俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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脱出

サングラスを外さない客

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ペコペコ頭を下げる俺に、このサングラスの人はちょっと慌てたようだった。
両手を抑えるような仕草をして、宥めるような声で俺を制した。

「分かった、分かった。もう、いいから。ホテルは指定とかあるのか? それとも俺の都合でいいのか?」

「あ、はい。お客さんの都合でオッケーです。一応個室もありはするんですけど数が少なくて……。今日は満室で使えないみたいなんです。それと……、監視は付けてないって言ってたんでホテルに付いたら電話するように言われてます。それでその時、客に代わるようにって言われてて……」

「そうか……」

そうか、と言いながらも何かを考えてるような感じに見える。
顎に手を置いて下を向き、しばらく黙ったままだった。

そして徐に顔を上げる。

「じゃあ、俺が泊っているホテルがすぐ近くにあるからそこにしよう」
「は、はい」
「――こっちだ」

そう言ってサングラスの人は先に立って歩き出した。俺もその後についていく。

行き先は歓楽街には程遠く、駅近で交通に便利な場所だった。
そしてホテルも普通にビジネスホテルで、サラリーマンが出張で泊まる場所として使いそうなところだ。
もちろん客層は色々だし、男同士でラブホは入りづらいからとビジネスホテルを指定する人も結構いる。だから特段不思議な事でもなんでも無い。

しかもそういう客は個室やラブホを使う客とは違って泊りを指定してくる客が意外と多いので、却って店側は歓迎しているようなところがあった。

「ちょっと待ってろ」

そう俺に言いおいて、その人はフロントからカギを受け取って戻って来た。
部屋に入ったところで電話をしなきゃとポケットからスマホを出したら、「ちょっと待て」と制された。

「その店長に電話を代われと言われたと言っていたが、俺の電話からとは言って無かったか?」
「……え? そこまでは指定されてませんでしたけど……」
「だが予約時の非通知はかけなおしを要求するんじゃないのか?」
「あ……、そうですね。多分」
「だよな。ちょっと待ってろ。そろそろ来てくれると思うから」

来る?
誰が?

何だかよく分からないまま居心地悪くベッドの隅に腰かける。
サングラスのこの人は、特にリラックスするふうもなくそれどころか自分の荷物をきちんと片付け始め、まるでこの部屋をチェックアウトする準備にかかっているようにも見えた。

コツコツ。

しばらくして誰かがドアをノックした。
サングラスの人が出ていき、何やら一言二言話をした後戻って来た。

「いいぞ。連絡しても」
「はい。あの、コースはどうしましょうか? 最短だと確か……」
「その店長には泊りだと伝えろ。今からだと……、12時間コースとかあるのか?」
「はい。……あ、あの、でもいいんですか? それだとかなり料金が高くなっちゃいますし……」
「その方が都合がいいだろう」
「……はい。分かりました」

泊りの客なんて、どれくらいぶりだろう。

……確かにこれなら、店長も上客だと思うだろうけど……。

チラッと目の前の客を見る。
相変わらずサングラスはそのままで、室内に入ったにも関わらずそれを外そうとはしない。

……いや、暗い夜道をサングラスをかけたまま歩いているような人だ。室内で外さなくてもおかしくは無いのか?


どうしようこの人……。
最初は嫌々みたいだったけど、本当はかなりの好きモノなんだろうか……。
変なプレイを強要されたりするんだろうか。

俺は心の中で一つため息を吐いて、事務所に連絡をしようとスマホを改めて持ち直した。
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