異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く？

タクマの決心

歓喜の知らせと頼み事

「タクマさん、夕夏さん。改めてご結婚おめでとうございます。いつも幸せそうな姿を見れて嬉しく思いますよ。貴方が望んでいた幸せがあの地には満ちているのが私にも伝わってきます」

　ヴェルドは慈愛に満ちた微笑みで二人が結ばれたことを祝ってくれた。タクマがヴェルドミールに来た時の荒み様を知っている彼女はとても嬉しそうだ。

「そういって頂けると俺も嬉しいです。家族を作り、愛する伴侶とも結ばれることが出来ました。このヴェルドミールじゃなければ叶うこともなかったことです。色々とありましたがここに来たのは俺にとっては最良だったとおもってます」

　それはタクマの心から出た言葉だった。愛した夕夏と結ばれ家族全員で穏やかに暮らしたい。それがこのヴェルドミールで叶っているのだ。その神であるヴェルドにも感謝しかなかった。夕夏の方に視線を向けると、彼女もまた頭を下げて感謝を示していた。

「多少の面倒事は有りますが、それもまた人生。俺にはヴェルド様に頂いた力もありますし家族もいます。どうにでも乗り越えていけると確信しています。それに神様とも一緒に暮らしていますから」
「私の分体も含めて4柱もいますからね……随分と地上を楽しんでいるようではありますが……」

　苦笑いを浮かべながら分体と三柱の自由さがうらやましいと笑う。

「まあ、分体とあの方達に関してはタクマさんにお任せします。私が手を出せる範疇ではなくなっていますし。それよりもお話したい事があったので、あなた方が教会を訪れてくれて丁度良かったです」

　どうやらタクマ達が来たのはタイミングが良かったようだ。ヴェルドは静かに用件を語り始める。

「タクマさん。貴方はこれから旅をするのですよね？」
「ええ、夕夏とも話していたのですが、俺たちはまだこのヴェルドミールを限られた場所しか旅していませんから。もう少し世界を見てみたいなと考えています」

　タクマの答えにヴェルドは顎に手を置き少し考えるような仕草を見せる。タクマはその様子に首を傾げる。

「旅をすることに何か問題があったりするのでしょうか？」

　怪訝そうに聞き返すタクマに、ヴェルドは慌てて否定する。

「いえ、旅自体は問題ありませんよ。ただ……夕夏さんは大丈夫ですか？」

「「はい？」」

　二人はヴェルドの言葉の意味が分からず顔を見合わせ困惑の表情を浮かぶ。

「えーとそれはどういった意味で？夕夏自身の力は回復していますし、キーラ達と出会ったことでむしろ強化されているので大丈夫だと思うのですが……」
「あ、言葉足らずだったかもしれませんね。夕夏さんが力不足で旅ができないとかそう言った事ではないです。私が言いたいのは……妊娠初期にあまり負担を掛けない方が良いのではという意味です」
「「！！」」

　言葉の真意が分かった二人は驚愕の表情に変わり固まる。

「ヴェ、ヴェルド様……それは本当ですか？」

　わなわなと震えながら夕夏が聞き直すと、ヴェルドは満面の笑みで頷く。その返事を見た瞬間、夕夏はタクマに抱き着き涙を流す。

「こ、子供が出来たって……私たちの子供が……！」

　自分たちが心待ちにしていた瞬間がヴェルドの言葉によって齎された夕夏は声にならない声で泣いている。タクマは泣いている夕夏の背中を優しく擦りながらヴェルドの方へと顔を向けた。

「タクマさん、夕夏さんおめでとう。貴方たちに新たな家族ができるわ。私も本当に嬉しいです。だからこそ体を大事にしてほしくて明かしました。万が一があってもいけませんからね」

　本当であれば自然と気付くのが一番だと分かっていたヴェルドだったが、王国の雑事が終わりそうな今、タクマ達に知らせた方が良いと判断した。いくらタクマ達に力があるとは言っても旅は妊婦には厳しいものだから。
　いきなりのネタバレに驚きしかなかったタクマだったが、ヴェルドが夕夏を気遣って言ってくれたことが分かり素直に頭を下げる。

「気遣ってくれてありがとうございます。旅に関してはもう一度話し合ってみようと思います」
「そうですね。夕夏さんとの旅行は再度話し合うのが良いかと。それとは関係なくタクマさんには頼みたい事があったのです」

　どうやら夕夏が旅をするのは体調を考えて止めたが、もしタクマが旅に出るのなら頼みたい事があったのだという。多少の気マズそうな雰囲気から察するに、なにか重要な事がある様だ。　
　ヴェルドはひとまず落ち着いてから話をしよう言ってくれたので、タクマは夕夏を落ち着かせていく。タクマ自身飛び上がりたいほど嬉しかったが、自分の代わりに泣いてくれる彼女を落ち着かせていった。

「ご、ごめんなさい。取り乱してしまって……」
「良いのですよ。お二人にとってはそれほどの事実だったのですから」

　落ち着きを取り戻して謝罪する夕夏にヴェルドは優しく語り掛ける。

「どうかお体を大事にしてくださいね。しばらくは無理をしないように」
「はい、十分に注意します」

　場が落ち着いたところでヴェルドは改めて話を再開していく。

「改めて言いますが、もし一人でも行っていただけるなら……タクマさんにお願いしたい事があるのです」

　そう言うとヴェルドは真剣な表情になり、その場に手を翳し淡く緑色に光る玉を生み出した。