、僕には判らない色々なものが見えるのでは無いだろうか。
それと参考になるかは判らないが、このCDを僕に送ってくれた僕の友人であり、カゲヤマ・アキオの恋人であった女性の手紙も同封しておく。
読んでみて欲しい。
僕以外の人間の感想も役に立つだろう。
君の感想を待っています』
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