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向き合わされる感情

そんなことかよ!

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「悪かったな……」
「…………」

どういうこと?
やっぱり俺のこと、避けてたの?

「お前のことを気持ち悪いだなんて思うわけが無い。大体、お前の過去なんてとうに知っている」
「うん。……でも、だったら何で毎晩飲まなくてもいいお酒なんて飲みに行ってたんだよ?」

そう問い詰めると、灰咲さんは『うっ』って感じで言葉に詰まった。

そしてポリポリと頭を掻いてソファにドカッと座った。


「――今の仕事が、煮詰まっててな」
「は? え、仕事?」

思いもよらない返事に、素っ頓狂な声が出た。
仕事?
俺のことが気になってたわけじゃなくて、仕事!?
ええっ!??

呆けた顔で灰咲さんを凝視すると、灰咲さんはますますバツの悪い顔になっていく。

「……昔からの癖でな、煮詰まると酒を飲みに行きたくなるんだよ。……そうすると、筆の進みがよくなると言うか、刺激を得られてアイデアが浮かぶと言うか……」
「はいい!?」

なにそれ!
さんざん人を心配させて、真相はソレ!?

あんぐりと言うか、人を舐めんなと言うか……。
勘違いし続けた俺も悪いかもしれないけど、でもあの態度!
あんな態度を続けられたら、どう考えたって俺のせいだと思うだろ!

「スマン。……ついつい、尚哉に甘えちまってた」

シュンとしてポツリと呟くように謝る灰咲さんに……、キュンとしちまったじゃねーか!!

あ”あー、もう!

「もういいよ! ……まあ、勝手に考えすぎた俺も悪いかもしれないし……」
「スマン。……風呂、入ってきても良いか?」
「……う。ゴメン、引き止めて。でも酒入ってるんだよな、気を付けて入ってよ」

「ああ、大丈夫だ。もう遅いから、尚哉は寝てろ」
「うん。そうする」

馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しすぎて、安心したらだんだん眠たくなってきた。

「……お休み」
「お休み、尚哉」

寝室のドアに手を置いて、あっと思った。

「灰咲さん、また明日も飲みに行くの?」

「――いや、スランプも何とか抜けそうだし。そろそろ尚哉の美味い飯が食いたい」
「あ! うん! だよね、俺もちゃんとした飯、そろそろ食いたいって思ってた!」
「え?」
「あ、何でもない、こっちの話。――じゃあ、明日は美味しい物作るから、期待しててよね」
「ああ、そうする」

久しぶりの笑顔の灰咲さんに、ホッとすると同時にキュンとした。
どうやら俺にとっての灰咲さんは、俺が今まで出会った人とは違う何かを持っているらしい。
それが何なのかは分からないけど、だけどそれは時々俺をモゾモゾさせて、それと同時にじわじわと俺を幸福感に包んでくれる。

何なんだろうなー、この気持ち。

分からないけど、ただ一つ言えることは、灰咲さんの傍にずっといたいという思いだ。

ボフンとベッドにダイブして、灰咲さんのベッドに目を向けた。

俺が起きてるうちに、風呂から出てこないかなぁ。


そんな事を思いながら、俺は落ちる瞼と格闘していた。
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