異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く?

シ・ガレット

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タクマの決心

ヴェルドの懺悔

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 ヴェルドは掌に浮かぶ緑色の光球を小さく圧縮し、エメラルドのような宝石へと変化させる。そして旅をさせたい理由を話し始めた。

「タクマさんに頼みたい事とは……土地の浄化です。その後これをその地に定着させてほしいのです。タクマさんも分かっていると思いますが、この世界には瘴気というものがあります。そしてそれは途轍もなく人にも世界にも良くないのです。それは邪神の欠片を滅したあなたなら分かるでしょう」

 タクマは実際に邪神の欠片と侵された者を滅している。そして瘴気は生きる者にとって危険な物だという事は痛感している。

「ええ……よく分かります。アレは危険すぎる」
「これまで邪神は悪であり、それを信仰する魔族もまた自身を敵対視する者だと思っていました。しかしタクマさんが邪神の欠片を滅した際のやりとりを見ていた私ははその考えに迷いが出ました。たしかに邪神は瘴気を纏いヴェルドミールの人々はおろか世界自体にも悪影響を与えていた。瘴気は人の負の力であり、それに染まっていた邪神を滅する事は当然です。しかしこうも思い始めたのです。『邪神は元々はただの神ではなかったのか。人の瘴気に染まったことで邪となったのでは』と。あの者の言葉は瘴気に染まりながらも実にしっかりとした考えがあったように感じました。」

 そもそもの原因は瘴気にあり、それをどうにかできないかと考えたのだ。瘴気は生ける者たちの負の力。それを消すことはできない。

「人と魔族は過去凄惨な戦いを続けており、瘴気を増大させる原因にもなっていました。そこで私は邪神が封印された時点で行動に移すことにしました。魔族と人の境界を強制的に作り、お互いを分断することです」

 『分断』その言葉を聞いた瞬間、タクマは表情を強張らせ察した。ヴェルドは瘴気を使い魔族の領域と人の領域を分けてしまったのだ。

「そう、タクマさんの考えている通り。私は瘴気を結界として人と魔族の大半を分断させたのです。しかし……私は間違っていた事を悟りました。タクマさんの傍にいるキーラさんたちを見て」

 決定的だったのはキーラたちの姿だという。それはヴェルドが愛する人たちと何の変りもなかったのだ。そしてキーラたちはタクマ達と理解を交わし一緒に生活している。それがあるべき姿なのだと。
 そこでヴェルドは自分が大きな間違いをしてしまった事に気が付いたという。

「人と魔族は分かり合えると分かった時。私は自らがその機会を奪った事に気が付きました。あなた達家族のような生活もありえた世界を私が無くしてしまった」

 自らの間違いを懺悔するように語るヴェルドの目からは涙が流れている。

「私は贖罪をしなければなりません。ですが私が直接世界に降りてしまうと大きな影響を与えてしまいます。しかも今のヴェルドミールには分体で力を相当に制限しているとは言え、四柱が降りています。更に人神であるお二人もいます。私は自らが世界に降りるのは断念せざるを得ないのです。私の罪滅ぼしに付き合わせて本当に申し訳ないのですが、どうか私の依頼を引き受けてはくれないでしょうか」

 ぽろぽろと涙を流し頭を下げて懇願するヴェルドにタクマは心を打たれる。自らの間違いに気付いてからずっと考えていたのだろう。そしてどうしたら良いか思い至った末に自分に頼んでいるのだと分かったのだ。
 タクマはアイテムボックスからタオルを取り出し手渡した。

「だ……ぐまざん……」

 ヴェルドがタオルを受け取り涙を拭うのを見届けると、タクマは隣に座る夕夏の方を見る。

「タクマ……」

 夕夏はタクマの言いたい事が分かっている。だからこそ余計な言葉はなく静かに頷いた。

「ありがとう……ヴェルド様、その頼み引き受けます」

 夕夏の肩に手を乗せて感謝をし、タクマは引き受けると答える。タオルに顔を埋めて泣いていたヴェルドはゆっくりと顔を上げた。

「い、良いのですか……?」
「ええ、ヴェルドミールは俺の生きている場所です。その仕事が大事だというのは俺にも分かります。家族の為にもなることなら是非もなしって感じです。それに俺を救ってくれたヴェルド様の頼みですから」
「ふ、ふふ……変わりませんね、あなたは。その考えに私も入れてくれるのですね」

 自分の生きる場所の為、家族が生きる場所、そして自分に関わる人たちの場所を護る為に引き受けるタクマに、ヴェルドは泣きながら笑みを浮かべる。
 タクマの行動理念は自分や自分の家族、関わってくれている人の為。それが一貫していて思わず笑ってしまったのだ。そしてそれに自分も含まれていたのが嬉しかった。

「ただ……俺が出来るのは瘴気を浄化しその宝石?を定着させる位しかできませんが……それで良いんですよね?」
「ええ、それさえやってもらえれば人も魔族も動くでしょう。分断を止めれば魔族側にも声を届ける事もできます。その時は全ての方に語り変えようかと思います。そこからどうなるかは……人と魔族次第だと思っています」
 
 
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