俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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俺のこと買ってください!

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目の前に立ちふさがる俺に、サングラスの男も立ち止まる。
目を見ることが出来ないので表情までは分からないけど、俺のことを邪魔だと思っているようだ。眉が少し顰められている。

「邪魔だ。ど……」
「俺のこと買って下さい!」

他の人には聞こえないように内緒話をする時のような声で訴えた。だけどしっかり聞こえるように力を入れて話したので、この人には聞こえているはずだ。
余計にその形のいい眉が、ピクリと歪んだ。

「……ふざけたことを言うな。ちゃんと真面目に働け」

そう言って俺を振り払い行ってしまおうとする。俺は慌ててその人の腕を掴んだ。

「ふざけてなんていません。貴方に買ってもらわないと俺、店長から酷いことされてしまいます。お願いです! サービスしますから、俺を助けると思って俺を買ってください。お願いします!」

切羽詰まって必死で訴えると、その人は少し考える素振りを見せた。
ドキドキしながら俺は、その人の返事を待つ。

「……店の名はなんだ?」

「……え? あ、『男花魁』です」
「男花魁……?」

気のせいか、その人の顔がさらに歪んだような気がする。
しばらく黙って何かを考える素振りを見せたその人は、一つ息を吐いて俺を見た。

「一つ聞くが、お前は何でその店で働いているんだ? ギャンブル依存症で金に困ってか? それとも手っ取り早く金を稼げると思ってノコノコと店に行ったのか?」

「……違います。……俺は、俺の母親が変な男にハマって……、そいつが借金まみれで、気がついたら俺はあの店で働くことになってしまってたんです。……こんな仕事、自分で就こうなんて思ったことなんてないです……っ」

思い出したらまた悔しくて、涙が溢れそうになる。

今、俺がこんなに苦しい思いをしている最中も、きっとあいつらは相変わらずバカな生活をしているに違いないんだ。
どこにぶつければいいのか分からない悔しさに、掌をギュッと握りしめる。
本当に、いっそあのヒモと母親を殺すことが出来たらいいのに。

やりようのない怒りを鎮められなくなることは度々あった。
こんなどうしようもないド底辺な生活をしているんだから、人を2人位殺して刑務所に行っても大差なんて無いだろうに……。
チキンな俺は、それすらも出来ないんだ。

「……分かった。ホテルにでも行けばいいのか? なんて言われてる? 監視は?」

「……は、え!?」

頭の中でごちゃごちゃと考えていたところに突然の返事でびっくりした。

「…………」
「…………」

……あ、今……この人"分かった"って言ったんだ。それって、俺のこと買ってくれるって事だよな?

「あ、ありがとうございます、ありがとうございます!」

これであの店長のお仕置きを受けずに済む。
嬉しくてホッとして、俺はそれこそ何度も何度も頭を下げた。
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