異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く?

シ・ガレット

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タクマの決心

謁見再開前の打ち合わせ 1

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 アークスが家令から臣下へと変わった後は家族全員でゆったりと過ごすことになった。使用人たちや戻って来た家族にアークスの立場が変わったことを報告したが、一切の反対は無かった。
 子供たちはその違いを理解できず首を傾げていたが、アークスが丁寧に分かりやすく教えている。カイルたちはというと、彼らの中ではすでにアークスはタクマの家臣だと思っていたらしい。確かに口では家令だと名乗ってはいるが、行動は主を立てる家臣でしかなかったからだ。肯定だけではなく否定もし、なおかつ自分の考えをしっかり口にする。そんな姿はまさに臣下そのものだ。

「これでタクマの負担も減るし、アークスも本格的にタクマの仕事面……いや、やらかしが表に出そうなのを防ぐって仕事に注力できるって訳だ。これまでは家の管理も含めて色々大変そうだったし、自然な流れだよな」

 そう笑い飛ばすカイル達に、タクマは苦笑いしか出ない。これまでもタクマが動いたことを全て処理してきたのはアークスなのだ。彼が居なければ自分のやらかしで雁字搦めになっていたのは不動の事実である。
 これまでのやらかしをネタに盛り上がる家族たちにタクマは困った表情を浮かべながら、自分はいかに周囲に支えられて生きているのかと改めて実感していた。
 和気藹々と夜を過ごして翌日。庭にはタクマとアークスが移動の準備を済ませて立っていた。今日は謁見前に会っておきたいというプロックに会って意思疎通を図る為に王都へと行くのだ。

「さ、謁見前の打ち合わせだよな。プロックの苦い表情が浮かぶ」
「そうなるように動いているのはタクマ様ですが?まああの方はそれを望んでいらっしゃったので自業自得とも言えますが。あまり気にする必要はないかと」

 プロックはタクマの生きざまを近くで見たいと身内になったのだ。タクマの行動にとやかくは言わないだろうというのがアークスの言い分だ。

「それはそうだろうけど……考えるだけ無駄か。これからはアークスもいるし、これまでよりも相談してから動くようにするさ」

 タクマも報告、相談、連絡をしようと改めて決める。これまでも気を付けてはいたのだが、全く足りていないのは自覚しているのだ。

「そう思って頂けたのなら幸いです。それよりも今日はヴァイス達を連れていかないのですか?」

 タクマから殊勝な言葉を聞けて安心した半面、ヴァイス達が付いて行かない事が気になるようだ。居なくてもタクマに危険が無いのは分かっているが、相棒として離れたがらない守護獣達を知っているだけに意外だった。

「ああ、ヴァイス達はしばらく子供達といるってさ。今が一番成長するって分かっているんだと思う。ヴァイス達は家族も大好きだからな。そっちの方が大事だと判断したんだろう」

 ヴァイス達はタクマだけではなく、家族もまた大好きだ。自分たちを大事にしてくれるし、何よりもタクマがそれを望んでいる。だからこそヴァイス達は自分の考えで子供たちの傍にいると決めた。タクマはその考えを尊重したのだ。

「なるほど。確かにあの子たちには重要な時期ですね。ではそろそろ行きましょう。あの方たちも待っているでしょうから」
「そうだな。じゃあ、行こう」

 タクマとアークスはそのまま王都の宿へと飛んだ。
 宿に着くとすでにプロックとエンガード夫妻は応接室で待っていた。タクマ達が現れても驚くことなく迎える。

「おお、商会長。待って居ったぞ。それにアークス、今日は同行したのか」
「ええ、プロックさま。本日から正式にタクマ様の臣下となりました。改めてよろしくお願いいたします」

 アークスが同行している事に意外そうな顔をした面々だったが、彼の言葉を聞いてなるほどと頷く。アークスが家令ではなく臣下を名乗った事にも驚く事はなかった。
 皆が全く違和感がない事にタクマは首を傾げていたが、考えてみるとやっている事は今までと変わらない。そう思い至ると皆が違和感なく受け入れるのも理解できるようになった。

「では早速打ち合わせを行うかの。王国側から提示されたものはこれじゃ」

 プロックから手渡された書類を受け取ると、タクマはざっと目を通す。

「……嘘だろ?」

 あまりに大きな金額で思わずつぶやくタクマだったが、プロックたちは妥当な金額だと返す。そしてこれでも安いくらいだろうとハッキリと答える。そもそも王国が行っていれば、同じ位かかるのだ。さらに言えば外部に依頼をするとなれば更に上積みしなければならないと考えれば、提示された金額はむしろ安く済んだと言っても過言ではないという。

「この金額は商会長があまり金に興味を示さないからこそじゃからな?王国からすれば払わん訳にはいかん。だがあまりに高額だと受け取りを拒否される。苦渋の選択でこの額になったという訳じゃ」
「そうですな。これはタクマさんが最低限受け取る必要がある金額です。流石にこれを拒否はできません」

 プロックとエンガードが言うなら必要なのだろう。タクマは二人の言葉を聞きながら横に座るアークスを見るが、彼も同意見のようで頷くのみだ。

「……分かった。報酬はそれでいい。お金はあって損はないし。家族にも必要だし、商会にも回せるしな」
「うむ。納得してくれて良かった。次はこちらの書類じゃ」

 渡された書類はキーラたち魔族についてだった。キーラの監視と魔族の保護で報酬が出るとの事だった。これを見た瞬間、タクマはこの報酬は絶対に受け取らないと断言する。
 確かにキーラは監視対象として依頼され、それに伴って仲間の魔族を受け入れた。だがタクマは自分の判断で彼女たち全員を家族として受け入れたのだ。王国から養われる道理はないと却下した。

「家族は自分で養う。王国に援助してもらうつもりはない」

 一切の反論を認めないと言い切るタクマに、全員が頷く。この書類を見たら絶対にそう言うだろうと分かっていたからだ。

「そう言うと思ったのう。じゃが、断るのは商会長が直接王へ言ってくれるかの。我らはこの案が来た時に断る権限はないからな」
「分かった。はっきりと断るよ」

 新しい家族に関しては断る方向性で決まった。タクマが書類をアークスへと渡すとプロックは分厚くまとめられた書類の束をテーブルに出す。

「ここまでは商会長本人への報酬じゃったが、ここからは違う。儂の中でも最大級に面倒な案件じゃ。儂らには判断が難しい」

 ようやくこの打ち合わせが必要だった本題へと入っていく。
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